ドボンで解消、熱中症。パネル水槽導入した大阪市消防局●大阪

熱中症の搬送件数を消防庁で調査するようになったのは平成20年度からだが、当時その数は年間12000件から25000件程度だったものの、平成22年に56000件と急増し、平成30年には95000件に及んだ。

職場での熱中症も、平成13年頃は「暑熱な場所における業務による熱中症」は200人弱が報告されているにすぎなかったが、平成22年から急増し、これに伴い死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者数も増加している。この結果、第13次労働災害防止計画(平成30年度~令和4年度)においても、職場での熱中症による死亡者数を前の5年間と比較して、5%以上減少させることを目標とし、「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」を実施してきた。

キャンペーンポスターを見ていると、暑さ指数(WBGT値)の把握を奨励し、熱中症が発生しやすい日時に警戒することを訴えるとともに、労働者の意識と予防を呼びかけている。夜更かし、食事抜き、二日酔いなど控え、自分の健康状態を過信せず、また、口渇を覚える前に水分および塩分補給を行うことが代表的なものである。

事業所の協力が必要なものは、近年一般的になってきたクールジャケットの着用や、保冷材の支給、スポットクーラーの設置、休憩場所の確保、十分な休憩時間を取り入れた作業計画が挙げられるが、これらも事業所によって事情が異なり、たとえばクールジャケットは粉じん作業の現場では発生した埃をジャケット内に吸いこんでしまうし、港湾でもジャケットの袖を作業中に引っかけてしまうので不向きという話であった。

実際に事業所がどのような熱中症対策をしているのかというと、水分・塩分補給を行うという会社が多く、給水も水が良いかスポーツドリンクが良いかという話になるくらいの違いで、あまり差異はない。また、これらは労働者それぞれが能動的に行うもので、何か事業所が熱中症予防のための環境作りをしている事例はないかと探していたところ、大阪市消防局から全身冷却用のパネル水槽の活用を紹介していただいた。

消防隊員は、災害現場において防火服を来て出火建物に入り、迅速かつ強力に作業をしなくてはならない。暑熱順化のための訓練を常時行い、真夏でも防火服を着たまま、唯一外に出ている顔を真っ赤にして署周辺をランニングしているのを見かけることもある。しかしいくら訓練をしても、当日の体調や災害現場の状況から身体が耐えられないこともあるだろう。熱中症の事例も毎年報告されており、消火などの警防活動時の発症数は多い。大阪市消防局は、これまでも隊員の安全と健康を守るべく、大阪市立大学と連携して熱中症対策に取り組んできたが、令和2年に導入したパネル水槽でも同大学が協力している。

この水槽は、直径2.1m、深さ80㎝の水槽(表紙写真)で、災害現場に設けた休憩テント内に設置し、休憩中に5分程度入水して深部体温を下げることを目的としている。ジャケットなどは脱ぐが、Tシャツに下の作業服は履いた状態で水にドボンと浸かる。大阪市大の調査によると、入水より2分から5分後に深部体温の降下が始まり、5分以降は降下が緩やかになるという結果が出ているため、必要な時間は3分から5分程度というところだろうか。出たあとは再度防火服など着ることになるが、入水で濡れたシャツも下も、残りの休憩時間で乾くようで、休憩後の作業に支障が出ないようである。

この結果、導入年ではパネル水槽を設置した現場において熱中症の発症者は1名にとどまった。前年同条件の現場で5人の発症者が出たことを考えると、格段に向上されたことになる。しかも、1名というのは順番が来る前にすでに発症していたということなので、もし発症前に利用していれば防げたかもしれなかったのである。しかし、発症後に入水しても効果がないこと、隊員のローテーション管理が重要であることが明らかになったことから、パネル水槽が今後も改良を続けて作業をしやすい環境作りに寄与することだろう。

関西労災職業病2022年8月535号