荷崩れ事故で建設技能実習生が骨折●大阪

技能実習生のタマさんはちょっと不思議な雰囲気をまとった人物で、結構な頻度でどこか別の世界に気持ちが飛んで行ってしまうような、周りからも少し浮いたところがある若者である。もっとも会社でもプライベートでもいじめられることもなく、本人に言わせると誰とも仲良くやっていたという。職種は鳶で、足場の組立・解体がおもな仕事であった。
2024年6月、建設現場から足場材を運んで帰る途中、トラックに積まれた資材が走行中にトラックから転がり落ちそうになった。日本人の同僚とふたりで直そうとしたが、力及ばず資材が落下、右足を強く打ち、距骨を骨折した。事業所の記載した事故発生状況によると、「現場の帰り道、材料をトラックに積んで走っていたら、材料が崩れそうになったため、トラックを止めてロープをしめなおそうとしてロープを外した際、材料が足に当たって骨折した」というものである。タマさんは、足場材の踏み板の位置が荷台後方ではなく真ん中に配置されるべきだったと1cm × 1cm程度の絵を描きながら解説してくれるが、事故の概要を見ても実際に積み荷が荷崩れするような積み方をしてしまったことには違いない。
足場材をトラックに搭載することに関しては、積み込み時の安全対策について昨年10月から強化され、2トン以上のトラックについても昇降設備の設置およびヘルメットの着用が義務付けられたが、このような事故を防ぐためには荷崩れしない正しい積み方も習得しておかなくてはならない。足場会社のウェブサイトをいくつか覗いてみるといずれのサイトにも安全な運搬方法が紹介されており、①荷台の中心に重心が来るように積むこと、②左右に重量が均等にかかるようにバランスを取ること、③隙間を埋める等、走行中にずれないようにすること、と記載されている。また、荷台ロープの締め方も紹介されており、これらをひっくるめて紹介する動画も多くみられる。
崩れたのは1度だが、タマさんによると、その日荷崩れる前にも1度停車して荷台ロープを締め直していたそうである。2回も締め直す機会があったということは、それだけ荷台が不安定だったにちがいない。タマさんをよく知る人々は、「彼が積み直しの手伝いなんかするわけないじゃないですか。きっと明後日の方向を向いていたのでしょう」と言うが、積み方に問題があるのだから、本人の言うように崩れないよう支えていようと、他人の言うようにトラックの側でぼんやりしていようと、発生してはならない事故の被害者であり、正当な補償を受けなくてはならない。
症状固定までリハビリテーションを処方してくれた主治医によると、骨折部位は歩行にそれほど影響を与えるものではないということだが、MRI画像を見せてもらうと原型をとどめていないほどいびつな形で癒合している。タマさん自身も未だに疼痛を抱えて足を引きずりながら歩いており、鳶として技能実習を満了することはとうに諦めた。今後どうしていこうかと、障害補償給付の決定を待ちながら、日本語検定試験の教本を開いたり、国の家族と電話をしたりしながらなんとなく考えている。

関西労災職業病2024年11・12月560号