65~70歳の高年齢者の業務委託に~労災保険特別加入制度 事業や作業の種類を問わず

70歳就業確保法

「70歳就業確保法」と呼ばれた法律が昨年3月31日に成立している。

その主な内容は、事業主に65歳までの雇用を確保する義務に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保する努力義務が課されるというものだ。高年齢者の雇用等の安定に関する法律の改正により、新たな努力義務となる措置が列挙されている。

今回の改正で70歳までの努力義務とされた措置内容は、これまでの65歳までの雇用確保措置だけではなく、「業務委託」というバリエーションを新設するものとなっている(図参照)。

70歳までの就業確保措置として新たに設けられるのは、

④希望する高年齢者について、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤希望する高年齢者について、
a事業主が自ら実施する社会貢献事業
b事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
に70歳まで継続的に従事できる制度の導入

とされている。

これまでの定年の引き上げや継続雇用を70歳までに引き上げる措置は、あくまで雇用による就業であるのに対し、新設の業務委託は、労働者ではない働き方を選択肢に加えるものだ。労働基準関係法令の規制対象外を含めた働き方を確保するものとなる。ということは、そのままでは労災保険制度という災害補償のセーフティネットの対象外とならざるを得ない。

そのままでは何の補償制度もなし/業種・作業の制限なしで制度創設

もちろん労働者ではない働き方で労働者に準じて保護することがふさわしい者については、労災保険特別加入制度がある。しかし利用可能な特別加入は、労働者を雇用している中小事業主(第1種)、特定の職種や作業に限定した一人親方等(第2種)となるので、業務委託された仕事をさらに人を雇用して行う場合や、第2種として特別加入団体に入ることができる職種でなければならないことになる。

社会貢献事業として想定できるような仕事で、特別加入できるような仕事はちょっと想像しにくそうだ。

そのため、この法律が成立する際に、参議院付帯決議には、次のような文言が加えられた。

参議院附帯決議(令和2年3月31日)(抄)
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである
二十一、労災保険の複数事業者に係る改正事項を確実に実施するとともに、特別加入制度について、働き方が多様化し、雇用類似の働き方も拡大していることから、労働者に準じて保護することがふさわしいとみなされる者の加入促進を図るため、制度の周知・広報を積極的に行うこと。また、社会経済情勢の変化を踏まえ、その対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合ったものとなるよう必要な見直しを行うこと。その際、今回の創業支援等措置により就業する者のうち、常態として労働者を使用しないで作業を行う者を特別加入制度の対象とすることについて検討すること。

危険な作業は他の第2種特別加入/重複加入も前提に織り込み済み

特別加入制度の対象拡大については、今回、一人親方として「柔道整復師」、特定作業従事者として「芸能関係作業従事者」と「アニメーション制作作業従事者」が新設されたことに加え、「創業支援等措置に基づく事業を行う高年齢者」も一人親方としての事業に加えられることとなった。

今回の対象範囲拡大に伴う省令改正についての通達(基発0319第1号令和3年3月9日)によると、それぞれの業務の範囲については次のように記されている。

柔道整復師が行う事業の内容は、「施術及びこれに直接付帯する行為」、「作業のための準備・後始末、機械等の保管、事務作業等を通常行っている場所における作業及びこれに直接附帯する行為」など他の業種同様に業務の範囲が明確なものとして列記されている。

芸能関係作業従事者の場合は、「放送番組(広告放送を含む。)、映画、寄席、劇場等における音楽、演芸その他の芸能の提供の作業又はその演出若しくは企画の作業」とされ、職種は限定せず想定される職種としてあげられているものも多岐にわたるが、業務内容等の実態をみて判断することとしている。

アニメーション制作作業従事者は、制作関係、演出関係等の作業が特定され、これについて業務の範囲としては明確なものとして記述されている。

創業支援等措置に基づく事業を行う高年齢者については、加入対象事業としては、「改正高年齢者雇用安定法第10条の2第2項に規定する…」とされるのみで、とくに具体的な作業や業種を想定しているわけではない。そもそも委託する業務の種類については、とくに制限もないのだから、書きようがないわけだ。

最近の企業の社会貢献事業例をみると、環境問題への取り組みを含め、必ずしも危険を伴わない高年齢者向けの穏やかな仕事だけに限定とはいかない状況も想定できる。そうすると労災保険料を決める保険料率をどう設定するのかという問題も生じることとなる。労政審の労災保険部会での議論も、その点についても論点としてあがったようだ。

結局、高年齢者の業務委託として行う仕事が、第2種特別加入として他に設定のある事業や作業を行う場合は業務遂行性があるとは認めないこととする方法で折り合いをつけることとした。つまり、高年齢者が企業の社会貢献事業として、里山保全のための土地の耕作などに業務委託で従事し、トラクターなどを扱うこととなったなどというときは、指定農業機械作業者として別に特定作業従事者の特別加入をしておかねばならないこととなる。

ただ、業務委託の対象となる事業の内容は、制限がないのだから第2種特別加入の対象とならない作業については全て対象に含まれることとなる。

いずれにしろ65~70歳の就業に係る災害補償制度となるので、災害防止のための取り組みは高年齢者の労働災害防止措置をどう徹底するかということにかかっているということになるだろう。

保険料率については、今回の対象範囲拡大にかかるものはすべて「その他の各種事業」と同じ3/1000とされた。

まったく未知数の創業支援等措置/安易な高年齢者への押し付け懸念

また、特別加入団体の加入を認める範囲は地域ブロック単位というこれまでの要件は、4月から廃止される。高年齢者の業務委託についても、「双方向の質疑応答を含むオンラインでの災害防止に関する研修会を年1回は実施、参加する機会を提供する」という条件で、全国を対象とする特別加入団体が認められることとなる。

ただ、どのような創業支援措置が現実に設定されるのか、現在のところ全くの未知数というのが実際のところだ。趣旨をよく理解しないまま、制度設計をしようとする事業者が安易に業務委託で高年齢者に仕事を押し付けるという事例が出てこないという保証はどこにもない。

この4月以降の各企業の取り組み状況が注目されるところだ。

関西労災職業病2021年3月519号