2023年度過労死等、精神障害の労災補償状況公表

2023年(令和5年)度の「過労死等の労災補償状況」が厚生労働省ホームページに公表された。

脳・心臓疾患の労災補償状況は、請求件数1023件、決定件数667件、支給決定件数216件で、認定率は32.4%だった。

精神障害の労災補償状況は、請求件数3575件、決定件数2583件、支給決定件数883件で、労災認定率は34.2%だった。

どちらも請求件数は増加しているが、労災認定率については低下している。

以下に詳しく見ていこう。

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コロナ後請求件数増加

脳・心臓疾患の労災補償状況は、表1-1の通り、新型コロナウイルス感染症の流行の影響か、2020年度から請求件数は減少していたが、2023年度は急増、2022年度より220件増加した。決定件数も509件から667件へと158件増加し、支給決定件数は194件から216件と22件増加した。コロナ流行が収束して長時間労働が増加したと考えられる。コロナ前の2019年の請求件数は936件、決定件数は684件、支給決定件数は216件だったので以前の水準に戻ったと言える。

しかし、認定率については、2022年度が38.1%まで少し回復していたのが、2023年度は32.4%に落ちた。また、同時に公表されている審査請求事案の取り消し決定件数は、2022年は9件だったのが、2023年はわずか3件で、3件すべて死亡事案だった。

運輸業がダントツ多く

業種別の状況を見てみよう。支給決定件数が1番多かったのは、「運輸業・郵便業」で75件(請求件数244件、決定件数159件)、これは毎年変わっていない。ただし、2022年は支給決定件数56件だったのが19件も増加しており、請求件数、決定件数もそれぞれ172件から244件、111件から158件へ大幅に増加した。コロナ流行下で通信販売の利用者などが増加していたが、2023年度も変わらず「運輸業」で増加傾向にあるというのは、この業種の長時間労働防止対策がなされていない、もしくは効果がないという表れかもしれない。全支給決定件数216件のうちの75件、つまり35%を占めているので、効果的な対策は必須である。2位は「卸売業・小売業」で29件(請求135件、決定88件)、3位は「宿泊業・飲食サービス業」25件(請求78件、決定51件)、4位は「建設業」23件(請求123件、決定75件)だった。5位は「サービス業」同じく17件(請求119件、決定82件)で次が「製造業」16件(請求89件、決定64件)となっている。特徴としては、上位の業種は認定率が、「運輸業」47%、「卸売業」32.9%、「宿泊業」49%と高い。支給決定件数が10件だった「医療・福祉」だが、請求件数は95件と5番目に多く、決定件数は59件、しかし認定率は16.9%と前回(22.5%)以上に低かった。

職種別で見ても、支給決定件数1位は「輸送・機械運転従事者」で67件(請求件数200件、決定件数138件)と全体の31%を占めている。2位は「サービス職業従事者」で29件(請求135件、決定99件)、これは調理や接客従事者である。3位は「専門的・技術的職業従事者」22件(請求156件、決定76件)で建設関係や教員が多い。4位は「管理的職業従事者」21件(請求42件、決定39件)で、5位は「販売従事者」19件(請求92件、決定68件)だった。認定率を見ると「輸送・機械運転」は48.5%と高く、それ以上に高いのが「管理的職業」の53.8%でこれは請求件数が「輸送」の5分の1ほどであるが、認定されやすいようだ。他はどの職種も「サービス業」の29.2%以下、ほとんど20%台と低くなっている。

年齢別では、50~59歳の支給決定件数が96件で一番多く、次に60歳以上が54件、40~49歳が53件となっている。高齢の就労者増加している傾向にあるので、60歳以上も60代と70歳以上に分けてほしいところだ。

やっぱり低い大阪の認定率

次に都道府県別表があるが、支給決定件数が1番多いのは大阪の21件だった。次が神奈川、福岡の16件、愛知の15件、次が東京の14件、京都の11件、以下は一桁となっている。

