過労死防止対策推進シンポジウム講演レポート~本人も気付かない頑張りすぎに注意

2025年11月10日、大阪のコングレコンベンションセンターのホールにて、厚労省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムが開催された。このシンポジウムは毎年11月の過労死防止啓発月間に全都道府県で開催されている。目的は、過労死等の現状や課題、防止対策について考えることで、例年、過労死をテーマに労働局の取組報告や専門家の講演、実際に過労死防止や職場改善に取り組んでいる企業の取り組み紹介などが行われる。
今回のシンポジウムでは、労働局の報告と、産業医科大学産業衛生教授の宮本俊明氏による「日本人は、無理せず健康的に快適に働くことができるのか?」、株式会社高島屋人事部の木村敦氏による「育児介護両立支援の取組みと法改正への対応」という講演、業務で家族を亡くされた方の遺族のスピーチがあった。以下の章では、各講演で、気になった点に触れる。

1.メイン講演 非常時には頑張りすぎに注意

宮本俊明氏の「日本人は、無理せず健康的に快適に働くことができるのか?」という講演は、「脳心臓疾患、精神疾患に関する労災、公務災害について」「非常時対応について」「ハラスメントについて」「ストレスチェックの目的と利用方法について」などについて実地調査も含めた研究内容の報告だった。話題が幅広かったので、なるほどと思ったり気になったりしたことを2点ほど抜粋して書く。
1点目は、災害対応についてである。
2020年~2023年の、コロナ禍での公務員や医療機関のパンク具合は記憶に新しいが、災害が起こると、被災した人はみな災害対応で忙しくなる。それこそ、復興のために長時間不眠不休で活動する人も出てくるのだが、災害直後は、なんだかんだそれができてしまうという。しかし、実はそれが問題だと宮本氏は言う。災害が起こった時の心理的な反応として、災害発生から1週間~数か月の間は、なんとかしなきゃという使命感や他者との活動を通した連帯感からハネムーン期と呼ばれる状態になり、気分が高揚して、体の疲れに気が付かず活動を優先してしまうからということだ。やれるから、元気なんだからと仕事をいっぱい任されて、後で身体的にも精神的にもとんでもなく負担になるということが起こりがちになる。なので、活動する本人も仕事を任せる人も、自分たちの心理状態がいつもと違うということを認識して、無理のないペースでやる、あるいはやらせるということが重要なのだそうだ。
これは、災害のみならず、仕事上で急なトラブルが発生した場合なんかも同様のことが言えるだろう。非常時には、通常と違う心理状態になっている可能性があることを念頭に置いて、体調を気遣いつつ対応しないといけない。
ただ、本人自身はそのことに気が付きにくいので、重要になるのが専門医の面談ということになるのだが、宮本氏はその制度にも問題があったと話された。2020年、台風12号によって各地に被害が出たとき、彼は千葉県の避難所へ行って復興活動のボランティアをした。避難所の担当者は交代制で、人員の配置がまずいとそれこそ不眠不休になってしまう。彼は2つの自治体にボランティアに行ったとのことだが、1つの自治体では体調不良で活動を中断する職員が出なかったが、もう一方では多数の職員がダウンした。違いはというと、被災住人向けの医師は両方の自治体にいたのだが、職員向けの医師は体調不良が出なかった方の自治体にしかいなかったというのである。そこで、彼が医師がいない方の自治体の職員に産業医みたいな制度はないのかと聞いたら、実は普段は相談できる産業医がいるのだが、こういう災害時に出勤してもらうにはお金がかかるので、来てもらうには一旦議会を通さないといけないという答えが返ってきたとのことだ。民間企業なら非常時は責任者の一存でどうにかなるだろうが、公務員だと資金が税金なのでそうもいかないようだ。バカな話だと思うが、それならそれで、普段から災害時の対応の中に職員向けの心身のケアをどうするのかも入れておかないといけない。
2点目は、責任ということの考え方についてである。
厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」のアンケートで、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」と答えた労働者のうち、その理由について、一番割合が多かったのが、「仕事の失敗、責任の発生等」で39.7%だったそうだ。宮本氏が言うには、これは日本人の責任についての考え方が影響しているのではないかとのことで、日本では何かトラブルが起こった時に、何が起こったのか、何が問題だったのかを考える前に、まず責任者を決めてしまって、その人が償いをすることになる。航空機事故などが起きても、何が原因だったかの前に警察がとりあえず責任者の逮捕に向かう。私も、メーカーに勤めていた時は、何かトラブルがあるとまず担当責任者決めからしていたように思うし、今でもともすればそういう考えになりがちだ。しかし、確かに、安全衛生的にもトラブルの解決としても、誰が悪かったかではなくて何が悪かったかが重要である。意識しておかないといけないことだ。

