過労死防止法成立から10年/過労死防止大綱、3度目の改定
過労死等防止対策推進法(過労死防止法)は2014年11月1日に施行され、2024年11月で10年が経過した。
過労死防止法は、家族を過重労働のために亡くした遺族たちが、補償を勝ち取る戦いの後に、二度と同じ思いをする人があってはならないとの思いに集結し、望みをかけて成立に尽力してできた法律である。
過労死防止法は、主に国は「過労死等の防止のための対策を効果的に推進する責務を有する」と定める。そして、地方公共団体にも、対策を推進する努力義務を課し、事業主にはこれら対策に協力すること、国民には関心と理解を深めることを努力義務とする内容である。
要するに、過労死防止対策を国主導で推進するとする、罰則も何もない「理念法」である。
とは言え、国が過労死防止対策に予算を割き、過労死防止のための調査・研究を行い、過労死遺児への支援事業も可能となり、対策に関して当事者である遺族らが意見を出すことができることとなった。
詳細は「過労死等防止のための対策に関する大綱(過労死防止大綱)」で定めるとなっているが、国が作成する大綱に意見できる機関として「過労死等防止対策推進協議会」が設置され、協議会の委員は、過重労働で疾病を発症した労働者本人や家族・遺族の代表、労働者の代表、使用者の代表、有識者で構成するとされている。
過労死防止大綱は、過労死防止法の翌年に策定され、以来、3年ごとに見直しが行われ、今年2024年は、3度目の改定が行われた。
「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が本日、閣議決定されました(2024年8月2日 厚生労働省)
今回の主な改定点は次の4点としている。
- 大綱策定10年を振り返り、更なる取り組みを推進
- 時間外労働の上限規制の遵守の徹底、過労死等防止指導、フリーランス等対策を強化
- 業種やハラスメントに着目した調査・分析を充実
- 国以外も含めた関係者による取り組みを推進
1は過労死防止大綱策定から来年で10年となるため更なる取り組みを推進するという目標である。
2つ目以下について簡単に補足する。
2.時間外労働の上限規制の遵守の徹底、過労死等防止指導、フリーランス等対策を強化
2024年4月から時間外労働上限規制が適用されるようになったトラック運送業、医療従事者、建設業と教職員、情報通信業での取り組みの推進を行う。トラック運送業については、「トラックGメンによる」是正指導強化、「標準的運賃」の8%引き上げ改定による取引環境の適正化への取り組みを推進する。医療従事者には、医療勤務環境改善マネジメントシステムの普及や都道府県医療勤務環境改善支援センター等による支援などを行う。
再発防止対策として、一定期間内に複数の過労死を発生させた企業に対して、「過労死等の防止に向けた改善計画」の策定を求め、助言・指導を実施する。
11月に施行される「フリーランス・事業者間取引適正化法」の周知、履行確保、また「個人事業主等の健康管理に係るガイドライン」に基づき、個人事業主や注文者による取組を促進し、対象を拡大した労災保険特別加入制度による環境整備。
勤務間インターバル制度導入の促進を図る、となっている。
3.業種やハラスメントに着目した調査・分析を充実
事案の分析や調査の対象としてきた重点業種の自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界に芸術・芸能分野を追加する。また、フリーランスや高年齢労働者、労働時間が自己申告制である労働者など、働き方や就労環境、属性に焦点を当てた調査も行う。
ハラスメント防止措置の状況に関する調査分析、カスタマーハラスメントによる心理的負荷に関する調査を行う。
過労死の予防研究と支援ツールの開発の実施や研究成果や最新情報を専用ポータルサイト「健康な働き方に向けて」(2023年に開設)や働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」で公表、情報発信を行う。
4.国以外も含めた関係者による取り組みを推進
ハラスメント対策に加えてカスタマーハラスメント対策の取り組み支援を行う。また国家公務員についても2024年4月から努力義務となった勤務間インターバルの取組を推進する、相談体制のさらなる充実、過労死の取組について国際社会に向けても発信する、学校での啓発授業において増加に努めるなどとされた。
また、過労死防止大綱では、過労死をゼロとすることを目指して、数値目標を設定している。(下表)
2023年度の過労死関連の労災認定状況については、本誌2024年7月号で報告した。
脳・心臓疾患の請求件数・認定件数はこの10年減少してきているが、コロナの影響で2020年、2021年と少なくなった後、増加に転じている。しかしながら、労災認定率でいうと低迷している。
精神疾患は毎年、右肩上がりに請求件数・認定件数ともに増加、しかし、認定率は30%程度で横ばいである。
過労死防止法ができて10年、国が予算を付けて様々な取り組みがされてきたが、果たして過労死・過労自死が減少したかと言うと疑問に感じる。
毎年、11月の過労死防止啓発月間に行われる過労死等防止対策推進シンポジウムでは、新たな遺族の話を聞き、また日々報道で新たな事案のニュースを眼にし、まだまだ過労死ゼロには程遠いと感じている。
関西労災職業病2024年11・12月560号
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