阪神淡路大震災から学んだものは~今災害とアスベストを考えるシンポジウム参加レポート/兵庫

1.シンポジウム概要
2025年1月12日、阪神淡路大震災から30年を目前とした厳冬の日、神戸市の三宮研修センターにて、「阪神・淡路大震災から30年 災害とアスベストを考えるシンポジウム」が開催された。
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会ひょうご支部の山口氏と東京労働安全衛生センターの飯田氏の司会でシンポジウムは進められ、開会式の後、NPO法人の代表や大学の研究者、学生、震災当時の職人など、8人の方が、それぞれの立場から、震災とアスベスト被害について、報告や体験談等を講演した。
どの講演も、知らなかったことが多くあり、非常に身になるものだった。中でも、特に認識を改めさせられたことを3つ紹介する。
2.被災地の粉じん
まず一つ目は、被災地の粉じんのことである。
私は今まで、震災の復興作業ということを聞くと、漠然と、ガレキの撤去作業を想像していた。そしてその作業は、完全に破壊された建物のガレキを集めてダンプに積むぐらいのものと考えており、当時の体験でよく聞く、生活圏が粉じんだらけだったということがピンときていなかった。その認識には、2つの勘違いがあった。
まず、ガレキの撤去作業に関してである。
原口剛氏(神戸大学大学院)の「阪神・淡路大震災のガレキ処理と労働者」という講演で、当時ポートアイランドのガレキ処理場でガレキ処理に従事した人のインタビューがあったが、ガレキを分別するために、まずガレキを粉砕して、その後、手作業で分けていったそうで、ガレキ処理場はほこりに包まれていたというのである。ガレキは砕くし、砕けるのだ。インタビューはガレキ処理場での話だったが、当然現場でも、ダンプに積めるようガレキを砕いていただろうし、積む際も1個1個丁寧に積んだわけはなく、重機にせよ手作業にせよ、どんどん放り込んでいったはずなので、その場で砕けてほこりを舞い散らせていたはずだ。
次に、ガレキの撤去より前にやる解体作業についてである。
開会式の時に、兵庫のローカルテレビ局のサンテレビが撮影していた、震災当時の映像が流れた。映像では、全壊してガワだけになった住宅がフォークを付けたユンボに解体されている様子や、ビルが重機に解体されている横を通り過ぎる、大勢の出勤する人達が映されていた。
よく考えてみると、すべての建物ががれきの山になるくらい破損しているわけはない。平成18年5月19日に消防庁が確定した情報によると、震災による兵庫県内の住家被害は、全壊が104,004戸、半壊が136,952戸、一部破損が297,811戸だった。全壊といっても完全に倒壊しているわけではなく、映像の通り、残った部分の解体はあるし、半壊の建物も、建屋は残したまま補修だけでなんとかできる建物ばかりではなく、壊れた部分を解体しないといけないものもあっただろう。復興作業は、解体から始まるということだ。そして、映像のビルの解体では、周りに覆いがされておらず、外に舞い散ったほこりの中を、ハンカチなどで口を押えて通り過ぎる人達が映っていた。こういった解体作業やガレキの粉砕撤去が当時はそこかしこで行われていたのだろう。講演や映像を見て、当時被災地で作業していた人や生活していた人は、粉じんに覆われて過ごしていたのだということが実感できた。
3.世界のアスベスト事情

次に、世界のアスベストの使用量についてである。私は、この仕事についてから、日本はイギリスから20年遅れてアスベストの使用規制が入ったと教えられたので、日本は遅い方で、ほとんどの国はもう規制が入っているものだと思っていた。だが、今回、宮本憲一氏(大阪市立大学名誉教授)の「終わりなきアスベスト災害」という講演で、2016年時点のアスベスト消費量が、中国で288,000t、インドで308,000t、ロシアで234,000tだったとのことで、いまだに大量に使用されていて驚いた。(後に私がMineral yearbookで調べたところ、中国、インドはこの値だったが、ロシアは違っていた。234,000tは2016年製レポートの仮決定値で、2017年以降のレポートの2016年確定値では104,000tと修正されていた。)また、2023年製のレポートでは、2022年のアスベスト消費量確定値が、中国で327,000t、インドで424,000t、ロシアで109,000tで、中国、インドでは2016年に比べて使用量が増加しており、ロシアも横ばいである。
現在、日本では使用が禁止されているが、日本のピーク時の使用量は、1980年でおよそ400,000tだったので、現在でも中国やインドの消費量はそれに匹敵する値だし、ロシアもそれには及ばないとはいえ未だに大量に消費されている。
また、世界全体では、南米、アジア、中東を中心に、2022年に1,260,000t使用されており、ピーク時の日本の3倍以上の量がまだ世界で使われている。世界のアスベスト規制にも目を向けないといけない。
4.マスクをしてないボランティア
最後に、被災地ボランティアのマスク使用率についてである。
南慎二郎氏(立命館大学)の「被災地で活動するボランティアとアスベスト」という講演にて、被災地でのボランティア活動に参加経験のある方を対象に行った、活動内容のアンケート結果が紹介された。その内、2024年能登半島地震のボランティア経験者41名からの回答を以下にいくつか抜粋する。「マスクを持参したか」に対しては「持参したことなし」が58.5%、「マスクは現場で支給されたか」については「ほとんど支給なし」「支給なし、または記憶なし」の合算が78.1%だった。単純計算で、58.5%×78.1%=45.6%のボランティア参加者がマスク無しで作業を行ったことになる。また、「ガレキ仮置き場や解体工事近くでの作業があるか」については、「あり」が48.8%だったので、これも単純に考えると、45.6%×48.8%=22.3%の人が、マスク無しでがれき仮置き場や解体工事近くで作業したと計算できる。5人に1人以上がそういう作業をしているという計算だ。
私自身、アスベストの危険性を意識したのはこの仕事を始めてからなので、ボランティアの人もそういう人が一定数いるだろうと思っていたが、具体的に数字を出されて、改めて実感した。能登地震の復興作業はまだ終わっていない。それを支援するとともに、引き続き、アスベスト対策の啓蒙をしないといけない。
以上、3つほどトピックとして、講演の内容を紹介させていただいた。どれも、今後、さらにアスベストばく露の被災者が出ることを予期させる内容だった。
震災もアスベスト被害も、歴史上のことではなく、現在も続いていることである。このシンポジウムに参加して、今後も活動を続けていくという決意を新たにできた。(事務局 種盛真也)
関西労災職業病2025年2月562号
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