年々増えるハラスメントによる労災事案●2021年度過労死等(脳・心臓疾患、精神障害)の労災認定状況

厳しい労災認定状況

厚生労働省は、2022年6月24日、2021年度の「過労死等の労災補償状況」を公表した。

令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚生労働省)

脳・心臓疾患と精神障害を発症したとして労災請求された事案を過労死等としてまとめたものだ。長時間の過重労働については、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる長時間の時間外労働の時間数が定められるなど基準が明確化しているが、労災認定基準で認められた事案の件数は、請求件数に対して少ない。昨年度の労災認定状況についても、多少、件数の増減があれど、労災認定の厳しい状況を再確認しただけである。

新型コロナウイルス感染症に関連する過労死事案について、脳・心臓疾患では2020年度は0件であったが、昨年は8件の労災決定があり、うち2件支給決定されたようだ。

精神障害については、2020年には7件の支給決定があったが、2021年度は決定も支給も0件だった。

どのような案件であったか、詳細は不明だが、重篤な感染症の症状や療養の長期かにより、脳・心臓疾患、精神疾患を発症することは十分に考えられる。

脳・心の支給件数、認定率は低下が続く

脳・心臓疾患の請求件数は、前年より31件減った753件、決定件数も40件減って、525件で、そのうち支給決定件数は172件で20件減、労災認定率は32.8%だった(表1-1)。

2020年の29.2%よりは高くなったが、依然、低い数字だ。請求件数は、2019年の936件以降、2年連続で減少、決定件数も同じである。コロナウイルスの流行の影響により、長時間労働が減少したのかもしれない。しかし、支給決定件数は請求件数の増減と関係なく、減少を続けている。2007年に請求931件、決定856件、支給392件であったのが、この10年以上の間減少を続けて、2020年から200件を切り、2021年は172件まで減った。労災認定率も2007年45.8%から32.8%へと下がっている。コロナウイルスの流行前の2019年より前3年ほどは、請求件数が増加傾向にあったため、過労死防止対策が効果を上げているとは考えにくい。

脳・心臓疾患の業種別の状況では、1位は「運輸業・郵便業」で請求件数155件、決定件数は121件、支給決定件数は59件だった。2位は「建設業」で請求件数105件、決定件数66件だが、支給件数は17件で「製造業」、「卸売業・小売業」の次の4位だった。「卸売業・小売業」は請求件数92件、決定件数65件、支給件数22件で3位だった。4位は「製造業」で請求件数88件、決定件数60件だが、支給件数は23件で2位だった。5位は「医療・福祉」で請求件数83件、決定件数49件、しかし支給件数は6件と非常に少なく7位で、請求件数が多い「宿泊業・飲食サービス業」の7件より1件少なかった。

職種別では、請求件数と支給件数の順位がかなり違っている。請求件数では「輸送・機械運転従事者」が1位で請求件数161件、決定件数141件、2位「専門的・技術的職業従事者」請求110件、決定82件、3位「サービス職業従事者」請求78件、決定41件、4位「販売従事者」請求72件、決定57件、5位「事務従事者」請求65件、決定31件の順になっている。支給決定件数の順では、1,2位は請求件数と同じ順位で、「輸送・機械運転従事者」54件、「専門的・技術的職業従事者」27件で、3位は「管理的職業従事者」19件だった。ただし、請求件数は38件で決定件数は請求より多い46件で4位だった。「販売従事者」が支給19件で4位、5位は「サービス職業従事者」と「生産工程従事者」の支給10件だった。

年齢別支給決定件数では、50~59歳が67件と一番多く、次に40~49歳55件で40~59歳で全体の70%を占めた。
時間外労働時間別の支給決定件数では、では、評価期間1か月では100~120時間未満が20件と一番多く、2~6か月の平均では80~100時間未満の56件だった。1か月で100時間未満、平均が80時間未満で支給決定された事案は、労働時間以外の付加要因を認めた事案で、1か月80~100時間未満は7件、60~80時間未満は4件だった。1か月平均では、次に60~80時間未満25件、100~120時間未満18件の順だった。

ハラスメント関連事案が支給の約40%

精神障害の労災認定状況については、請求件数2346件、前年から295件増加、決定件数は1953件で47件増、支給決定件数629件で21件の増加、労災認定率は32.2%だった(表2-1)。新型コロナの流行とは関係なく、請求件数も支給件数も増加した。労災認定率は、この5年31~32%で推移している。

