補償における不公平な取扱い~船員に対する障害補償および遺族補償

アルディさんは2018年10月、外国人技能実習生として漁船で作業中、あやうく右足を失う事故に遭った。足関節から下を切断するべきところを、なんとか形だけは残したいと努力し、何度も手術を繰り返した。技能実習期間を修了しても療養を続け、ようやく治癒にいたり、帰国したのは昨年のことである。

見た目は手術痕も含めて足関節部分が異様に膨れ上がり、可動域も自力ではゼロである。歩くことも自由にはできず、極めて短距離を歩行用補助具と杖を用いて移動することがせいぜいである。この状態に対し、併合7級が認められ、現在は障害補償年金を受給している。

この状態を考えると、厚生年金でも「身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」(障害等級3級)にあたる可能性があり、あるいは少なくとも「身体の機能に、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」という障害手当金の要件を満たすものと考えられるので、障害厚生年金の裁定請求を行った。

労災保険からの障害補償給付と厚生年金の障害厚生年金は併給が可能で、労災年金が以下の表の調整率にあわせて減額されることになっている。(※調整された労災年金の額と厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額より低くならないようになっている)

障害厚生年金の年金額は平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数(最低300か月)なので、仮に独身の技能実習生の標準報酬月額が150,000円だとすると、障害等級に合わせて次表の通り、支給がなされる。

アルディさんの給付基礎日額は5,589円であり、障害等級7級であれば、障害補償年金は給付基礎日額×131日、年額で732,159円である。公的年金からの補償を受ける場合は78,600円~176,850円が控除されるが、それでも併給する方が受給者への手厚い補償となる。

ところが、船員に関していえば、船員保険法の加入者である場合、現行法では職務上障害について併給できないという回答を年金事務所から得た。

その理由は、船員については業務上災害について船員保険法の独自給付があるため、というものであった。労災保険の年金給付には年齢階層別最高限度額があり、被災者の給付基礎日額がどんなに高くても頭打ちがある。しかし船員保険の加入者に対しては、被災者の賃金の日額(実際には健康保険法上の標準報酬日額)が最高限度額を超える場合、労災保険給付で頭打ちとなった金額との差額が船員保険から補てんされることになっていることから、厚生年金の併給は認められないというのである。

この独自給付があるためにアルディさんは障害補償年金と障害厚生年金を併給できなかったのであるが、船員保険の独自給付とは実際にどの程度支給されているのだろうか。船員保険月報を参照すると、令和2年度は、船員保険から職務上の障害に対する独自給付の新規裁定は1級1件、2級4件、障害手当金(一時金)93件だった(船員月報令和3年3月)。

この数字について評価できないかと、船員保険に対し職務上災害に対する独自給付支給割合を尋ねてみたが、船員保険も障害等級別に細かくデータを把握していなかった。そのため、どの程度の漁業従事者が対象になるか考えてみた。

まず、労災保険の障害補償年金の基礎となる最高限度額は下の表のようになっている。

最も高い50歳~54歳の層で考えると、月額76万円を超えるような賃金を受けている場合に独自給付の支給対象となる。しかし、75万円を超える標準報酬月額である被保険者は全体から見ても約6%、3417人にすぎない(船員保険月報 令和3年3月)。これではあまりに少ないので労災保険の年齢階層別最高限度額で最も安い13,384円(~24歳および70歳以上)を基準に見直すと、標準報酬月額41万円以上の被保険者は約50%を占めていた。一方、2018年の漁業センサスを元に作成した右のグラフのとおり漁業従事者の高齢化は進んでおり、70歳以上の就業者の割合は約25%もいる。彼らの半数は月額41万円以上の賃金を得ていると想定すると、少なく見積もっても全体の1割から2割程度は対象になるのではないだろうか。

ただ、外国人技能実習生の場合は20代の若者が多いことから、月額40万円~43万円を超える賃金が支払われていれば支給対象となるが、日本中どこを探してもそのような実習生がいるとは思えない。漁業技能実習生の場合、海員組合と事業者団体との労使協定によって賃金が定められ、低く抑えられているためである。冒頭のアルディさんについて言うと、20代前半で日額は先述の通りであるから、13,334円には到底届かない。

遺族補償給付についても同様に、船員保険は独自給付があるが、障害補償同様、最高限度額を超える標準報酬日額の労働者の遺族に対して船員保険から支給される。

国土交通省が発行する平成30年度船員災害疾病発生状況報告(令和2年3月発行)によると、船員と陸上労働者の災害発生率のうち、陸上の全産業で職務上死亡率が0.1人/1,000人であるのに対して、漁船は0.3人/1,000人である。陸上では死亡災害の多い林業で0.5人/1,000人と突出しているが、漁船員の死亡災害も十分に高い。また、職務上休業4日以上の負傷は陸上労働者2.3人/1,000人に対し、漁船労働者12.7人/1000人であるため、死亡も含めて非常にリスクが高い職業だと言える。

次に業務上災害で死亡した場合、公的年金からは遺族年金が支給され、同じく労災から年金が支給される場合は次表のように調整される。併給される場合は、労災の年金が12%~20%減額されるのである。

公的年金からの遺族に対する給付は、遺族基礎年金については「18歳に達する日後の最初の3月31日までの間にあるか20歳未満の障害(1級または2級)を持つ子のある妻」であり、技能実習生として来日する若年の外国人労働者については該当する者が少なく、遺族厚生年金のみが支給されるケースが多く想定される。漁業技能実習生であれば母国の船員学校を卒業して来日する者が多いことから、むしろ未婚であるという想定で考える方が現実的である。実際に発生した事件でも、国に高齢の父親を残して亡くなっている。彼の給付基礎日額は6014円で、年金額は920,142円であった。仮に工場などで働く同水準の賃金を得ている労働者であれば、遺族厚生年金との併給になる。労災からは147,200円も減額されてしまうが、やや乱暴な計算になるものの、平均標準報酬月額が18万円であれば、221,980円の遺族厚生年金が支給されていたことになる。併給のない場合と比較して数万円程度しか増加しないのであるが、少額とはいえリスクの高さと比べて補償が低いというのは不公平である。
先にも述べたように、全船員の標準報酬日額も、最高限度額に比してそれほど高いわけではない。独自給付は残しながら、給付の非対象者には国民年金・厚生年金の併給を認めるということはできないのだろうか。

関西労災職業病2021年8月524号