2018年の法改正とトラック運送の2024年問題~運営協議会講演レポート~

2024年6月13日、関西労働者安全センターの事務所にて、同センターの運営協議会が開催された。今回の運営協議会では、運営委員の活動報告に加え、全国労働安全衛生センター連絡会議事務局長の古谷杉郎氏と、全日本建設運輸連帯労働組合近畿地区トラック支部執行委員長の広瀬英司氏、書記長の和田宗幸氏を招いて、2024年問題をテーマとして講演をしていただいた。本記事では、その内容を紹介する。

1.2024年問題とは

始めに、古谷氏に、2024年問題とは何かについて解説していただいた。

2018年6月、「働き方改革関連法」の制定によって、労働時間法制(労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法)が改正された。目玉は時間外労働時間の上限規制を罰則付きで導入したことで、原則月45時間以内、年間360時間以内、ただし、36協定で労使間の合意があれば、年間で6回まで月100時間以内(ただし2~6カ月の複数月平均がそれぞれ80時間を超えないようにする)、年間合計720時間まで(休日労働含めると960時間まで)というものである。その他、残業代改訂や勤務間インターバルの導入などもあり、これらの施行は、原則として2019年4月から行われることとなった。

ここで、上記の時間外労働時間の規制について、長時間労働が常態化していた5分野の仕事に関しては、各分野ごとにそれぞれ上限規制を設定し、かつ施行までに5年の猶予をとることになった。その5分野というのが①工作物の建設の事業、②自動車運転の業務、③医業に従事する医師、④鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業、⑤新技術、新商品等の研究開発業務である。そして、5年の猶予が切れて、この5分野でも規制が始まるのが2024年4月からであり、それによって労働力不足や賃金削減などの問題が起こると予想されている。それを2024年問題という。

2.長時間労働者へのケアは医師の面接指導

その後、古谷氏には、2024年問題の元になっている、そもそもの2018年の法改正について、労働時間規制以外の面から話していただいた。

まず、良い点として、労働安全衛生法に、事業主が従業員の労働時間を把握する義務がつけられたことを挙げられた。実は、労働基準法にはもともと労働時間の把握の規定があったが、それは残業代の確認が主目的だった。対して、安衛法の労働時間把握義務は、労働者の健康確保が目的なので、なにかと利用価値があるということだ。

次に、問題点として、長時間の労働者への健康面のケアのことを挙げられた。

2018年の法改正では、労働時間の規制については、時間外労働の上限規制や勤務間インターバルについてなどの施策があるが、長時間労働(基本的に月80時間以上の時間外労働)を実際にしている人へのケアについては、労働基準法でも労働安全衛生法でも、基本的に、医師の面接指導を受けさせるということに終始してしまっているのである。

古谷氏によると、医師の面接指導だけでは健康管理の役に立つとは思えず、また、この面接指導の制度ができたことで、労組の中に、長時間労働者へのケアとしてこの指導の受診率を上げることに躍起になっている組織があることに懸念を抱いているとのことだった。ただ一方で、医師の面接指導の制度について、実態をつかめていないので、まず、医師面談の実施率や何を言われたのかの調査をして、また、それが改善につながった例があるならそれを拾い上げるのは面白い課題だとも提案した。

せっかく医師の面接指導という制度があるのだから、効果を検証して、良い例があるなら集めて水平展開するのは確かに大事なことで、安全センターの役目だろう。

3.トラックドライバーin 2024

続いて、広瀬氏と和田氏には運送業(主にトラック運送)の現場視点での2024年問題について報告いただいた。

まず、労働時間の規制についてだが、正直なところ、連帯労組の支部がある中小企業は、2024年6月現在、ほとんどが十分に労働時間削減ができていないそうだ。自動車運転業が2024年4月から守らないといけない時間外労働の規制は、(労使の合意ありで)年間960時間以内なので、基本的に時間外労働は月80時間ペースを守らないといけない。だが、連帯労組の支部がある会社は業務量的にそれが困難で、年度前半は月100時間程度の時間外労働で乗り切って、年度後半を月60時間程度にして年間960時間に調整するということにしているとのことだった。ただ、本当に年度後半に調整できるのか、そして来年、再来年と進むことで労働時間の削減ができるのかということについては、広瀬氏は悲観的だった。結局、荷主からの注文で運送業は動くので、その荷主が、発注量を抑えるか納期を遅らせることを許可しない限り労働量は減らせない。どうしても業務量の主導権が荷主になってしまうので、運送業者主導で労働時間を管理するのが難しいそうだ。

また、残業時間が減ることによる賃金の低下については、連帯労組として、3年ほど前から各企業と打合せをしており、働いている人の、労働時間規制前の残業代を補償給として導入して、残業時間が減っても賃金が減らないようにしているそうだ。だが、当然それをのめない状況の会社もあり、また、支部がない会社はそういう交渉をしていないので、そんなところでは賃金が大幅に減る。すると、トラックドライバー業界の、基本給自体は低くても、長時間働けば稼げるという特徴がなくなり、単に賃金の低い業界になってしまう。となると、法を守って時間外労働を規制している会社には人が来なくて、違法に働かせまくっている会社に人が集まってしまい、労働時間の削減もできない。悪循環である。

さて、これらの問題についての対策だが、実は、2018年に国土交通省があることを行っている。トラック運送の原価計算をし、標準運賃というものを定めたのだ。この原価計算の中に、トラックドライバーと他業界との賃金格差是正(端的に言うと賃金アップ)も含まれており、さらに、ほぼ毎年、その時の物価等に合わせて改訂している。広瀬氏曰く、この標準運賃がちゃんと支払われるなら、トラック運転手の賃金低下が防がれ、また、業界で問題になっている発注の多重構造も、運賃のラインが上がることで中間業者が参入しづらくなり、解決に向かうだろうとのことである。だったらこの問題は解決してるじゃないかと思われるだろうが、残念ながらそうではない。2018年の制定から2024年6月現在までずっと、標準運賃は義務化されていないのである。ということは、目安があるというだけで、結局運賃の交渉は会社まかせということになる。荷主が余裕のあるところなら交渉できるが、連帯労組に加入する組合員の所属会社は中小企業がほとんどで、荷主も余裕がないところが多く、その交渉がなかなか進まないという状況だそうだ。

これらの労働時間や賃金の問題に対して、現状、広瀬氏が一番良いと考えていることは、上記の標準運賃の義務化である。そのために、2018年の標準運賃制定当時から、国交省と交渉しているが、現状、結果が出ていないとのことである。

ハードな状況だが、長時間労働の規制自体は、安全衛生的になすべきことなのは間違いない。皆の健康と生活を守るため、労働時間の削減と賃金の補償を両立できるよう、我々も協力して活動していかねばならない。(事務局 種盛真也)

関西労災職業病2024年7月556号