精神障害の業種別の表を見ると、「医療・福祉」がダントツ1位で、請求件数577件、決定件数465件、支給件数142件だった。2位は「製造業」で請求件数352件、決定件数314件、支給件数106件、3位は「卸売業・小売業」で請求件数304件、決定件数261件、支給件数76件、4位、「運輸業・郵便業」で請求件数179件、決定件数168件、支給件数67件である。請求件数5位は「建設業」の122件だが、決定・支給件数は6位でそれぞれ87件、37件である。6位は「情報通信業」で請求件数105件、決定件数109件は5位、支給件数は少なく27件で7位だった。「教育・学習支援業」が7位で請求件数89件、決定件数75件と支給件数20件はそれぞれ8位だった。支給件数で見れば、1~3位の「医療・福祉」「製造業」「卸売業・小売業」で50%を占めている。「運輸業・郵便業」「宿泊業・飲食サービス業」「建設業」もそれに続いて多い。「医療・福祉」については以前より特に多く、脳・心臓疾患の請求についても少なくない件数があり、職場の身体的、精神的負荷が高いことがうかがわれる。

職種別では、1位「専門的・技術的従事者」請求件数599件、決定件数485件、支給件数145件、2位「事務従事者」請求件数512件、決定件数422件、支給件数106件、3位「サービス職業従事者」請求件数353件、決定件数281件、支給105件、4位「販売従事者」請求件数283件、決定件数245件、支給件数77件、5位「生産工程従事者」請求件数228件、決定件数200件、支給件数62件の順となっている。支給決定件数の「専門的・技術職業従事者」には保健師や看護師36件、社会福祉専門職18件、建築・土木技術者16件など「サービス職業従事者」には介護サービス職47件、接客・給仕従事者27件、飲食・調理従事者19件などが含まれている。やはり医療や福祉に従事する労働者が多い。

年齢別では、脳・心臓疾患に比べて一番多いのは少し若い世代の40~49歳、次に30~39歳、20~29歳の順だったが、支給件数は20~29歳が2位、30~39歳が3位だった。

負荷となった出来事別の支給決定件数の状況では、一番多かったのは、「パワーハラスメントを受けた」で125件、決定された件数でも242件で2位、認定率でも52%と高かった。前回の決定88件支給99件からさらに増加し、全体の約20%がこの項目で認定されたことになる。2位は「仕事の内容・量の変化を生じさせる出来事があった」で71件、決定件数も多くて183件(3位)だった。3位は「悲惨な事故や災害を体験・目撃した」で66件(決定100件6位)、4位は「同僚等から暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた」で61件(決定126件4位)、5位は「セクシュアルハラスメントを受けた」60件(決定97件7位)、6位「2週間以上にわたって連続勤務を行った」の39件(決定52件10位)、7位「病気やけがをした」32件(決定89件8位)、8位「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」で28件(決定36件11位)だった。「パワーハラスメントを受けた」をはじめセクハラを含めハラスメント関係での認定事例が多く、合計すると全体の40%ほどになる。次に労働時間、長時間労働に関連した認定が多かった。

「特別な出来事」で認定されたのは63件あり、そのうちに「極度の長時間労働(月160時間以上の時間外労働)も多数含まれていると思われる。

決定件数が451件で一番多いにもかかわらず、支給決定件数がわずか17件、認定率では4%であったのは、「上司とのトラブルがあった」の項目である。おそらく被災者にとっては上司からのパワーハラスメントと感じられたであろうが、労働基準監督署によって単なるトラブルと判断されたか、あるいは、出来事があった事実が確認できなかったものが430件もあったということだろう。

最後に都道府県別の認定状況についてだが、大阪は請求件数230件、決定件数166件、支給件数60件で認定率36.1%だった。2020年度は請求件数222件、決定件数208件、支給件数51件認定率24.5%だったので、決定件数が減少したのに支給件数は9件増えて、認定率が10%以上あがった。これまで、大阪の認定率は20%台で常に全国平均の10%は低かったので、今回の認定率36%は快挙である。出来事に「パワハラを受けた」が加わり、かなりの認定率であるのが影響したのかもしれないが、詳細については大阪労働局との懇談の機会に説明を求めたい。ただし、36%は高い数字とは言えない。

東京(決定441件・支給106件・認定率24%)や神奈川(決定156件・支給43件・認定率28%)も全国平均より低かった。静岡、愛知も27%と低く、認定基準の運用を見直してほしいものだ。

関西労災職業病2022年7月534号

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