「命の救済」と「すき間・格差のない救済」を求めて /中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が省庁交渉

丁々発止の攻防のなか

患者と家族の会が毎年行っている石綿健康被害救済に関する政府交渉が7月26日、オンラインで行われた。

交渉に先立ち同会は、環境、厚生労働、法務の三省大臣宛に要望書を提出、重点課題について当事者の声を当局担当者に聞かせるヒアリング(患者2名、家族4名(うち3名遺族))をおりまぜて、約2時間のやりとりが行われた。

当局側からは、環境省環境保健部石綿健康被害対策室長の木内哲平氏など各省担当者が出席し、要望各項目について回答、質疑が行われたが、当局から従来の回答から前進する回答は得られなかった。

6月6日から「中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会」がはじまり、今回の交渉は第1回(6月6日)と第2回(8月26日)の間に開催されたこともあり、この救済小委での議論とも関連して、交渉では厳しいやりとりが行われた。

救済小委では冒頭から、以下に紹介する要望書項目をめぐっての攻防となっており、詳細は追って報告するが、おおまかにいえば、救済給付の改善や救済基金の治療研究への活用などについて会側の説得力ある主張展開に対して、環境省側が救済小委・浅野直人委員長を含む環境省御用達ともいえる「御用学者」と一体となってなりふり構わぬ強引な救済小委運営の挙に出てきたものの、会側の的確な反撃が効果をあげている、という状況といえるだろう。

石綿健康被害救済制度の今後を左右する救済小委などを舞台とした改正運動に対する、読者のみなさんのご注目とご支援を切に訴える。

三省に対する要望書(要点)

環境・厚生・法務大臣 宛
「命の救済」の実現と「すき間」と「格差」のない救済を求める要望書

1  療養手当ほか給付の見直し

(1) 救済給付調整金とは別に、遺族に対して年金ないしは一時金、および就学中の子供のいる家庭には就学援護費の支給をすること。
【理由】現行の給付には、原則、葬祭料(約20 万円)以外の遺族への給付が一切ないことは、非人道的で理不尽極まりない。

(2)「被害者の健康で文化的な生活の確保」するため、療養手当の見直しを図り、今すぐ倍増するいこと。
【理由】仕事を辞めざるを得ない患者が多くいる。中には年間の世帯の収支合計が発症前に比べて200 万円以上も減額になったとする調査結果がある。患者への療養手当は低額一律で収入減への配慮が皆無。近年重要になった中皮腫臨床試験への参加交通費も考慮されていない。

(3) 交通費、差額ベット代、介護保険制度の利用に係る実費について「療養支援手当」を設定して支給すること。

(4)救済法抜本的見直し提言をした石綿被害救済研究会の外部専門家と石綿健康被害救済小委員会の法律専門家らによるワーキンググループを作りしっかり検討する場をつくること。

(5)若年時曝露などによる労災給付基礎日額が超低額になる問題を改善すること。

2 「命の救済」に向けた石綿健康被害救済基金の治療研究等への活用

(1) 石綿健康被害救済基金は現在、約800 億の残高となっており、この際、石綿被害救済法第一条を改正し、治療研究分野に、石綿健康被害救済基金を活用できるようすること。

3  肺がんの判定基準と申請・運用のあり方

(1) 肺がんについては、救済法での判定基準が労災保険制度に対して厳格すぎる。建設アスベスト給付金制度で認定された場合には石綿健康被害救済制度で認定する取り扱いと成ったことにも合わせて肺がん判定基準を改善すること。

(2)胸膜プラークの判定に手術中写真による胸膜プラーク確認を取り入れること。

(3)労災と救済制度の医師証明を共通フォーマットとするなど現場の医師負担を軽減すること。

4 対象疾病の拡大と給付のあり方

(1)石綿健康被害救済制度でも良性石綿胸水を対象疾病に追加すること。労災保険制度において卵巣がん、喉頭がん、膀胱がんを対象疾病に追加すること。

(2) 労災保険制度における良性石綿胸水の場合に、検査日や治療日等だけ休業補償支給対象とし「著しい呼吸機能障害」がない者へは支給をしなくてよい旨本省から指示していることの経過や医学的根拠を示すこと。

5 周知徹底

(1)各法務局での死亡診断書の原則27年間保管を徹底し、人口動態調査における「死亡票」も活用すること。

(2) 受診時に、病院の医師から患者への労災保険制度や石綿健康被害救済制度について情報提供をすることを義務付け、徹底した個別周知による「すき間」のない救済を実行すること。

6 民間部門におけるピアサポート活動等の周知と支援

(1) 行政窓口において民間部門のピアサポート等に関する情報提供を行うこと。グリーフケア等に取り組む被災者団体の情報についても当事者遺族に周知すること。

関西労災職業病2022年9月536号