2.企業の取り組み報告 現場の声を聴いた細やかな支援制度

次に、木村敦氏による「育児介護両立支援の取組みと法改正への対応」という講演では、高島屋グループが行っている育児介護に関わる支援制度の紹介がなされた。
高島屋で働く職員は講演当時で約35000人、その内約8割の28000人が、高島屋が取引している外部店舗や企業の職員で、高島屋自身が雇用しているスタッフが約7000人となっている。この支援制度はその7000人を対象にしたものになるわけだが、その7000人のうち、7割程度が女性だそうだ。一般的に介護離職は女性の方が圧倒的に多いのだが、そういった事情もあり、高島屋では以前から育児介護に対して、仕事との両立を支援する制度、環境の整備に力を入れているそうだ。
具体的な制度として、まず育児休業については子供が3歳になるまで取得可能だ。さらに、本人または配偶者が出産となった場合、有給の休業が、育児休業として2週間、さらに2022年に新設された出生時育児休業として2週間の合計4週間与えられるということである。また、妊娠や出産の報告が対象者からされたとき、この有給休業制度の利用を管理監督者から促すようにしているとのことで、5年連続で、男性の取得率が100%であるとのことだった。こういった制度について、管理者側から使用を促すという部分が偉いと思った。私の会社員時代の経験からすると、上から言われないと、よっぽどのこと(布団から動けないぐらいの体調不良等)がないと有給を使うなんて考えられなかったので、制度を作るだけでなく、使用を促して、しかも取得率が100%になっているというのは素晴らしいことだ。
また育児期間の時短勤務については、子供が小学3年生以下の間は設定可能で、フルタイム勤務が7時間35分のところ、最短を5時間として、6時間、6時間45分という風に小刻みに決めることができ、早番と遅番含めて10個のパターンから選択できるということである。また、特定の曜日は働けるという場合であれば、本人の希望により、例えば火曜日だけはフルタイムで、残りは5時間勤務という風なシフトを組むこともできるとのことだ。また、通常勤務では早番と遅番を本人が選ぶことはできないが、上記の時短勤務期間が終わった後でも、子供が小学6年生以下までなら、早番のみを選択することができるそうだ(遅番は終わるのが午後8時10分になるため、育児と両立が困難との声が現場から上がったらしい)。また、GWなどの繁忙期限定ではあるが、日曜祝日に出勤したいが保育所が閉まっていて子供を見ないといけないというときに、本人の希望によって預けられる社内の保育所もあるとのことである。
ちなみに、2015年には時短勤務使用者のうち24%がフルタイム勤務を含めた組み合わせで働いていたが、2025年には54%がそういう組み合わせで働いており、より働けるパターンを選択している比率が上がっているそうだ。これについては、制度の浸透や会社側の利用の促しなどもあるのだろうが、それよりも不景気が影響してそうで、ちょっと複雑な気持ちになった。
また、介護休業については対象親族1名につき1年、介護時短勤務は休業明けから9年設定でき、シフト内容は育児時短勤務と同様だそうだ。
さらに、休業後と時短勤務期間後の復帰や、キャリアの継続についての悩みを、同様の悩みを持った先輩社員や同僚とペアリングして、意見収集や実態調査する催しなども行っているとのことである。
こういった取り組みの結果か、1991年には女性の勤続年数が平均6.2年だったのが、現在は26.8年にまでなり、ついに男性の平均勤続年数を抜くに至ったそうだ。女性の勤続年数がこれだけ上がったのは、時代の流れの影響もあるだろうが、働いている女性職員が育児や介護を理由として辞めなくてよいと感じているからというのも大きいのだろう。それを支える素晴らしい取り組みだと思う。

3.まとめ

今回シンポジウムに参加して、過労やハラスメントで心身をやられる人は、当然かもしれないが、真面目で、頑張りすぎたり責任を負いすぎる人が多いのだなと感じた。その点では私は多分大丈夫なのだが、そういった本人も意識せず頑張りすぎてしまう人のためには、専門医の面談しかり、高島屋の有給取得しかり、制度をしっかり決めて、それを周りから守るよう促さないといけないのだろう。今後も、厚労省交渉で労働者を守る制度の確立を促すとともに、相談してくる人たちのサポートを続けていく。(事務局 種盛真也)

関西労災職業病2026年2月573号