労災時効救済や石綿救済の請求期限延長が実現、石綿救済法改正が6/17公布。そして、闘いはこれからだ!

2022年3月27日までの請求期限を10年間延長、2032年3月27日に

石綿健康被害救済法(以下、救済法)では、労災事案に関して労災補償制度の5年時効により遺族補償給付の請求権が時効で消滅した遺族に対しての救済措置(遺族特別給付金)が定められてきた。しかし、この時効救済制度の請求期限は、本年3月27日となっていた。

また、労災補償制度の適用を受けられない石綿被害について、救済法施行日の2006年3月27日よりも前に中皮腫や肺がんで死亡した方の救済給付の請求期限も同じ3月27日とされていた。

これらは、これまで数度の法改正運動によって、その都度、延長を実現させてきていた。今回も、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(以下、患者と家族の会)や当センターなどの支援団体は、期限切れ以前から請求期限の延長を政府に求め続けてきたのだが、後述するように法改正は請求期限切れに間に合わなかった。

しかし、患者と家族の会による国会議員への地道かつ精力的な要請行動が実を結び、ようやく、議員立法により6月13日に全会一致で期限延長改正法案が国会で可決成立、6月17日官報掲載をもって公布、即日施行されるに至った。

石綿救済法の一部を改正する法律(2022年6月17日公布)インターネット官報掲載

改正の具体的内容

具体的には以下のような改正となった。

【環境省所管救済(救済給付)】

特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料

・法施行前死亡救済

<中皮腫・肺がん> 2006年3月27日(法施行日)より前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、2032年3月27日とされた。

<著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・同びまん性胸膜肥厚> 2010年7月1日(改正省令施行日)前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、2036年7月1日とされた。

・未申請死亡救済

<中皮腫・肺がん> 認定申請をしないで2006年3月27日(法施行日)から2018年11月30日までに死亡した被害者の遺族の請求期限はさらに10年延長されて、2033年12月1日とされ、2018年12月1日以降に死亡した場合も10年延長されて死亡後25年以内とされた。

<著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・同びまん性胸膜肥厚> 認定申請をしないで2010年7月1日(改正省令施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、死亡時から25年以内とされた。

「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律」の概要(令和4年6月17日施行)(環境再生保全機構HP)

【厚生労働省所管救済(特別遺族給付金)】

特別遺族給付金(特別遺族年金または特別遺族一時金)=労災時効救済

対象範囲が、さらに10年拡大されて、2026年3月26日までに死亡した被害者の遺族で労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)によって消滅したものに支給されることになった。請求期限は、さらに10年延長されて、2032年3月27日とされた。

「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第72号)」が、令和4年6月17日に公布・施行されました。(厚生労働省HP)

被害者が2016年3月27日(法施行日)から2016年6月16日(改正法施行日の前日の5年前の日)までに死亡した場合の特別遺族年金は、死亡の時から5年を経過した日の属する月の翌月分から遡及して支給するという経過措置も設けられた。

※過去の経緯と今回の改正の詳細は次の記事を参照されたい。

意義ある改正法の附則

今回の改正法には、「改正法の施行後5年以内に、新法の施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な見直しを行うものとする」との附則が設けられた。

これまで救済法改正は、被害者サイドの運動による議員立法、中央環境審議会石綿救済制度小委員会(以下、小委員会)での制度改正議論によって実現してきた。

この小委員会による制度見直しは、救済法施行15年目の2021年度に予定されていた。

ところが「新型コロナ流行の影響」(環境省の説明)で小委員会開催が遅れに遅れ、ようやく6月6日に第一回が開催されるという情けない状況に陥ったのであった。

もともと患者と家族の会は、2021年6月18日には環境・厚生労働・法務省に石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書提出を皮切りに、オンライン交渉や国会院内集会を開催し、次の「石綿救済法改正への3つの緊急要求」をまとめ、リーフレットを作成、その実現をめざした取り組みを開始していた。

石綿救済法改正への3つの緊急要求(中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会HP)

