配管工の石綿肺がん、不慣れな調査で不支給。審査請求で認定/滋賀

配管工として長年就労してきたことにより石綿にばく露したことが明らかであり、先行して環境再生保全機構も石綿に起因する肺がんに罹患したことを認めた事案について、東近江労働基準監督署は業務上災害として認めなかった。

不支給とした根拠は、おそらく、①石綿ばく露作業の従事期間がはっきりわからなかったこと、②労災協力医がはっきりしない意見書を提出したこと、それに加えて、救済給付を受けているし、労災まで認めなくてもいいんじゃないか、と判断されたためである。

石綿ばく露期間

作業において石綿にばく露したのか証明することは非常に困難である。しかし、実際に石綿関連疾患に罹患し、ばく露する可能性のある作業に従事していたのであれば、その両者をできる限りつなぐことが労働基準監督署の認定作業であり、どうしてもつながらなかった場合にのみ業務外とされるべきであり、多くの監督署でそのように運営されていると思われる。

厚労省の通達「石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について」によると、「転々労働者等の事実認定の具体的方法」において、「請求人の以下の①から⑦までのいずれかの作業に従事していたとする主張及びそれを裏付ける資料に基づき、以下の①から⑦までのいずれかの作業に被災者が特定期間従事していたと判断できる場合には、石綿ばく露のおそれがないことが明白な場合を除き、被災者が石綿ばく露作業に従事していたと事実認定して差し支えないこと」と記載されており、具体的な作業として、

①耐火建築物に係る鉄骨への吹付作業
②断熱若しくは保温のための被覆またはその補修作業
③スレート板等難燃性の建築材料の加工作業
④建築物の解体作業
⑤鉄骨製の船舶又は車両の補修または解体作業
⑥タルク、バーミキュライト及び繊維状ブレノサイト等の取り扱いの作業
⑦①から⑥の作業が行われている場所における作業

が挙げられている。今回の被災者は、上記②、③、⑦に従事していることから、年金記録等から判明する在籍期間をもってばく露期間として誤りではない。

ところが、110か月の年金記録があるにもかかわらず、当時の同僚が証言した当該同僚の所属期間である3年しか石綿ばく露期間として認められなかった。

労災協力医は高橋雅士医師

高橋医師は「じん肺エックス線写真による診断制度向上に関する研究」にも参加している医師で、画像診断に関する著書も多く、2014年長崎大学医学部の勉強会「匠から学ぶ 胸部画像診断」においては「誰でも分かるCTの読み方」という心惹かれる講座を開いている。

本件については、労災協力医として、被災者の2017年から2020年までの画像を読影し、被災者の肺がんに関連して、石綿肺所見の有無及びその程度、胸膜プラーク所見の有無及びその程度、びまん性胸膜肥厚の有無及びその程度にについてそれぞれ回答している。

しかし、石綿肺については、「胸部単純写真では全肺野に不整形陰影を認めるが、CTでは肺線維症の所見は明らかではなく」、胸膜プラークについては「明らかな胸膜プラークの所見は認めない」とし、びまん性胸膜肥厚についても「明らかなびまん性胸膜肥厚は認めない」のであるが、いずれも「明らかではないだけで、あるのかないのか分からない」のである。

おそらく画像では胸水なのか胸膜プラークなのか判別できなかったのではないだろうか。

ここで「肺がんに罹患する以前の画像はないのか」と診療機関から取り寄せて、肺の線維化と胸膜プラークを確認したのが環境再生保全機構の認定小委員会であったが、「あるのかないのかよくわからない」という回答をそのまま使ったのが監督署であった。

ちなみに審査請求時に肺がん罹患前の2015年の画像を提出したところ、「形状は非典型的ではあるが、胸膜プラークの範疇に入れてもよい画像所見を認める」というご高診を賜った。たいへんありがたい話である。

局協議の存在

不支給決定の1か月前、資料を取りまとめて局協議が開催されている。協議結果は、①昭和時代の上下水道の配管工事では、石綿が使用されていることは一般的であり、今木工業(株)の事業内容が水道配管工事を主たる事業としていることが、登記簿謄本で確認できる。②同僚証言から、請求人が在職していたと申し立てる、少なくとも3年間については石綿にばく露したと推定することが可能であり、労災協力医の意見で広範囲の胸膜プラークがあるのであれば、本省協議も不要である、というものであった。

本省からの通達も確認せず、また認定基準の一部だけを切り出し、本省協議は不要という結論を出したにすぎないのだから、何のために協議したのかよくわからない。労災協力医の意見書が「よくわからない」というのであれば、調査を重ねるべきである。

実際、環境省の小委員会では石綿肺有、胸膜プラーク有で石綿関連肺がんと認めているし、他の病院でも

東近江総合医療センター
胸膜プラークに係る情報 有/石綿小体・石綿繊維情報 無/石綿肺所見 無

近江草津徳洲会病院
胸膜プラークに係る情報 無/石綿小体・石綿繊維情報 無/石綿肺所見 有

豊郷病院
胸膜プラークに係る情報 有/石綿小体・石綿繊維情報 無/石綿肺所見 有

という所見であったのだから、せめて確定診断委員会に諮るという結論が出ても良かったのではないだろうか。

審査請求

「そんな不服申立なんて、もうええですって。おじいちゃんかて、もう93歳ですし。」とご家族は積極的ではなかったが、仕事を通じて石綿にばく露したことは明らかであるし、ましてや行政が自ら定めた認定基準を違えて判断していることを見逃すわけにはいかない。幸い、審査官も口頭意見陳述後2か月で原処分を取り消してくれたが、このような事案が二度と発生してはいけない…とまで書いたところで再び東近江労働基準監督署の不支給処分について相談が入った。

ガラス工場で就労していた作業員の石綿肺について、管理区分決定もあり、続発性気管支炎も確認された。しかし、事業所の、石綿の使用は認めておきながら被災者がばく露した量は少量であった、という主張に従って不支給とされたというものである。再度、審査請求に取り組む。

関西労災職業病2021年7月523号