田辺市第三者委員会開始~台風災害対応業務による脳出血死公災認定をふまえて●和歌山

2018年に台風の対応後、脳出血で亡くなった中野典昭さんが公務災害に認定された件について、田辺市第三者調査委員会の委員が決定し、第一回の委員会が開催された。

中野さんの死亡の原因となった業務に関して事実関係を調査するために、昨年、中野さんのご家族が田辺市役所に第三者委員会を設置するように求めていた。

今年3月、田辺市議会で「田辺市平成30年台風第20号災害対応に係る第三者調査委員会条例」案が出され、無事条例が成立した。

4月1日に「第三者調査委員会事務局(以下、事務局)」が設置され、委員の選定に入った。

田辺市によると、これまで田辺市とのかかわりが全くない人選をしたいということで、大阪弁護士会などに委員の推薦を依頼する予定だった。

6月になり、事務局から遺族に連絡があった。

委員の選定が終わり、第一回の委員会開催のめどがたった。そのお知らせと、委員が最初に遺族と顔合わせをしておきたいということだった。

日程調整を行い、7月2日の第一回委員会ののち、非公式に委員と面談することが決まった。

委員は、大阪弁護士会の東尚吾弁護士、安部将規弁護士、関西大学社会安全学部の越山健治教授で、安部弁護士が委員長に選出された。

中野さんのご家族は7月2日、委員らと面談し、要望書を提出した。

委員の方々からは、この第三者委員会に前向きに取り組む旨の言葉があった。委員は、これまでの経験から、行政からどれだけ情報提供してもらえるかにかかっており、情報が制限されれば難しいということも踏まえながら、できることをしたいということだった。

遺族から、職員などに尋ねてもわからない場合はどのように判断するのかという質問があった。委員は、弁護士の仕事の中でも同様の問題に直面するが、様々な資料を提供することから関係者の記憶を呼び覚ますなどといった手法を使うこともできる、といった具体的な返答を行った。

中野さんご家族は、第三者委員会開催まで田辺市と大変なやりとりを行い時間もかかったため、「やっと」との思いが強く、ともかく、結果を出してくれるのか、冷静に見守る姿勢である。

2023年7月2日

田辺市第三者調査委員会 委員長 様

要 請 書

委員のみなさまにおかれましては、ご多忙のところ、田辺市の第三者調査委員会の委員をお引き受けいただき、公務災害で死亡した中野典昭の遺族として、お礼申し上げます。

私たちは大切な夫、あるいは父親を失ってから、大きな悲しみを抱いたのち、その死について様々な疑問を持つようになりました。

亡くなる前に本人から聞いた、台風の対応がとても大変であったこと、さらに上司の副市長が現場にいなかったことなどから、業務による負荷が大きな原因ではないかと思いました。しかしながら、公務災害請求を行おうとすると、役所の複数の人から請求を妨げるような言動がありました。最終的に公務災害請求はできましたが、田辺市役所からは当時の状況について何ら説明もなく、私たち自ら役所に出向き、複数の職員に聞き取りをしてまとめた書類を、請求書に添付しました。

死亡の1年10か月後に公務災害として認定されましたが、その時も田辺市からは何ら追悼や慰労する言葉もなく、事務手続きが行われたのみでした。

こういった出来事により、私たち遺族は故人の死を受け入れるどころか、家族としてどうすれば良かったのか自責の念にとらわれたり、田辺市に対してたくさんの疑問がわき上がり、苦しむことになりました。

その結果、昨年、田辺市長宛に疑問点について回答いただくよう申し入れを行い、その回答をいただき、何度かやり取りをしましたが、私たちが知りたいことは明らかにはなりませんでした。

当事者同士の話し合いに限界を感じたため、第三者委員会の設置を要望いたしました。

委員長さまはじめ、委員のみなさまには、私たち遺族の疑問に答えて、実際の状況を明らかにし、問題点をご指摘いただき、また今も働く職員の方達のために、それを生かした改善対策をご提言いただけることを期待しております。

調査を開始されるに当たって、以下のことについても、ご配慮いただきますようお願い申し上げます。

1 第三者調査委員会条例2条の所掌事務に携わるに当たって、

(1) 特に、被災者中野典昭が死亡した原因となったと思われる負荷要因について究明すること
(2) (1)で究明した負荷要因が発生した原因を解明すること
(3) 既に退職などで田辺市役所に所属しなくなった関係者についても、現職職員と同様に、聴取・調査できるように、尽力すること
(4) 本件公務災害の再発防止のために、実効的対策を提言すること

以上

関西労災職業病2023年8月号