コロナ禍と労働災害発生状況-感染症対策と高年齢労働者対策が課題

コロナ禍の労働災害が激増

新型コロナウイルスの感染者数増加が止まるところを知らない状況だ。第7波が到来して以降、1日に20万人をこえる日があり、累積の感染者数は間もなく2千万人を超えそうだ。

もし感染が職場由来のものであれば、労働安全衛生法に定める労働災害なので、当然事業者は、法律上の措置をとらなければならない。感染が陽性であることが判明し、4日以上の休業をした労働者がいれば、1件ごとに労働基準監督署に死傷病報告を提出する義務がある。休業したことによりその分の賃金を受けられなかった労働者は、労災保険の休業補償給付を請求することができる。

こうした点について、全国労働安全衛生センター連絡会議で取り組みを進めたところ、厚生労働省は一昨年4月の早い段階からの周知をはかってきた。業務によって感染したことがはっきりしている医療従事者などではなく、経路が不明であっても、感染リスクが高い仕事に従事し、それにより感染した蓋然性が強ければ労災保険を適用するとした明確な認定基準の周知も進められた。たとえば不特定多数の客に応対する小売店の店員の場合は、蓋然性が強いと判断され、他の感染経路が明らかでない限り業務上疾病として認定されることになる。

それでは新型コロナウイルス感染症の労働災害発生件数と労災保険の請求件数の状況はどうなっているだろうか。

厚生労働省の発表によると、8月31日現在で、累積の労災保険支給決定件数は53,325件となっている。相当な数字だが、請求件数の推移をみるとさらに興味深い状況が分かる。労災保険適用の周知について行政通達が発出された2020年4月以降、請求件数は増加し、翌2021年1月から今年の2月までは毎月千~2千件で推移してきた。ところが第7波で感染者数が急増した影響で今年の3月は5,978件に跳ね上がり、以降は4月8,302件、5月7,192件とすさまじい請求件数となっている。もちろん請求に対応して支給件数も飛躍的に増加し、5月5,008件、6月8,211件、7月6,955件、8月6,684件という具合だ。累積53,325件のうち、5月からの4か月だけで26,858件、ちょうど半分を占めている。このままいけば今年は前代未聞の数字になることは確実だ。

労働災害の全数を押し上げ

全体の労働災害発生件数を見てみよう。

労働災害による死亡者数は1999年の1992人以降、おおむね減少傾向が続き、2020年は802人となったが、翌2021年は一転して跳ね上がり867人となった。一方、休業4日以上の死傷者数はここ10年あまり漸増傾向となり、2020年が131,156人だったところ、2021年は149,918人と、14%も増加している。

理由ははっきりしている。コロナ禍による疾病が上乗せされているからだ。コロナ禍による労働災害を除くと、死亡者数は2020年で784人、2021年は778人で一応減少傾向は維持している。休業4日以上についても、2020年125,115人が2021年130,586人と漸増傾向の状況は引き続いている格好となる。

また労働災害のうちの業務上疾病についての統計数字は次表のとおりとなっている。労働基準法施行規則第35条別表第1の2で「病原体による疾病」に分類される業務上疾病は2020年に跳ね上がり、そのほとんどが新型コロナウイルス感染症によるもので、これが全体の件数を大きく引き上げていることが分かる。

こうした労働安全衛生対策の歴史上例をみない現状をどう考えるべきだろう。この3月以降の第7波の状況を考えると、2022年の労働災害統計には桁違いともいえる影響を及ぼすことになるだろう。仮に今年残された9月から12月がそれぞれ5,000件の発生が続くとすると、1月から8月が33,307件なので、合計53,000件程度となり、これが業務上疾病全体を押し上げて、なんと6万を超えること確実ということになる。

高年齢労働者対策と感染症対策が安全衛生の課題に

さて、コロナ禍以外の労働災害発生状況についてどう評価すべきだろうか。

厚生労働省の発表では、2018年を開始年度とする第13次労働災害防止計画の最終年度が今年度となることから、目標数値の達成見込の観点からの評価がされている。2017年比で死亡者数を15%以上、死傷者数を5%以上減少させるとしていたものが、達成の見込みがおぼつかない状況となっている。特に死傷者数については増加傾向が続いており、とくに陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設及び飲食店を中心に増加していると分析している。

また、近年の特徴として指摘されているのは高年齢労働者の労働災害多発である。高年齢者雇用安定法の改正などにより、雇用労働者全体に占める60歳以上の占める割合は着実に上昇している。労働災害による死傷者数で60歳以上が占める割合も、20年前の2000年で15%だったのが、2021年で25%にまで上昇している。労働災害の種類としては転倒、墜落・転落で明らかに高年齢労働者の発生率上昇がみられる。

「13次防の最終年度となる令和4年度は、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止の徹底を図りつつ、建設現場等における足場等の高所からの墜落・転落災害、陸上貨物運送事業において多発している荷役作業中の災害の防止対策の徹底、小売業及び社会福祉施設で多発している転倒や腰痛による労働災害防止を図るための意識啓発を通じた自主的な安全衛生活動の普及・定着等を重点に取り組んでいきます。」

厚生労働省の「令和3年の労働災害発生状況を公表」ページのコメントにある結語だが、「意識啓発を通じた自主的な安全衛生活動の普及・定着」でどのような効果が得られるか、相当に道は険しいのではないかと考えられる。

福祉、介護の職場や流通関係の職場に高年齢の労働者がますます多く働くこれからの職場で、労働災害防止を進める対策としては、職場のハード面での安全対策を誘引するような助成制度の拡充など、さらに具体的な施策が必要になるのではないだろうか。そのために業種に狙いを絞った予算措置も必要となると考えられる。

そして職場におけるコロナ禍対策である。感染者が日本中で2千万人、感染のため休業する労働者は数知れず、職場での感染と労働災害としての届け出が何万件、まさに未曽有の事態だ。感染症対策を職場の安全衛生活動としていかに取り組むのか、いま解決が求められている焦眉の課題だ。

関西労災職業病2022年9月536号