精神疾患労災被災者による地位確認訴訟で本人尋問/宮城
被災者は、長時間労働を原因として精神障害を発症したが、仙台労働基準監督署は、被災者が本件発症以前にも精神障害を発症したことがあるなどを理由に、不支給とした。不服であった被災者は、審査請求を経てようやく業務上認定を受けたが、この間に事業所である宮城テレビから、同事業所の就業規則に基づき、1年半の休職期間が満了しても復職できないという理由で自然退職という扱いにされてしまった。休職期間の満了直前に労災保険に初回請求をしていることもあり、退職扱いにされてから約2年を要してようやく業務上となったが、被災者の辛苦はこのあとも続いた。
被災者は自身の疾病が業務上と認められたことを宮城テレビに伝え、従業員としての地位を回復するように申し入れたが、これに対しまったく回答がなかった。被災者は、社会保険の確認請求を行ったり、仙台労働基準監督署に対して労働基準法第19条(解雇制限)違反に基づき是正勧告書を発行してもらったが、宮城テレビは被災者の従業員としての地位の回復を頑なに認めなかった。宮城テレビによると、被災者の精神障害発症は業務に関連したものではなく、発症原因は別にあるというのである。
残された手段は訴訟しかなかったが、精神障害で療養中の被災者にストレスを加えることはできれば避けたい。それでも、「業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間‥(中略)は解雇してはならない」と法的根拠も明らかであることから早期解決の期待を込めて2021年10月4日、神戸地裁尼崎支部に提訴した。
しかし、そこから約3年、なかなか終結しないばかりか、裁判所の勧める和解にすら被告である宮城テレビは応じようとしない。そして判決に向けて本人尋問が行われることとなった。こうなると被災者本人は追い詰められるばかりである。
病院と自宅を行き来する生活をしていた被災者に、突然裁判所で長時間の尋問を受けることがどれだけ負担になるだろうか。当日の被災者の顔はまったく血の気がなく、表情は不安で苛まれていた。事前に本人尋問が行われることを伝えられていた際に、宮城テレビから大挙して傍聴に来るはずだ、と何度も訴えてこられた。地方局とはいえ歴史もあり、東京や大阪に支社を構える事業所である。病気を抱えたままひとりで闘うにはプレッシャーが大きい。さらに当日は、当時の上司や同僚が被告側の証人として尋問を受ける予定もあり、被災者としては顔を合わせたくない。そこで、尋問に際しては衝立で覆い、後ろから見えない環境を用意してもらうことになった。さらに、地域の労組に傍聴をお願いしたところ、ユニオンあしや、武庫川ユニオン、全港湾弁天浜支部、ひょうご労働安全衛生センター、じん肺患者同盟大阪中央支部から多くの方にご参集いただき、尋問に臨む被災者を大いに力づけることができた。
尋問は朝の11時から夕方4時まで続き、終了まで極度の緊張が続いた被災者も疲労困憊であった。しかし、被告側が、被災者の従事した業務について精神的負担が少なく、精神疾患の原因になりえないということを立証しようとした試みは失敗し、むしろ、発症直前の長時間労働がいかに被災者の心身に影響を与えたかということを裁判所にも理解してもらえたと思う。
解雇制限規定は、業務上災害の被災者の権利を守る重要な規定であるが、今回のように訴訟を提起しないと守れないというのはあまりに理不尽である。あんしん財団事件では業務上認定後に被災労働者を解雇するような暴挙に出ているが、労災被災者が負担することなく法律に規定されたとおりの権利を享受できる行政の対応が望まれる。
関西労災職業病2024年9月558号