またもや棄却!ANCA関連血管炎行政処分取消訴訟大阪高裁控訴審判決
2022年5月20日、大阪高等裁判所において、ANCA関連血管炎の業務起因性をめぐる行政訴訟の控訴審について判決が下された。1審と同様原告の請求は棄却された。
ANCA関連血管炎訴訟は、2004年4月22日に結節性多発動脈炎で亡くなった被災者のご遺族が提起した審査請求・再審査請求を経て、2011年11月25日に提起した行政訴訟である。もともと被災者は珪肺を抱えていたが、死亡原因は肺疾患ではなかった。死亡診断書上の死亡原因は多発性動脈炎と記載されていたものの、のちにANCA関連血管炎のひとつである顕微鏡的多発血管炎であったことがわかった。この疾病がシリカばく露によって発生することが明らかなことから労災請求を行ったが、再審査請求まで争うものの不支給の処分は覆られなかった。提訴年に発行された厚生労働省の「ANCA関連血管炎診断ガイドライン(2011)」によると、「AAV(ANCA関連血管炎)の環境因子としては、シリカおよび抗甲状腺薬であるプロピルチオウラシルの関連が確立している」とあり、この疾病の原因物質として明確にシリカを挙げている。先にも述べたように原告は珪肺にも罹患していることから、長期間業務を通じて大量のシリカにばく露にしてきたことは間違いなく、ANCA関連血管炎についても業務上疾病として認められるべきである。
2014年、2015年と2名の同疾患で闘病中の元はつり工が、療養の費用の給付に対する不支給処分の取消訴訟をそれぞれ提起した。3件の訴訟は併合され同時に進行していったが、両名とも2020年12月23日の一審判決を迎えることなく亡くなったため、遺族が承継している。二人とも死亡原因はANCA関連血管炎の一つである顕微鏡的多発血管炎であることから、遺族に対する遺族補償請求についても、やはり不支給処分を受けている。更に現在は、同疾患に罹患した2名(いずれも故人)についても、これまで同様、労災請求から再審査請求まで争ったが不支給となったため、その処分の取消訴訟を大阪地方裁判所に提起し係争中である。まとめると10数年で、5名がANCA関連血管炎の業務上外をめぐって労災請求を行い、再審査請求を経て争っていることになる。
血管炎という疾病は、血管壁に好中球、リンパ球などの白血球が接着あるいは浸潤して、血管壁の構造を破壊して発生する。放っておくと細胞に血が回らなくなったり、壊死したりするため、白血球による血管破壊行動を阻止するべく免疫抑制薬で治療を行わなくてはならない。
「ANCA」とは、好中球内にある外部からの異物を消化する器官を標的とする自己抗体の総称である。この存在が確認されたのは40年前と比較的最近で、さらにANCAが関与する自己免疫疾患の一群をANCA関連血管炎と呼ぶようになって、まだ30年も経っていない。しかしANCAが確認されたのちは、何が原因で産生されるのかということも世界中で研究が進められてきた。これらの研究成果は2013年にメタ分析論文でまとめられ、シリカばく露による顕微鏡的多発血管炎の発症を確実なものとしたのである。
原告が科学的な根拠に基づいて主張を展開してきたことに対し、国は揚げ足取りというやり方で対抗してきた。裁判所に証拠として提出された疫学論文の中で議論されていないことをわざわざ挙げて不十分な内容であると主張したり、ほかにも発症の原因があるはずだとことさらに書き立てた。裁判所もこの議論に乗ってしまい、原告が示した科学の文法に基づいて算定されたオッズ比を排除し、最後には誰にも見えない「高度の蓋然性」という物差しをかざして棄却してしまった。裁判所の直感によって科学的推論が退けられたのである。
3名については上告し、これからもじん肺患者の中から自己免疫疾患に罹患した方が発生したときには必ず労災請求を行っていく予定である。
関西労災職業病2022年6月533号