建設業/墜落・転落災害防止措置の強化~一側足場の使用範囲限定、足場点検者の指名義務化など~

死亡災害の4分の1は墜落・転落
実務者会合が報告書

2021年の労働災害死亡者数867人を、事故の型別で分類すると、最も多いのが「墜落・転落」の217人(25%)だ。休業4日以上の死傷者数149,918人でみると、一番が「転倒」で33,672人(23%)、次いで多いのがやはり「墜落・転落」で21,286人(14%)となっている。全体の死亡災害発生件数は少しずつ減少しているが、「墜落・転落」の占める割合がトップという状況は、ここ10年以上変わっていない。

死亡者数867人を業種別でみると、建設業が288人(33%)で一番多く、そのうち110人(38%)が「墜落・転落」で死亡している。つまり現在の日本の労働災害を減らそうとすると、建設業における「墜落・転落」への対策がカギになることがわかる。

これまでも労働安全衛生規則の改正が度々行われ、規制が強化されてきた。具体的には足場からの墜落防止措置として、手すり・中さん・幅木等の設置、足場の点検、足場の組立て等の作業時における墜落防止措置などの対策がとられてきた。また、かつての胴ベルト型やU字型の安全帯から、フルハーネス型墜落制止用器具の着用義務付けへと保護具の大きな変更も行われた。

しかし、それでも死亡災害の一番手をゆずることのない「墜落・転落」について、厚生労働省では2018年5月より「建設業における墜落・転落防止対策の充実強化に関する実務者会合」を開催、①足場等からの墜落・転落防止対策、②屋根等の端からの墜落・転落防止対策などについて、法令改正も視野に入れた検討を行ってきた。その結果について、2022年10月に報告書がまとめられたところだ。

小規模工事のノウハウ不足
マニュアルの作成と周知で対策強化へ

報告書はこれまでの墜落・転落災害の箇所別集計を調べ、その対策を検討する。

まず建設業で最も多く発生している「屋根・屋上等の端・開口部等からの墜落・転落災害」について、作業床の端の手すり未設置、要求性能墜落制止用器具の未着用等、法令で規定された墜落防止措置が講じられていないものが多く、また近年、はしご・脚立からの墜落・転落災害が増加傾向にあると特徴を指摘。

課題として、小規模な工事でのノウハウ不足、工費の問題による親綱支柱・親綱、墜落制止用器具の未使用などに対して、マニュアルの作成・周知が有効とし、またはしご・脚立対策も盛り込む必要ありとした。

すでに厚労省では、「~足場の設置が困難な屋根上作業~墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」(厚労省HPからダウンロード可能)を策定、基本的な対策を掲げ公表している。しかし屋根上での作業は様々で、作業の進め方なども異なっており、周知まではほど遠いのが現状だ。最新の墜落転落防止対策を含む見直しで、より分かりやすく、さらにはしご・脚立への対策なども盛り込んだものにして周知をはかるとしている。

手すり・中さんの規制外の一側足場
使用範囲の明確化が必要

「足場の通常作業中の墜落・転落災害」では、手すり・中さんが設置されておらずバランスを崩して墜落、作業床と手すりの間から転落が多いとされ、足場組立後の点検が行われないものや、一側足場では中さんが設置されていないケースも多くみられたという。

これに対する対策として、点検の実施を確実なものとするために、事業者が点検者を指名することを義務付けるとした。足場用墜落防止設備の規定(労働安全衛生規則第563条)の例外となっている一側足場は、足場を設置する場所が狭あいな場所での設置が念頭におかれているもので、十分なスペースがある場合(幅が1メートル以上)では、本足場(通常の足場)の使用を義務付けることとした。

足場の組立・解体は正しい手順で

「足場の組立・解体中の墜落・転落災害」では、まだ手すり等の設置がない中で、固定されていない足場部材等とともに墜落したケースなどの例がみられる。対策としては、まず正しい作業手順での組立・解体を実施することが重要で、作業手順の遵守が極めて大事とされる。また、より安全な手順となる「手すり先行工法」が有効であるとされている。

この報告書にもとづき、次図のように労働安全衛生規則が改正された。なお施行時期は「一側足場の使用範囲を明確化」については、2024年4月1日、「足場の点検者指名の義務付け」と「足場の完成後等の足場の点検後に記録すべき事項に点検者の氏名を追加」は2023年10月1日とされている。

図1足場墜落防止措置概要

屋根上からの墜落を防ぐマニュアル
小規模事業場に周知が必要

屋根上での作業で墜落・転落災害が多いというのは、素人目でもすぐにわかること。とは言うものの、一般家庭の屋根上の不具合箇所について、地元の業者さんに相談したら、その業者さんがいとも簡単に高所に墜落制止用器具も使用せずに上がって工事の算段をするなどという光景はよくみかける。

些細なことのようだが、これはとても危険なことだ。2メートル以上の高さで作業をするなら足場が必要、足場ができないなら墜落制止用器具を使用というのは労働安全衛生規則第518条だが、瓦屋根の上となると、足場も墜落制止用器具も面倒なこととなりかねない。

しかし、これを怠ったがための死亡災害、そこまでいかなくても重症の労災事故というのは、今でも相当数起きているのではないだろうか。

その面倒な対策は、どのようにすれば効果的で効率的な手順で進められるのかということをマニュアルにしたものが「-足場の設置が困難な屋根上作業-墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」だ。

たとえば墜落制止用器具のための主綱を地上から設置するのはどのようにするか。一般的な作業手順が解説されている。

①まず10メートルを超えるような長さの操作棒でガイドポール付きのパイロットラインを屋根上に通し、強固な構造物などに一端を固定した主綱をパイロットラインと仮固定する。

②パイロットラインと仮固定した主綱を手前側へ引き戻し、屋根上をとおした主綱を強固な構造物や樹木などに固定する。
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図2足場の設置が困難な屋根上作業での-墜落防止対策のポイント

理にかなった手順
様々な屋根上作業に活かす取り組みを

図解による解説を読むと、極めて単純な理屈が説明されているのだが、いちいち理にかなった手順を確認することになる。たとえば墜落制止用器具をちゃんと着用しているのに、適切な親綱の設置がなければ、墜落制止の意味をなさない場合もある。

またこのマニュアルを一読して、これまでもずっと昔からあった屋根上作業の墜落・転落災害の対策が、なぜ今まで一般に公表されるような形でまとめられなかったのかという疑問に駆られるのである。
おそらく建設業若しくは建設業以外の作業で、屋根上作業を必要とする場合はたくさんあるだろう。それぞれの場合に、基本の手順を前提として、理にかなったバリエーションの手順が実際の作業現場ではありそうだ。いや現に手順書が存在するかもしれない。

今後の墜落防止マニュアルは、そうしたバリエーション例を反映し、墜落・転落災害の防止につながるようなものとして周知されることが望まれる。

関西労災職業病2023年4月542号