ちなみに2022年度は東京24件、神奈川18件、大阪17件、愛知11件だった。

請求・決定件数では、1位の大阪から請求123件・決定85件、神奈川86件・63件、福岡41件・26件、愛知77件・50件、東京158件・75件、京都35件・29件で、東京は請求件数に対して決定件数がかなり少なく、認定率もわずか18.6%、大阪も24.7%、神奈川25.3%と非常に低く、京都が37.9%、愛知30%とこちらも高くはないがなんとか30%というところだ。隣の兵庫県は決定件数27件のうち支給3件で11.1%の認定率という低い値になっていて、昨年の33.3%からかなり下がっている。反対に新潟では請求・決定件数4件で支給決定4件の100%で、全体的に請求件数が多い都道府県では低い認定率となっている。

労働時間別ではもちろん80時間以上100時間未満の支給決定が60件で一番多く、次に100時間~120時間未満が45件、そして2022年に80時間未満でも他の要因を考慮するよう認定基準が変わってから60~80時間未満も41件と多い。また同じく2022年度から労働時間数以外の「短時間の過重業務・異常な出来事」も2021年より10件ほど増加し26件、23年も26件となっている。

請求が3500件超えに

2023年度の精神障害の労災補償状況は、請求件数は892件増加して3575件、決定件数は597件増加で2583件、支給件数は173件増加して883件となった(表2-1)。

認定率は34.2%で2022年度の35.8%から少し下がったがほぼ同じ水準である。

審査請求事案の取り消し決定は、18件で2022年より7件減少、その前の2020~2022年が25件、22件、25件と20件台だったので、けっこう下がっている。

業種別の支給決定件数では、「医療・福祉」が219件(請求件数887件、決定件数627件)で1番多く、支給件数で55件、請求・決定件数でもそれぞれ263件・153件も増加した。2位は「製造業」で支給121件(請求499件、決定414件)、3位「卸売業・小売業」103件(請求491件、決定355件)、4位は「運輸業・郵便業」101件(請求311件、決定255件)、5位は「その他の事業」91件(請求359件、決定244件)、6位「建設業」82件(請求194件、決定154件)だった。「医療・福祉」については、中分類でも1位「社会保険・社会福祉・介護事業」2位「医療業」で、この2つで全体数の約4分の1を占めている。2024年問題として注目されている医師業、建設業、運輸業だが、脳・心臓疾患よりも精神障害の件数が圧倒的に多い。後で、時間外労働時間別の統計で詳しく述べるが、精神障害の労災認定で1か月80時間以上の長時間労働があった支給件数は883件のうち174件のみなので、長時間労働対策以上にメンタルヘルス、ハラスメント対策が必要だ。

職種別の支給決定件数で見ると、「専門的・技術的職業従事者」が259件(請求件数990件、決定件数714件)で1位、「事務従事者」が154件(請求782件、決定541件)で2位、3位は「サービス職業従事者」126件(請求578件、決定344件)、4位は「販売従事者」78件(請求352件、決定271件)、5位「生産工程従事者」74件(請求310件、決定231件)となっている。これは中分類で見ると、「専門・技術」は保健師・看護師と社会福祉従事者が上位を占めていて、さらに「サービス業」の中でも介護サービス従事者が上位に入っているので、やはり「医療・福祉」関連の職業従事者が多いのがこのことからもわかる。事務従事者では一般事務従事者が107件と圧倒的に多い。

年齢別の支給決定件数では、40~49歳239件、20~29歳206件、30~39歳203件、50~59歳190件で、40代が少し多いがほとんどの年齢層で同じくらいの件数があると言えるだろう。それぞれ前の年からは20~30件増加しているが、50代に関しては71件と大幅な増加となっている。

