3次会セクハラによる適応障害は労災ー2025年12月15日大阪地裁が判決、国は控訴断念し確定
上司で人事評価権者
試用期間中の労働者にセクハラ
上司に連れていかれた3次会での出来事で、大きな心理的負荷を受け、精神疾患を発症したのは業務上災害かどうかが争点となった訴訟で、大阪地裁は12月15日に、業務上災害と認め、労災保険を不支給とした大阪中央労働基準監督署長の処分を取り消した。
「有期雇用6か月
6か月間の勤務にて、下記についてみさせていただき、6か月最終日に、評価させていただきたく思います。
・技術習得スキル(ソフトウエア開発スキル)
・お客様対応スキル
・勤務スキル(勤務態度等)
・総合的評価
※ 上述については、我々が見て判断させていただきます。
デジタルな評価基準はありません。ご了承ください。
本採用(正社員)について
6か月の勤務にてよい評価をされた場合、Aさんの当社への正社員登用への意向も確認させていただき、両者の意向が合致した上で正社員(無期雇用)として採用させていただきたく思います。」
東京に本社を置くIT関連企業の西日本支社に勤務していた女性Aさんが、2019年4月からの採用決定時に受け取ったメールだ。発信者は直属の上司となり、正社員登用の権限を持っているB西日本支社長だ。
入社後すぐに実施されたオリエンテーションの終了後や出張時の車中で、B支社長は「何でもかんでもセクハラ、パワハラっていう人だったらどうしようって思っていたんだよ。でも、そうではないみたいでよかった」などと発言していた。また、5月になるとAさんをゴルフコンペに誘い、そのやりとりの中で「ミニスカートじゃないとだめだからな」などと発言。ほか「髪はショートが良い」「ハイヒールを履いた方がよい」「あと4、5キロはやせたほうがいい」とも発言。
セクハラ発言がたびたび繰り返されるなか、6月15日に東京で全社員参加の発表会が開催され、Aさんも出張することになる。事前に支社長は、Aさんに「向こうでの夜の予定は空けておけ、色々連れていくから」と伝える。
「夜は空けておけ」出張先の上司命令
6月15日、秋葉原付近の会議室での発表会が終わったあと、場所を移して全員参加の懇親会となり、あとは流れ解散とのスケジュール説明があった。
B支社長は懇親会の会場でAさんに2次会行くぞと声をかけ、Aさんはこれに応じた。C執行役員と取引先事業者のDも合流した合計4人でダイニングバーに赴いた。B支社長は3次会に行くからとAさんを誘い、これにも応じたAさんが3人とともに訪れたのはガールズバー。
女性店員は上半身には下着をつけないままワイシャツを、下半身には臀部が見えるぐらいの丈の短いスカートをそれぞれ着用して接客をしていた。
飲料の注文は注文用のコインを購入して口にくわえ、それを女性店員が口で加えて受け取っていた。支社長はAさんに「お前もやってみろ」と言い、「断ってもいいんだぞ」とも言ったがそんな雰囲気でもなく、口でのコインの受け渡しをした。そして支社長は「ここは女同士ならディープキスや触ったりできるからやってみろ」といい、結局Aさんは女性店員と3回ディープキスをし、さらに「3Pやってみろ」とエスカレート。他の2人の女性店員ともディープキスをした。・・・・・・
支社長の指示で、さらにAさんの望まない行為が続くことになる。
そもそもAさんはその体質上、アルコールは一切口にしておらず、まったく酒に酔っていない状態だった。
そして、同月の下旬頃からAさんに、悲壮感、抑うつ気分、フラッシュバックや動悸、呼吸苦などの自律神経症状が出現するようになった。その後の東京出張時に相談をした同僚の勧めにより、社長に3次会での出来事等の話をし、翌日から会社を休み精神科医を受診することになる。
「参加は任意だから業務ではない」原処分、審査、再審査の判断
Aさんは休業療養を続けながら、10月に労災保険の休業補償給付を請求し、さらに翌月には会社と支店長を相手取って損害賠償請求訴訟を提起することになる。
労災保険の請求を受け付けた大阪中央労働基準監督署は、3次会での出来事について「2次会以降の参加は完全に個人の意思に任されたもので、実際Aさん以外の西日本支社員は行動を共にしておらず、また強制もなく、2次会、3次会の内容も業務との関連性は認められない」として、業務起因性判断の範囲外とした。その結果、他の日常的なセクシャルハラスメントによる心理的負荷の強度は「中」と判断し、不支給処分とした。
審査請求、再審査請求においても、3次会の出来事については、「上司の優位性のもとに参加を強制された事実を客観的に認定することは困難」(審査決定書)、「『断れなかった』とするAさんの事情を考慮したとしても、支店長が本件3次会への参加を強制した事実は認められず」(再審査裁決書)、業務遂行性は認められないとした。
「人事評価権者による指示」拒絶は困難と大阪地裁判決
問題は3次会が業務とみなされるかどうかだった。この点について大阪地裁判決は以下のように判断した。
「(2)本件3次会の業務遂行性
