フォークリフトの腰痛予防対策~その3/大阪
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組合はメーカー側との面談について了承はしたものの、大学に折衝をまかせて、メーカー側からどれぐらい研究・調査費用を出してもらえるかにについても、組合としてあえて聞かなかった。以降、神戸港での振動調査について当初はメーカーも参加していたが、一定の調査方法も把握した事もあって、組合と大学で調査が進められた。その夏、連日30度を超える猛暑が続き、港湾の職場というのは屋外が多いため、組合員が熱中症で倒れるアクシデントがあったり、扁桃腺で寝込む者が出たり、実を言うと、私も熱中症で調査を何日間か欠席する自体に見舞われた。
そんな折り、大学と組合が泊まり込みの集中調査に入った際、最終日の夜にメーカー、大学、組合の三者で交流会が開催され、組合から調査の経緯や経過等の報告及び大学からの調査に関しての中間報告を行って、一旦お開きとした。後日、大学から連絡が入って、「この間の宴席にICレコダーがあったの、知ってましたか?」と私に聞いてきました。 私は何のことだか分からず、大学側から「林さん達の会話の全てが録音されているのはメーカー側から知らされていたのですか?」と言われ、私は「いいえ」と答えた。「これは『盗聴』されていたということ」と大学から返事が返ってきた。もちろん同席していた大学側の会話も盗聴されていたのだった。特に会話の内容は差し障りのないものであったが、行為そのものに対して憤慨し、組合はメーカー側に謝罪を求めた。メーカーは謝罪した後、調査から撤退することとなった。その後は大学と組合とで細々と調査が進められることになった。
約1年後、我々の調査をどこで知ったのか不明だが、広島県の大手自動車メーカーのイス製造会社から大学へ調査協力の依頼があり、早速、大学で三者面談を開催することとなった。
面談してみると、前回のメーカーより規模も大きく、研究能力も高いことから、今まで調査した結果を基にまずイスそのものの開発に着手することになり、イスの素材の調査に取りかかった。数ヶ月後、試作品として開発されたイスをフォークリフトに設置し振動調査を実施、調査は数ヶ月続いた。改良に改良を加えテストしたが、結果的には振動は大分改善されたものの、人間工学的には安全基準に到達せず、調査の視点を変え、イスを支えているスプリング等を含めた本体部分の開発をメーカーが進めることになった。これも試作品を何度も調査をしたが、中々納得する結果が得られず、一端調査を中断し、メーカーサイドの調査に委ねることにした。しばらくすると試作品が完成したと大学を通じて連絡が入り、その都度現場でのフォークリフトに試作品のイスを設置し、振動調査を繰り返す日々が続き約2年間続き、2007年秋に神戸港での調査で初めて基準値がクリアーする結果が達成された。その調査は数日間続行された。一旦、大学で研究結果をまとめ、翌年の2008年1月23日神戸三宮・京橋センターで、組合、組合関連の業者、各産業車両メーカー、マスコミその他関係者を含め約200名が参加する中、「振動が小さいフォークリフト産業車両の椅子の改善等についてのシンポジウム」を開催した。調査・研究で得られた結果を基に、人間工学的に振動を軽減させ、身体に優しいイスの報告を行い、同時に会場には、開発されたイスの試作品(ほぼ完成品)を10脚展示するなどし、各メーカーに採用及び生産ラインに乗せる訴えを行った。
以降、大学側及び調査に協力してくれた広島県のイス製造会社には問い合わせや詳細について問い合わせがあったが、非常に残念ながら生産ラインに乗らず、販売にまで至らなかった。メーカーサイドに問い合わせると「イスの単価コストが非常に高価なものになり、生産しても売れるか」という事で実現されることはなかった。組合員から要望をもらって、調査に約15年の歳月が流れ、イスの完成には至ったが、現実の販売はかなわなかった。組合員の期待に応えられなかったことは非常に残念だったが、各メーカーには今後の技術開発の参考にはなったことと、今回の調査・研究に携わったことは、今後の活動の一翼を担う結果となった。(事務局:林繁行)
関西労災職業病2020年11・12月516号