さらに、「確かな声でいまを変えたい 患者と家族、わたしたち121の声」という32頁のカラーリーフレットも作成。とくに与党議員を中心に、国会議員の賛同署名集めに、小菅千恵子会長を先頭に各地の多くの会員を巻き込んで取り組み、2022年5月27日時点で、衆議院112名(与党22名、野党590名)、参議院65名(与党22名、野党43名)の賛同を集めた。

このような努力の結果として議員立法による今回の法改正が実現できたのである。

3月18ー20日、患者と家族の会は全国安全センターや各地域の安全センターと協力して「アスベスト被害救済を打ち切るな!!全国一斉ホットライン」を行ったところ、700件を超える相談が殺到、この請求期限切れ問題の深刻さが浮き彫りにされたことやマスコミ各社による請求期限切れ問題の報道やホットラインへの協力があったことも法改正には大きな力となった。

上述の「改正法の施行後5年以内に、新法の施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な見直しを行うものとする」という附則も、請求期限切れに間に合わなかったような「失態」を今後起こさないようにしなければならない、という意味を含んでいるといえるだろう。

附帯決議に大きな意義

改正案には次の附帯決議が全会一致で採択された。

石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずべきである。

  1. 石綿による健康被害に対する隙間のない救済の実現に向け、石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく救済措置の内容について、改めて効果的な広報を行い周知の徹底に努めること。また、本法に基づく特別遺族弔慰金等の支給の請求期限の延長及び特別遺族給付金の対象者の拡大によって対象となると見込まれる者に対しては、丁寧な情報提供を行うこと。
  2. 国は、石綿による健康被害者に対して最新の医学的知見に基づいた医療を迅速に提供する観点から、中皮腫に効果のある治療法の研究・開発を促進するための方策について石綿健康被害救済基金の活用等の検討を早期に開始すること。
  3. 石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく救済制度が、個別的因果関係を問わずに重篤な疾病を対象としていることを踏まえ、労働者災害補償保険法において指定疾病とされている良性石綿胸水、また、石綿肺合併症についても、指定疾病への追加を検討すること。
  4. 石綿にばく露することにより発症する肺がんについては、被認定者数が制度発足時の推計を大幅に下回っている現状を踏まえ、認定における医学的判定の考え方にばく露歴を活用することなどについて検討すること。
  5. 既に前回の施行状況の検討から5年が経過していることを踏まえ、本法附則の規定による見直しのほか、改正後の法律について、速やかに施行状況の検討を実施すること。その際、療養者の実情に合わせた個別の給付の在り方、療養手当及び給付額の在り方、石綿健康被害救済基金及び原因者負担の在り方等についても検討を行うこと。

右決議する。

これらは、上述した患者と家族の会の「3つの緊急要求」のうち、法改正で実現できた第3項目のほかの、第1と第2項目についての検討を具体的に求めたものであり、6月6日にはじまった小委員会での前向きな議論を、立法府の立場から明確に要請するものである。

政府の立場から山口環境大臣が「ただいまの決議についてはその趣旨を十分に尊重して努力していく所存」と発言したことは極めて重要な意義があった。

附帯決議は小委員会における審議に反映されなければならない。

残り2つの緊急要求実現に向け全力

患者と家族の会を先頭に、残る2つの緊急要求等の実現に向けては、これからが本番である。

6月6日の第1回小委員会では、建設アスベスト給付金制度の施行に係る石綿健康被害救済制度の対応について議論された後、救済制度の施行状況等について、出席委員の全員が発言して審議がはじまった。

石綿対策全国連絡会議を代表して、右田孝雄運営委員(NPO法人中皮腫サポートキャラバン隊理事長、本誌連載コラム「死ぬまで元気です」筆者)も委員に加わっている。

過去二度の小委員会の経験も踏まえ、患者と家族の会では、小委員会の場まかせにしないように、国会議員をはじめ様々な関係者に対する働きかけを継続している。

関西労働者安全センターは要求実現に向けて、患者と家族の会と共に全力で取り組んでいくことにしている。

会員、読者の皆さんのご注目とご支援ご協力を切に訴える次第である。

関西労災職業病2022年6月533号