指曲がり症の健康管理手帳不交付撤回、交付へ~大阪労働局が自庁取り消し
大阪労働局の判断間違いで健康管理手帳の不交付となったケースがあった。結局、審査請求後に自庁取り消しとなり、交付されることになった。
金属加工業務による指曲がり症、障害8級
Mさんはプレス機による金属部品加工などで両手指を酷使し、「両手指変形性関節症」いわゆる「指がり症」を発症した。
当初労災不支給となり、当センターが支援して審査請求で労災認定され、以来、長期にわたって労災で療養を続けていたが、2019年に症状固定することになり、障害補償請求を行った。労災障害等級8級に決定されたが、両手指にひどい痛みと手指の関節の硬直など重い障害が残り、治療を継続しなければ痛みや指の動きが悪くなるため、症状固定後も通院が必要な状態だった。
アフターケア不交付!?
そのような状態にある労災被災者への措置として、「アフターケア」という制度がある。
アフターケア制度では、症状固定後に後遺症に伴う新たな病気や再発を防ぐために、予防その他の保健上の措置として、診察や保健指導、検査などを無料で受けることができる。該当すると認められれば、健康管理手帳が交付される。
障害補償の調査で労働基準監督署を訪問した際に、担当官から健康管理手帳交付請求書を渡され、「当然、請求されますよね」という態度で請求を促された。主治医の判断も当然、今後も治療が必要ということで、すぐに請求を行った。
ところが不交付、という結果が送られてきたのだった。
不交付の理由は、「両手指変形性関節症」という病名がアフターケアの対象ではないということだった。
アフターケアの対象傷病は、せき髄損傷、頭頸部外傷症候群等、振動障害、虚血性心疾患、外傷による末梢障害、呼吸機能障害、炭鉱災害による一酸化炭素中毒等など、全部で20項目ある。
この20項目の中に「手指変形性関節症」という病名はなく、一見対象外と思われるかもしれないが、上肢障害については頭頸部外傷症候群等の項目に含まれている。頭頸部外傷症候群等の項目では、1 頭頸部外傷性症候群、2 頸肩腕障害、3 腰痛を対象としており、頸肩腕障害については、「上肢等に過度の負荷のかかる業務によって、後頭部、頸部、肩甲帯、上肢、前腕、手及び指に発症した運動器の障害」と解説されている。この対象傷病にり患し、障害等級9級以上の障害補償給付を受ける方が対象である。
Mさんの「手指変形性関節症」は対象傷病であるし、障害等級は8級であるので明らかに該当し、大阪労働局の判断は、根本的に間違っていたことになる。
アフターケアは労働福祉事業での制度なので、厚生労働大臣あてに審査請求を行った。
こちらからの反論書として、「手指変形性関節症」は対象傷病であるとの主張を提出した。
対象疾病と認め交付へ
反論の2か月後の2020年12月、大阪労働局から審査請求代理人である当センター事務局に「対象であったので、手帳を交付します。」と電話があった。
「症状固定が2019年4月30日であったので、手帳の発行を2019年5月1日とすると手帳の期限が4か月後の2021年4月30日までになってしまいます。交付日をこの12月にしてこれから2年にもできますがどちらがいいでしょうか」という問い合わせを同時にしてきた。
Mさんは、これからの交付を選択し、12月中に健康管理手帳が交付された。審査請求については取り下げを行った。手帳の不交付から10か月ほどかかった。
Mさんのケースは、センターの支援がなければ大阪労働局の判断ミスに気がつかず、被災者が不利益を被るところだった。こちらとしても想定外の事件であり、このようなミスもあり得ると教訓となったので、今後も労働行政に気をつけておきたい。
関西労災職業病2020年11・12月516号
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