はつり作業と建設アスベスト訴訟

じん肺訴訟はこれまではつりじん肺訴訟やトンネルじん肺訴訟を通じて、現場の元請であるゼネコンを相手に訴訟を提起されてきた。一方、建設アスベスト訴訟は、建設労働者のうち、アスベスト関連疾患(石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水)に罹患した被災労働者が原告となっているが、彼らが戦っている相手は国と建材メーカーである。

現在、4件の訴訟が今月の最高裁判所における判断を待っているところであるが、元はつり工のみなさんにも十分関連すると思われるので、これからの展開をぜひ注目していただきたい。

じん肺の種類

じん肺は、「業務災害及び通勤災害 認定の理論と実際」という著書によると11種類が挙げられており、はつり工がコンクリートをコンクリートブレーカーやチッパー、コンクリートカッターなどで破砕して発生するものはケイ酸粉じんと呼ばれるもので、「肺間質及びリンパ腺に移行し、粉じんの沈着部位に網内系細胞の浸潤が起こり粉じんを摂取する。その後この細胞は次第に変性壊死に陥り、はじめは細い網状線維が形成され、次第に太い膠原線維に移行してけい肺結節が形成される」と書かれている。一方、石綿肺については、「珪肺とその発生機序は異なり、細気管支炎の発生が主要な変化である」とか、「細小気管支の閉塞による小無気肺を加味した肺胞内の粉じん巣形成が起こり、線維化は珪肺より弱い」「エックス線写真像では胸膜変化も認められる」と、けい肺とは明らかに異なるもののようである。

しかし、解体作業においてアスベスト含有建材をはつったり、壊したりしたことはなかっただろうか。あるいは、Pタイルをスーパーケレンではがすような作業が、改造工事や営繕工事であったはずである。ケイ酸粉じんに限らず、アスベスト粉じんにもばく露してきたと考えると、その病態についても複合的な病像を見せるかもしれない。事実、主治医に尋ねても「どちらかというと石綿肺」であったり、「けい肺としての特徴が強い」などの判断になることもあり、所轄労働基準監督署にある復命書にも石綿肺であるかけい肺であるか、明記されているものはかえって少ないように思われる。

はつり労働者のじん肺CT例1
はつり労働者のじん肺CT例2

はつり作業の性質

屋外作業従事者については、いくつかの訴訟において高等裁判所の段階で国と建材メーカーの責任が認められなかった。

しかし、はつり作業は解体や杭切りのような屋外作業もあれば、工場やビル、地下街の営繕工事もある。また、新築工事でも現場に入場し、他の職人が建材を加工している傍で作業することがあることを考えれば、一概に屋外作業ばかりとは言えない。どのはつり業者でも定期的に入場するプラントやビル、学校などあることから、そのような現場のアスベスト含有建材を破砕する作業した際にアスベスト粉じんにばく露したと言える。さらに、作業の際に粉じんが外部に出ないよう、目張りなどで通風がない環境をわざわざ作り、大量の粉じんにばく露していることも考えると、他の職種以上にリスクが高かったに違いない。(建設アスベスト訴訟においては、解体工の国の責任が認められる方向である。)

はつり作業に対する国の責任

はつり作業に対するマスク着用義務付けについては、国が定めた第8次粉じん障害防止総合対策(平成25年~29年度)で、はつり作業にかかる粉じん障害防止対策の推進がうたわれ、屋外での作業を含め、有効な呼吸用保護具の着用が求められるようになった(大阪労働局では第7次粉じん障害防止対策(平成20年~24年度)においてすでに明文化されている)。これまでの高等裁判所の判決によると、国の責任が認められる期間は、始点が昭和50年頃であるが、終点は平成7年や平成16年となっている。

これは、昭和の終わりから平成の中頃までに仕事をしてアスベスト粉じんにばく露し、その結果アスベスト肺に罹患した方に対して責任を取らなくてはならない、という意味で、この期間がひろく認められる方が対象となる被災労働者も増えることになる。

はつり作業に対する建材メーカーの責任

建材メーカーの責任は、アスベストの人体に対する危険性を警告するために、製品に「この製品にはアスベストが含まれているので危険」などの表示をするなどしてこなかった、という点にある。はつり工が梱包された状態の建材を触ることも加工することもないと思われるので、製品に警告表示がないということについて争うことは困難であろう。むしろ、現場に散在するアスベスト含有建材を適切に扱ってこなかったことや、現場で作業をする労働者の粉じんばく露を防ぐという処置を取らなかった元請事業者の責任が問われるべきである。

関西労災職業病2021年4月520号