会計年度任用職員制度はできたが…改善されない非常勤職員の災害補償

まかり通った脱法行為-地方自治体の非常勤職員の勤務条件

総務省によると、地方公共団体における臨時・非常勤職員の数は、2020年4月1日現在で69.4万人だという。2005年が45.6万人だったというから、15年の間に14万人増えたことになる。反対に常勤の地方公務員の数は減り続けている。2005年の総数が304万人だったのが、2020年は276万人で、28万人の減少だ。様々な時代の変化に応じた職種ごとの増減はあるだろうが、常勤が減り非常勤が増えるのは、何といっても財政対策であるというのは明らかだ。たとえばある市の市立保育園の保育士は、園長を含めて全員が非常勤職員などというケースもあるらしい。

もともと、常勤の職員に欠員を生じたときに臨時的に任用するのが臨時職員であり、専門的な知識経験や識見にもとづく事務で労働者性の低い職が特別職非常勤職員であり、法律上の位置づけもそうなっていた。

ところが、常勤の職員がやっていた仕事を、臨時・非常勤の職員にさせることによって経費を削減するという方法が、日本中の地方自治体で普通にとられるようになった。その結果、本来、臨時的または専門的なはずの職員が、どこの役所でも日常的で非専門的な(代替可能な)仕事を担当するということになったわけだ。

そうすると制度や法律が予想していなかった問題が起きる。たとえば常勤職員より15分だけ短い就業時間を定めた臨時職員が、1年の契約期間が到来したら、1日の空白を置いて引き続き契約を繰り返す。毎回新しい契約であり連続していないので、昇給はなく、有給休暇の日数にも勤続は反映せず、1年未満なので社会保険料の事業主負担も免れる…。こうした脱法行為も地方自治体でまかり通る状況となってしまった。

また特別職非常勤職員は地方公務員法の適用対象になっておらず、たとえば守秘義務のような制約が課されないことになるし、非常勤職員はいくら労働者性があっても「給料」や「手当」は支給されず、「報酬」「費用弁償」が支給される。だから常勤では普通の「期末手当」は支給されない。

会計年度任用職員制度はできても、災害補償は据え置き状態

こうした矛盾を解決するために2017年に地方公務員法と地方自治法が改正され、「会計年度任用職員」制度が2020年4月に施行された。これまで専門的知識を要するものでもなく、臨時的でもなく、ただ常勤職員が行っていた職を、非常勤職員でまかなうということが、「会計年度任用職員」として雇用することによって矛盾を解消したというわけだ。

はれて法律に位置付けられたことにより、期末手当の支給が可能となり、地方公務員としての制約もかかることとなった。しかし、財政上の対策で会計年度ごとの任用となっていることには変わりなく、常勤職員との勤務条件の格差自体は、より公然化したに過ぎないことになる。

こうした勤務条件の格差について、公務災害補償の点ではどうだろうか。実はこの分野、問題点が山積していて、制度改正が必須なのだが、まったく据え置き状態に置かれてしまっている。

〔最近の本誌では、2018年12月(494号)で、「公務災害 本庁非常勤職員の災害補償―不安定な条例による補償制度の大改正を」、2019年3月(497号)「自治体非常勤職員の災害補償 労災保険適用の非常勤職員―労働基準との公平確保には条例が必要」で問題点を検証している。〕

今回は、会計年度任用職員制度の創設以降の状況に照らし合わせて、その問題点をあらためて確認しておくことにする。

地公災法は常勤職員が対象-非常勤は労災保険かはたまた…

まず、常勤の職員(一般地方独立行政法人の役職員も含む)は地方公務員災害補償法(以下「地公災法」)でいう「職員」となり、地方公務員災害補償基金より補償を受けることになる(地公災法第2条)。

非常勤の職員であっても、次の2つの場合は「職員」とみなすとしている。

1つは、定年退職者等で1年以内の任期で短時間勤務の職に採用されたもの(再任用短時間勤務職員)、専門的な知識経験が必要な職に採用する任期付短時間勤務職員、地方公務員の育児休業等に関する法律における育児短時間勤務に伴う短時間勤務職員については、地方公務員法で位置付けられ(第28条の5第1項)、地公災法が適用される。

2つ目は「常勤的非常勤職員」だ。常勤職員の勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が引き続いて12月を超え、その日以後引き続き勤務する。つまり常勤に準ずる者として対象とするわけだ。

以上の条件にあわない非常勤の職員は、地公災法の対象とはならない。

それでは何が適用されるか。

「使用され賃金を支払われる」(労働基準法第9条)労働者なのだから、労働者災害補償保険法(以下「労災法」)の「労働者を使用する事業を適用事業とする。」(第3条第1項)により、労災保険が適用されることになる。ところが、すぐ後に「前項の規定にかかわらず、国の直営事業及び官公署の事業(労働基準法別表第一に掲げる事業を除く。)については、この法律は、適用しない。」(同第2項)とある。(下表は「地方公務員の災害補償制度の適用範囲と実施機関」地公災基金東京都支部「災害補償の手引」より)

労働基準法別表第一」とは全部で15に号別列挙された業種のことで、入らないのは市役所・役場、警察署、消防署の本庁での業務ということになる。否定の否定が続きややこしいことこの上ないが、非常勤職員として役所に雇用されていても、本庁以外の仕事なら労災法が適用される。しかし非常勤で本庁での仕事なら、労災保険の対象にもならない。

