製造工程管理業務従事者に発症した中皮腫で労災請求/京都
2024年8月11日、安全センターに相談の電話がかかってきた。相談者は大阪住まいのAさん。経歴を簡単に説明すると、高校を卒業してから60才で定年退職するまでずっとP社(当時はM社)に勤めていが、2022年に調子が悪くなり病院に行く。そして、様々な検査の後、2023年7月に中皮腫と確定診断されたという方だ。
相談は、「中皮腫というのはアスベストに関連した病気だそうだが、何か補償はないか」ということだったので、労災保険制度と、環境再生保全機構のやっているアスベスト健康被害救済給付を紹介した。
まず救済給付の話だが、これは、ばく露歴に関係なく、基本的にアスベスト関連疾患と認められればもらえる給付金だ。その疾患の認定基準が度々問題になるのだが、中皮腫と確定診断されているのであればほぼ受け取れるものである。実際今回も、Aさんの娘さんに頑張って申請していただき、審査に4か月ほどかかったものの、給付された。これで一旦は余裕ができた。
次に労災保険についてだが、これは、その人がアスベスト関連疾患であることに加え、業務でアスベストにばく露したことが証明されると支給決定される。疾患の方は中皮腫なので認定基準的には問題ないとして、大事なのは職歴の方である。電話口でざっと聞いていた経歴では、コンデンサの製造に関わっていたということだったので、その製作過程でアスベストを扱うことがあったのかなと思っていたのだが、実際に会って話を聞いてみると、スピーカーの組み立てやコンデンサの組み立ては最初の数年で、しかも携わった工程ではアスベストを使ってなさそうだった。その後は品質管理部に異動し、コンデンサの機能検査を1年ぐらいやった後は、工場内(製品はほぼコンデンサ)の工程検査を定年までずっとやっていたということだった。
工程検査も、一見(一聞?)アスベストを扱っているような作業ではなかったのだが、詳しく聞いてみると、様子が違ってきた。週に1、2回工場内を見回りするのだが、その工程で、ほこりがあると品質が落ちるので、機械の裏や、天井裏にも入って見回りしていたというのである。天井裏に入っていたということは、吹き付け材がむき出しになった場所をうろついていたということだ。当時の時代を考えれば、当然その吹き付け材にはアスベストが含まれているだろう。
それをもっと確固たるものにするために、神奈川労災職業病センターの鈴木江郎氏が毎年情報開示してくれている、「全国の労働基準監督署に提出された石綿除去工事の一覧表」を調べてみると、2006年に、Aさんが勤めていた工場が京都南労基署に吹き付け材の除去工事を申請していた。そこでその計画書を開示請求してみたのだが、実はこの工事で石綿除去をした場所に関しては、Aさんとそんなに関係のない所だった。しかし、それでAさんと関わりないというわけではない。むしろ、よい証拠になるのである。通常、除去工事は、吹き付け材等の飛散の危険が高いものが「むき出し」になっているところに行うもので、天井板で密閉されている天井裏には行わない。鉄骨造りの建物は鉄骨全体に耐火被覆をするので、天井裏に吹き付けがされなかったわけはなく、また、吹き付け材を場所によって変えることもまずない。そうすると、Aさんが歩き回っていた天井裏には吹き付け材があり、それは今回除去された吹き付け材と同じものだと考えるのが妥当で、Aさんのばく露の証拠の一つになるというわけだ。
こちらの弱いところは、AさんがP社で働いていたことは年金記録ではっきりしているのだが、Aさんの作業内容を証言してくれる人がおらず、Aさん本人の言葉だけによっているところだ。当時の同僚は連絡を取れる人がいない。そして、腹の立つことに、P社の現従業員はあまり協力的ではなく、作業内容の証明不可は記録が残ってなかったら仕方ないとしても、上記の工事の資料も持っているが渡せないと言われてしまった。労基署から連絡があったら最大限対応するとのことだったので、調査官に頑張っていただくほかない。
そんな形で、Aさんの陳述書と開示した工事の資料を付けて、京都南労基署に労災請求した。今は調査中だが、一刻も早い支給決定を願う。
関西労災職業病2025年6月566号