「韓国の職業がん」鈴木明さん記念講演/関西労働者安全センター第42回総会開催~2022年2月18日

関西労働者安全センター第42回総会を2022年2月18日に開催した。

新型コロナウイルス対策のため、オンラインでの開催となった。遠隔地からも参加可能である利点を生かして、記念講演を韓国の鈴木明氏にお願いした。韓国石綿追放ネットワークの執行委員長としての活動に加えて、日本の労働安全衛生の知識を生かして、日本と韓国の交流の際の通訳者としても、活躍されている。

今回は「韓国の職業がん 給食調理員の肺がんなど新たな職業病認定」というテーマで、韓国で広がる市民による化学物質監視の運動について話してもらった。

******以下、講演要旨******

職業がんをめぐる新たな動き

韓国では、2021年以降、職業がんの集団労災申請や、3Dプリンターを使用したことによるがんや給食調理員の肺がんなど新たな職業がんの労災請求や労災認定が続いている。

このように化学物質に関心が集まり、労災として請求するに至ったのは、職場の安全衛生問題に関する運動とは別の経緯があった。

2012年9月に韓国慶尚北道のグミ(亀尾)の化学工場からフッ化水素酸が漏出する事故が発生した。労働者5人が死亡し、対応した消防士18人が負傷した。周辺への被害も大きく、住民12,243人が治療を受け、家畜4,000頭が死に、212ヘクタールの農地が枯死した。

2013年1月にも三星半導体ファソン工場でフッ化水素酸の漏出事故があり、労働者1人が死亡、4人が負傷した。相次ぐ化学物質漏洩事故に加えて、加湿器に入れた殺菌剤で1,700人が死亡し、7,600人が負傷する事件もあり、身近にある工場で使用されている有害な化学物質について関心が高まり、労働、環境、女性、医療福祉など各分野・地域で活動する37団体が参加し「知る権利保障のための化学物質監視ネットワーク」が2014年3月に結成された。化学物質の情報公開請求訴訟の支援や化学物質安全管理条例の制定運動を行った。

また2013年6月4日に化学物質管理法が制定され、2015年から施行されることになった。化学物質管理法では、化学物質による健康・環境被害の予防と事故への迅速な対応が目的に加えられた。事業場には化学物質の場外影響評価と事故に備えての危害管理計画書作成などが課され、化学物質の情報公開審議制度が導入された。
「知る権利保障のための化学物質監視ネットワーク」は地域社会の知る権利保障のためのキャンペーンを行い、また2014年には化学物質情報公開請求訴訟を支援した。この訴訟は訴訟団を一般募集し、2,727人が市民請求訴訟団となった。

各自治体への条例制定運動より47自治体(2019年8月時点)が化学物質安全管理条例を制定した。

2017年には14の地域で化学物質監視団体連帯組織が作られ、条例制定や事業場別・産業団地別の監視団体が結成され、キャンペーンが進められた。

化学物質監視団体「健康と命を守る人々(コンセンジサ)」が、ヨス、ピョンテク、パジュ、全羅北道などで地域での監視体制を作り、地域住民の参加募集と育成、文化行事などを行った。

職業・環境がん患者掘り起こし運動から「職業がん119」などへ

そういった運動の中、職業性・環境性のがん患者の掘り起こしが必要と考えた運動団体が2020年12月に「職業性・環境性がん患者捜し119(職業がん119)」を発足させた。労働環境研究所、仕事と健康、7地域の法律支援団体で構成された。同時期、給食調理員の肺がんや3Dプリンター使用による肉腫がんなど職業がんを取り扱ったドキュメンタリーやニュースがいくつも報道された。

これまで職業がん119に153人の相談があり、うち64人が労災申請した。労災申請者のうち10人が労災認定された。(下表参照)153人のがんの内訳は、肺がんが68人、血液がん22人、乳がん14人、甲状腺がん7人など。肺がんのうち30人は給食室の労働者だった。

こういった活動により、支援団体が全国10地域、20の法律支援団体と増え、労災の決定までの期間も平均335日から90日に短縮した。鉄鋼製造業での疫学調査が実施されたり、学校給食室の換気設備が改善されたりガイドラインが整備されることにもなった。

このように韓国では、大事故を契機に被害を受けた地域などの市民が関心を持ち、企業等への情報公開を求める運動が活発になった結果、環境を監視する団体が全国で発足した。その運動から職業がん・環境性がんの掘り起こしへとつながり、「職業がん119」など支援体制が構築された。

新たな職業がんは、どういった化学物質が原因で、どのくらいばく露を受けたかなど、医学的な所見などが重視されるものと考えられるが、韓国では化学物質を詳細に特定するより、業務上に曝される化学物質の他に環境、身体的負荷や過重性などを考慮した総合的な判断によって、認定されているようだ。

また健康被害に遭った被災者のみが頑張るのではなく、労働団体、環境団体、女性団体など様々な分野の運動団体や市民が協力して、運動を展開している。

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日本でも見習って行きたい部分でもある。

以前も韓国のサムソン半導体工場での被災者を支援するパノリムと互いに訪問したり交流を行ってきたが、このところ訪問もままならない状態が続いている。そんな中、なかなか聞けない韓国の職業がん貴重な話を聞くことができた。

また、これからの新たな1年、関西労働者安全センターの活動にご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。

関西労災職業病2002年3月530号