安全帯→墜落制止用器具-2022年1月2日完全施行へ

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かつてのいわゆる安全帯は、来年2022年1月2日からは使用できなくなる。「安全帯」という言葉が「墜落制止用器具」に置き換わるという内容で2018年6月に改正公布され、翌2019年2月に施行された政省令で規定されている経過措置が、2022年1月1日までとされているからだ(図1)。

図1

安全帯

なぜ「安全帯」ではいけないのか。あらためてとりあげておきたい。

安全帯といえばすぐに目に浮かぶのは、丈夫なベルトに金具がついていて、そこから丈夫なロープ(ランヤード)が延びた先にフックがあるといういわゆる1本つりのものだろう(図2)。高所でフックを確実な取付設備に掛け、万が一作業中に足を滑らせても地面に叩きつけられることはない。

図2

たとえば労働安全衛生規則の第518条は、高所作業で事業主に作業床を設けることを義務付けているが、第2項でそれが困難な時には「防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止する措置を講じなければならない」としていた。

だから高所作業が必要なときで、とくに設備的な対策を講じるのが面倒な場合、安全帯を使用させるというのは、結構安上がりな対策になっていたということができるだろう。

もっとも、墜落死亡災害における安全帯の使用状況を調べると、たとえば2015年の248人のうち、安全帯不使用は236人(95%)となっている。だからそもそも安全帯を使用するという義務を徹底すること、安全帯使用が必要な作業環境を改善することが、まず第一ということにはなる。

しかし今度の改正は、さらに墜落死亡災害の現状にもとづき、安全帯使用そのものの問題点に対処するものだった。

悲惨な胴ベルト型、U字つりの死亡災害

表1をみていただきたい。平成18年から平成27年までの10年間で、安全帯そのものに起因する死亡災害が少なくとも6件起きているのである。「胴ベルト型安全帯が胸部までずれ上がり、胸部を圧迫」「胴ベルト型安全帯がヘルメットにかかり宙づりとなり…顎紐で頸部を圧迫」。いずれも悲惨な災害発生状況となっている。

表1 国内における安全帯に起因する死亡災害事例

まずこのうち4件の安全帯であるU字つりの問題がある。U字つりとは胴ベルトに金具の環が左右についていて、ロープを電柱等の対象物に回して両側で固定し、高所で体をロープで支えて作業をするという使い方をするものだ(図3)。

図3

墜落を防止するとともに、作業姿勢を保持する役割も果たすものとなっている。ところが災害事例では、肝心のときに胴ベルトがずり上がり、内臓を圧迫することにより死亡災害となってしまっている。

今回の改正では、こうした災害事例からU字つりは墜落制止用器具とはみなさず、あくまで作業位置を固定する(ワークポジショニング)用の器具と評価することにしている。

5m以下では胴ベルト型1本つりもOK

胴ベルト型の1本つりであってもずれ上がったり、墜落時の衝撃による内臓圧迫により死亡災害が発生している。このため、改正ではフルハーネス型のもの(図4)を使用することが原則ということとなった。

図4

ただ、フルハーネス型の場合、体を支えるランヤードに連結するⅮ環と呼ばれる金具の位置は背中部分にあり、高さによっては墜落時に地面に到達してしまう場合がある。その場合はこれまでの1本つりの胴ベルト型を使用することができるとされている。

その高さは6.75m以下と規定されている。中途半端な数字になっているのは、フルハーネスのランヤードとショックアブソーバの伸びの数字と落下距離を考慮、余裕をもたせた数字となっている。ガイドラインでは、フルハーネス型の使用条件について、ランヤードのフック等の取付高さが0.85m、ランヤードとフルハーネスを結合する環の高さ:1.45m、ランヤード長さ:1.7m、ショックアブソーバ(第一種)の伸びの最大値:1.2m、フルハーネス等の伸び:1m程度として、胴ベルト型を使用可能とするのは5m以下とすべきとしている。

特別教育の義務付けも

また、フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業に従事する労働者は、学科4.5時間、実技1.5時間の特別教育の受講が必要となっている。

墜落・転落災害は、全死亡災害の4分の1を占め、休業4日以上の死傷災害でも転倒に続いて2番目に多い。墜落制止用器具着用の徹底とともに様々な対策を講じていく必要がある。とりわけ高所作業でありながら、墜落制止用器具の着用自体が困難な作業は今も存在するのであり、対策強化が必要といえるだろう。

関西労災職業病2021年10月526号