労働者の疾病等が労災保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該疾病等が生じたこと、すなわち、業務遂行性が認められることが必要である。そして、労働者が事業主から出張を命じられた場合、その出張中はその用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主に対する責任を負っているから、特別の事情がない限り、出張過程の全般について事業主の支配下にあり、業務遂行性があるというべきである。したがって、労働者の出張中の行為については、それ自体は私的行為であっても、積極的な私用、私的行為又は恣意行為等にわたるものではなく、一般に出張に当然又は通常伴う行為については、事業主の支配下にあるものとして、業務遂行性を認めるのが相当である。
これを本件についてみると、原告は、令和元年6月15日に行われた本件発表会に出席するために東京に出張しており(本件出張)、本件3次会は本件出張中に行われたものである。そして、本件発表会及びその後に行われた本件1次会は、本件会社の公式な行事であり、原告にとって業務という余地はあるものの、本件会社の事務連絡によれば、本件1次会後は流れ解散とされていること、本件3次会の費用は、本件会社の経費として処理されておらず、本件3次会の出席者も、B支社長、C執行役員、D及び原告の4名にとどまることからすれば、本件3次会は本件会社の公式行事ということはできず、本件3次会への参加は本件会社の業務そのものではなく、私的な行為というべきである。
もっとも、原告が所属する西日本支社の支社長であるB支社長は、本件出張前に、原告に対して、本件発表会後の日程を空けておくよう指示しており、かかる指示は原告の出張の行程を指示するものと評価し得るものであるから、原告の本件3次会への参加は本件出張の行程に組み込まれていたものということができる。そして、原告は雇用期間6か月間の有期契約社員であり、その正社員登用は、その期間における評価が良かった場合に行われるとされており、B支社長は、原告の直属の上司であり、人事評価権者でもあったから、B支社長は、原告の正社員登用について強い影響力を有していたと認められる。そのような状況下において、B支社長が、原告に対し、あらかじめ本件出張に先立ち、本件発表会の後の夜の予定を空けておくよう述べていたことを踏まえると、原告が、本件出張当日において、B支社長の本件2次会及び本件3次会への誘いを拒絶することは事実上困難な状況にあったと認められる。
そうすると、本件3次会への参加は、出張中の私的な行為であるが、原告にとっては、直属の上司であるB支社長の指示により出張の行程に組み込まれたものであり、これを断ることが困難な状況において参加を余儀なくされたものであって、原告の積極的な私的行為や恣意的行為であるとはいえない。したがって、原告の本件出張中の本件3次会への参加については、業務遂行性を認めるのが相当である。」
発症の原因となるに十分な強度の心理負荷を認定
3次会での出来事の強度は次の通り判断した。
「本件3次会での出来事は①B支社長は、直接、原告とは接触をしていないものの、本件店舗の女店員とディープキスをさせたり、お互いの胸部を触らせたりするという性的な身体接触が含まれており、相当な不快感を抱かせるものであること、②当該行為は、B支社長、C執行役員及びDといった本件会社の関係者や、本件店舗の店員や他の客がいる状況でなされたものであり、強い羞恥心を抱かせるものであること、③B支社長は原告の所属する西日本支社のトップである上、原告の人事評価権者でもあり、6か月の期間契約社員として本件会社に入社し、正社員として採用されるかどうかわからない状況にあった原告に対し、雇用関係上強い優越的な立場にあったこと、④加えて、B支社長は、原告の入社直後に「原告が何でもかんでもセクハラ、パワハラっていう人だったらどうしようって思っていたんだよ。でも、そうではないみたいでよかった」と述べており、かかる発言は労働者がハラスメントを受けた際に、異議を唱えることや救済を求めることを著しく困難にするものであること、⑤実際に原告が本件3次会での出来事を含むB支社長のセクシャルハラスメント行為についての本件会社に対応を求めたのは本件疾病が発病した後であることなどを総合すると、その心理的負荷の強度は「強」にあたるというべきである。」
丁寧な事実認定による判決、控訴はなく業務上が確定
原処分を下した大阪中央労働基準監督署段階の大阪労働局労災医員の意見においても、3次会の出来事について「関与は否めない」としながら業務とはいえないとして、判断要素には含めていなかった。医学的な業務起因性の判断については、そもそも争点にはなっていなかった。
出張中の行動についての業務遂行性をどう考えるか、試用期間中の労働者に対する人事評価権者である支社長の優位性をどう判断するかについての判断が求められた裁判だったといえる。
大阪地裁の判決は、まず出張中の行為についての業務遂行性について、従来の労災保険法の解釈を確認したうえで、事実関係を丁寧に認定し、業務遂行性が認められるとの結論を導き出したものだった。
この訴訟について、控訴期限は年末年始を挟んだため2026年1月5日だったが、控訴はなく、確定した。
決して諦めることなく、審査請求、再審査請求、訴訟へと訴えを貫いた原告に改めて敬意を払いたい。
関西労災職業病2026年1月752号
3次会セクハラ、労災 大阪地裁判決 「参加拒絶困難」(毎日新聞2025/12/16 大阪朝刊)
業務終了後の「三次会」でセクハラ、労災認定されにくい? 忘年会シーズンに気をつけたいポイント(2025/12/21(日) 配信Yahooニュース
