◆ブックレビュー◆ルポ東尋坊ー生活保護で自殺をとめる/下地毅 著

何年もの月日を費やし、現場で当事者に寄り添い、新聞記者という立場を踏み越えて、自らも支援を行った著者の渾身のドキュメント

近年、日本では毎年10万人を超える自殺者が報告されている。原因は色々あるが、非常に深刻な状況である。そんな中この本を読む機会が訪れた。

数年前、東尋坊で自殺者を助けるドキュメンタリー番組を見た記憶があり、少し興味を持ったのも事実である。テレビで流れた時の主人公は「月光仮面」と言う設定では無かったが、番組の中では自殺を思いとどまらすことと、知人に頼んで仕事を斡旋する場面があったように思う。私が読んでいるうちに興味というか関心を持ったのは、東尋坊で声を掛けられ助けられた人たちが、東尋坊に来るまでの本人の家族・上司・友人関係や仕事に関する過去の経歴等にトラブルがあること、そしてそれぞれ人生に生きる気力を失っていること。また、助けられた人はシェルターや寺で暮らしはじめ、東尋坊で週2回行われる救助のためのパトロールに参加し、今度は助ける側にまわっていることである。作者は各々助けられた人たちの個別の問題に焦点を当て、個人の葛藤や様々な人生経験を記載している。

シェルターや寺に仮住まいを与えられ雨風はしのげるが、働かなければ食べるのに困る。月光仮面も年金生活者である為、援助するにも限界である。しかし、精神的にも体力的にも働ける様な状況には無い。月光仮面は役所に本人と同行し生活保護の申請を行うようにするのだが、これがまた役所の職員が一筋縄ではいかない。

申請する本人も働かずして支援を受けるものだから負い目があり、職員はその点を追求し、申請すらさせないように持って行く。例えば親・兄弟の援助を受けるだとか、何かと難癖をつけて申請書すら渡さないあり様である。これが現実の生活保護の実態であり、その原則から逸脱していることが垣間見え、問題である。例えば、大都市圏の様に失業者があふれ、生活保護者が多い自治体なら職員の対応もわからなくもないが、福井県と言えば大都市と比べ人口密度も低いし、生活保護を申請する案件も少ないように思われるが、本来あるべき姿の生活保護が違う形で差別を生んでいる点、著書は自殺志願者それぞれの人生経歴と生活してきた生き様を描き、生活保護の矛盾を指摘している。(事務局:林繁行)

緑風出版/四六判上製/328頁/2400円