ではどうするかというと、地公災法はその第69条で、「地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員のうち法律(労働基準法を除く。)による公務上の災害又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないものに対する補償の制度を定めなければならない。」となっていて、それぞれの地方自治体ごとに条例の制定が義務づけられている。○○市、○○町、一部事務組合で清掃工場が運営されているなら、その事務組合でそれぞれ条例を定めなければならないわけだ。どんなに小規模であっても法律に定めがあるのだから例外はない。

その条例が定める内容は、「この法律及び労働者災害補償保険法で定める補償の制度と均衡を失したものであつてはならない。」(地公災法第69条第3項)ので、長年の歴史の中で様々な福祉制度により補強され充実した内容が漏れなく規定されたものでなくてはならないことになる。

そのため総務省は、「〈参考〉議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(案)」という条例の雛形を提示し、これに倣って各団体が制定することにしている。だから、労災法や地公災法関係の改正があるたびに連動してこの条例(案)も改正されることになり、これに呼応して改正された条例案がその団体の議会に提案され、承認されるという手続きが繰り返される。

小さい自治体で可能??-災害補償のフルセット運用

と、ここまで現行制度を紹介すると、ごく単純な問題点があることにお気づきかもしれない。地方自治体ごとに独立した条例にもとづく制度は、小規模な自治体で適切に運営されるのだろうかということだ。

たとえば職員数100人余りの役場の本庁で、事務補助の非常勤職員(会計年度任用職員)を採用し、その職員が職業性疾病を発症し、対応を求めたとしたらどうだろう。役場の幹部がしかるべく判断し、わからなければ府県庁の窓口と相談して適切に対応というのが正解なのだろうが、うまくいくだろうか。残念ながら難しいだろう。

そもそもこの補償条例自体が、労働者である非常勤職員だけではなく、議会の議員や各種委員も一緒に定められており、災害補償の請求権が労働者にあるという基本的な考え方自体のあやふやなのだ。たとえば非常勤職員やその遺族の補償請求権に関する規定がそもそもない。

2017年に北九州市の非常勤職員の死亡について遺族が公務災害認定を求めたら請求を拒まれたことが報道された。この件については、その後、総務省が翌2018年7月に条例の施行規則(案)を改めることにより、最低限の改正を行い、運用によりカバーすることとなっている。しかし、非常勤職員という明らかな労働者について、法律上の権利が保障されていないというのは根本的な問題だ。

(参考)公務災害請求に至らず 北九州市非常勤職員の自殺 遺族、市長発言に不信感(2019/9/11)西日本新聞

地公災法や労災法で定める「補償の制度と均衡を失したものであつてはならない」というのはちゃんと守られるだろうか。福祉事業には、補装具の支給やリハビリテーション、奨学援護金や就労保育援護金の支給などなどずいぶんとたくさんの制度があり、それぞれに詳細の運用基準があり、それらを間違いなく権利のある人に渡るようにするというのも個々の自治体の事務局によることとなる。はたしてそんなことが可能だろうか…というか現に運営できているだろうか。

補償の実施について、本庁非常勤職員の被災者に不服があるときの、審査請求はどうだろう。地公災法も労災法も審査請求の制度は都道府県単位の審査、中央での再審査の制度がある。条例による補償では、個々の自治体に委員3名からなる審査会を置くこととなっていて、審査を行う。実際に審査請求があれば、これも事務局が対応することとなるだろう。ほとんど現実的とは思えないのである。

実際には災害補償の官民格差歴然-すべての職員に地公災法適用を

さて、それではこの問題だらけの状況はどう改善すればよいだろうか。労災法を改正し、除外規定を定めた第3条第2項から「官公署の事業(労働基準法別表第一に掲げる事業を除く。)」を取り除き、非常勤なら本庁も含めて例外なく労災保険の適用にするのが良いだろうか。それとも地公災法第2条の「職員」の定義や施行令による定めをあらためて、地方自治体に勤務する「労働者」にあたる職員すべてについて地公災法の対象にするのが正しいだろうか。

いずれの改正もそう難しいことではないように思う。ただ、現在の地公災法、労災法の補償内容を比較するとき、地公災法の水準の高さという問題がある。地公災法では労災法と同等の水準での各種の補償給付があることに加えて、遺族補償では公務災害で1860万円、通勤災害で1055万円の遺族特別援護金が上乗せして支給される。障害補償でも等級に応じて障害特別援護金が支給される。

この制度は、民間の労災付加給付制度に準じるかたちで、国家公務員災害補償法で設けられたものだが、地公災法でもそのまま創設され、金額も年々充実してきたものだ。たしかに民間の労災付加給付制度は大手企業で多く採用されてはいるが、全労働者からすれば対象は限られている。そういう意味では、明らかに災害補償制度の官民格差といえるだろう。ほかにも細かい制度運用で、地公災法の優位性があるのが現状だ。

そう考えると、非常勤職員の災害補償については、地公災法の対象を全職員対象とするように改正するのがいいようだ。

かつて、大学や病院などの国立の機関が独立行政法人に移管し、国家公務員から民間となり、災害補償も国家公務員災害補償法から労災法に切り替わったことがある。この時に、各独立行政法人はこの特別援護金制度について「法定外災害補償規則」などとして、すべて横並びに規定を設けたということがあった。

もし地方自治体の非常勤職員の災害補償をすべて労災保険適用とするならば、同じように何千の地方自治体で同様の新たな条例を制定しなければならないこととなる。

本庁の非常勤職員なんてそれほど危険な職種でもないし、増えたといっても限られた数ではないかというわけにはいかない。災害補償制度の根本矛盾は早期の解決が必要だし、可能なはずだ。

関西労災職業病2022年3月530号

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