月409.5時間拘束の待機は月40時間労働になる?驚きの労働時間査定で不支給処分/電柱破損復旧作業専門NTT下請け工事会社●大阪

交通事故などで電柱が折損したときに、現場に駆け付け復旧作業にあたる仕事がある。SさんはNTTの傘下の電気通信設備工事会社の下請会社の社員として勤務していた。

電柱の折損の情報がNTTの局で把握されると、待機用の部屋にいるSさんが持っている携帯電話に連絡が入る。電話を受けたらただちに復旧工事用のバケット車やレッカー車で現地に駆け付ける。

2021年4月、いつものようにNTTの局内にある部屋で宿直勤務中の夜中、立ち上がろうとしたときにふらつき、左半身に力が入らない。何とかやり過ごし、勤務終了後に病院に受診したところ、脳梗塞と診断された。

Sさんの勤務は、朝9時から夕方17時30分までの8時間30分、その逆の夕方17時30分から翌朝の9時までの15時間30分を1週間ごとに繰り返す勤務だった。ただ、昼勤と夜勤の切替日は連続24時間の勤務となる。この勤務実態がSさんの場合は、1年365日繰り返されていた。

拘束時間はきわめて長いが、電柱の折損という事態は、対象エリアが広いといえどもそう度々あるわけでもなく、平均すると出動回数は月に3~4回程度だった。だから電気通信設備の工事といっても実際の作業を行うのは、その3~4回程度となる。しかし、勤務時間中に電話があれば、原則として1時間以内に所用の装備を伴って現地に駆け付けなければならない。

間違いなく長時間労働であり、Sさんは同年6月に労災保険の請求を行った。しかし所轄の羽曳野労働基準監督署は、2022年7月になって、「長時間の過重業務」「短期間の過重業務」「異常な出来事」いずれにも該当しないので業務起因性は認められないと不支給処分を行った。

これをうけてSさんは全国一般大阪地方労働組合に相談、審査請求を行うことにし、アドバイスにしたがって、労基署の処分についての開示請求をおこなった。その結果わかったのは、Sさんの労働時間について、労働基準監督署は拘束時間のほとんどを除外して認定していたということだった。

曰く、待機時間中にSさんが行わなければならない業務は出勤管理表の作成、事業場の車両に係る修理の手配などであり、ほとんどの時間を「テレビや携帯を見る、タブレットで映画を見る、新聞や本を読む、食事をする、たばこを吸う、寝る、バイクの手入れをするなど自宅と同じようにすごしていた」ので、これら手待ち時間は業務の過重性がほとんどなく、業務の過重性を評価する労働時間から除外して判断すべきと判断した。

その結果、労働時間は1出勤ごとに出勤管理表作成などに費やした1時間を労働時間とし、電話があって出動したときは1出動について5時間の労働時間と評価した。これにもとづいて作成したという労働時間集計表の発症直前1か月の労働時間はなんと40時間、うち時間外労働は8時間だったという。しかし、この同じ1か月のSさんが勤務した拘束時間つまり待機時間全部を労働時間と計算すると、総労働時間は409.5時間で、そのうち時間外労働は249.5時間だった。

労働時間の認定、とりわけ手待ち時間や待機時間をどのように認定するかについて、厚生労働省は2021年3月に「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」を公表している。これによると、「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等をしている時間は労働時間に該当する。」と原則を示している。事例でも警備員の仮眠時間について、「仮眠中に使用者の指示により即時に業務に従事することが求められており、労働から離れることが保障されていなければ、使用者の指揮命令下に置かれているものとして労働時間に該当する。」としている。

「疲労の蓄積」が発症に寄与するという見方を採用した2001年の認定基準改正以来、睡眠時間を圧迫する長時間労働が問題となり続けているにもかかわらず、論外の労働時間認定で不支給処分を行った羽曳野労働基準監督署の判断は批判されてしかるべきだろう。早期の取消し決定が望まれる。

関西労災職業病2023年3月541号