請求件数の多い都道府県は認定率低く

都道府県別の労災補償状況について、全体の請求・決定・支給決定件数が増えているので、これも増えているかと思いきや、いつも件数が一番多い東京は支給件数が2022年の127件から2023年117件に減少、請求件数は540件から758件に大幅に増加しているが、決定件数は428件から433件へとわずかに5件増えたのみなので、請求の多さに対して調査が追いついていない可能性がある。他はほとんど増加しており、大阪は56件から85件へ、愛知は35件から62件へとかなり増えており、特に大阪は300件の請求件数に対して決定件数が293件で件数だけ見ればほとんど決定まで至っていることになる。2022年の決定件数162件から293件に131件の増加なので、これについては大阪労働局に詳細を聞きたい。都道府県別の認定率を見ると、支給件数が1桁の都道府県を除いて、2桁以上の支給決定がある中では、大分の68%(決定25件、支給17件)が一番高く、山形63.6%(決定22件、支給14件)、和歌山62.5%(決定16件、支給10件)、岡山53.6%(決定41件、支給22件)、新潟52.9%(決定34件、支給18件)、三重52%(決定48件、支給25件)、50%なのが滋賀(決定26件、支給13件)と佐賀(決定20件、支給10件)で、あとは50%を切っている。最も認定率が低かったのは神奈川の24.5%(決定204件、支給50件)、それから京都24.6%(決定81件、支給20件)、次が東京の27%(決定433件、支給117件)と兵庫27.6%(決定112件、支給31件)、大阪も相変わらず低く、29%(決定293件、支給85件)だった。気になったのは、新潟が脳・心臓疾患でも4件とはいえ認定率100%、精神障害でも52.9%と高いので、意見を出す労災医員や労基署の判断が認定に積極的なのかもしれない。

時間外労働時間別では、20時間未満、20~40時間未満、40~60時間未満と続いて160時間以上まで、20時間区切りで支給決定件数を分類しているのだが、20時間未満が大きく24件減少して63件となっている以外は、全体でほぼ同じか、増加した。特筆すべきは、「その他」に分類された心理的負荷が極度と認められる出来事があり、労働時間を調査するまでもなく業務上と判断した事案の件数で、528件と全体の59.7%に当たる。しかも2022年度の360件から168件も増加している。また80時間未満は、労働時間の負荷で認定されたものではなく、合わせてほかの出来事もあって認定されたものと推測されるので、80時間以上の時間外労働があった認定件数のみを合計すると174件で、全体の19.7%だった。では、圧倒的に多い長時間労働の負荷以外の出来事によって業務上とされた事案の内容については、後で心理的負荷となった出来事別の件数で見てみよう。

ハラスメント事案が40%を占める

出来事別で支給決定件数が一番多かったのは、「パワーハラスメントを受けた」157件でダントツに件数が多かった。2位は「悲惨な事故や災害の体験・目撃をした」で111件、3位は「セクシュアルハラスメントを受けた」の103件で2022年度より37件も増加、4位は「仕事内容・量の変化を生じさせる出来事があった」の100件だった。5位は「同僚からの暴行・いじめ嫌がらせを受けた」で59件、次に昨年9月に新設された「顧客などからの迷惑行為を受けた」いわゆる「カスタマーハラスメント」がわずか6カ月の期間で52件も認定された。やはり、ハラスメント関連の出来事だけで、支給件数の40%を占めている。また、昨年同じく新設された「感染症など病気や事故の危険性が高い業務に従事した」はコロナ対応や危険な化学物質にさらされる業務を想定していたが、わずか2件だったのが意外だった。他に「特別な出来事」は71件あり、10件増加した。

昨年9月に、心理的負荷評価表の出来事が改定され運用が始まったが、それが労災認定にどのような影響があったのかは、今回のみではっきりとは分析できない。少なくとも、新設された「カスタマーハラスメント」の項目は半年で52件が支給決定され、今後も増加するのではないかと予測される。請求件数自体が相当増加しており、各出来事の件数も増加している一方、労災認定率が上がったということもないので、今のところ、今回の改定は分類分けしやすくなったという効果くらいしか分からない。

全国労働安全衛生センター連絡会議では、秋にこの過労死関連の労災認定状況やメンタルヘルス、パワーハラスメント対策をテーマに、厚生労働省と交渉を持つ予定である。今回の補償状況も踏まえ、労働者のメンタルヘルス対策が進むよう働きかけたい。

関西労災職業病2024年7月556号