注目すべき最高裁判決 労働福祉事業も行政処分、不服審査、裁判の対象

災保険法による給付には、療養補償給付などの給付と、労働福祉事業による援護などがあるが、従来、労働福祉事業による援護は一方的な行政サービスであって、権利ではないから、不服審査の対象にもならないとされ、被災労働者側が労基署の不支給決定を不服として不服審査請求を申し立てても、「棄却」ではなく「却下」とされてきた。
ところが、労働福祉事業の一つである「就学援護費」の不支給決定取消を求めた裁判で、最高裁判所はその扱いは誤りであると判断、「抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」として1,2審の門前払い判決を破棄、地裁に差し戻す判決を言い渡した(最高裁判所 平成11年(行ヒ)第99号 平成15年09月04日 第一小法廷判決 判決文は、最高裁判所のホームページhttp://www.courts.go.jp/の判例情報に掲載されている)。この結果、あらためて不支給決定処分の是非が裁判で争われることになった。

海外留学で援護費不支給に

具体的には、フィリピン人の夫を1988年に過労死(労災認定)で亡くした東京都世田谷区の女性Aさんは、遺族補償給付とともに二女の就学援護費(労働福祉事業)を受けた。ところが、96年にその二女がフィリピンの大学に進学したところ「学校教育法の定める学校でなければ支給できない」という理由で就学援護費が打ち切られた。Aさんは、不支給決定の取消を求めて、不服審査請求、行政訴訟を提起してきたが、高等裁判所にいたるまで、すべて、訴えそのものが不適法と却下(門前払い)されてきたのだった。
ところが、最高裁は「労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。(上告の)論旨は理由がある。以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。」と判断し、第1審に差し戻した。裁判官5名全員一致の意見だった。
労働福祉事業の中には、アフターケアが海外では一方的に受けられなくなる、など同種の問題点が指摘されていたが「文句はいえない」ものだとされてきた。今回の判決はこの点を正したといえるだろう。今後、就学援護費問題など労働福祉事業の明かな制度的不備が是正されていく契機になると思われる。