振動障害の検査 不足する医療機関

◆涼しい検査室での検査

本年2月号で、はつり工の振動障害が増えていることを紹介してきたが、検査室の入室を許され、振動障害の検査を行う被災者の検査の様子を取材することができた。

検査室の中は低温に設定してあり、夏場でも涼しく、むしろ肌寒い。

1977年の「振動障害の認定基準について」(基発第307号)には、「皮膚温、痛覚その他の検査に当たっては、それらの測定値に外気温ばく露の影響が残らないよう、必ず検査前に室温20℃~23℃の室内において30分以上の安静時間をとること」となっている。

検査結果から見るに、今日の室温は21度、この環境で水温10度の冷水に手を5分漬けて冷却負荷を加える。すぐに「痛い、痛い」と痛覚を覚えるようになるが、我慢して5分。水温も上がらないように温度を常に調整し、見事にレイノー現象が発生した手の循環機能検査を行う。まずは温度を測定し、次に中指の爪を圧迫して回復の状況を見る。さらに表紙写真のような機器(痛覚計)を用いて神経機能検査を行った。感覚が無くなっているので、針で衝かれていることがわからないのだが、目を開けて検査の様子を見ていると針が手に刺さっていることが見えるので、なんとなく感触があるような気になってしまう。

検査手技について資料を見ると「手指の皮膚の薄い部位の小範囲について痛覚計の先で軽く4~5回突き」と書かれているが、「軽く」がどれくらいの強さなのかよくわからないし、被験者には目を閉じてもらわないと上記のように突かれていることが分かってしまう。そのほか振動覚検査というものもあり、機器(振動子)の上に指を乗せて感覚の有無を調べる。これらを終えると再び水に手を漬け、その後は1分ごとに水から出しては温度を測るということを5分間繰り返す。

このような検査は従前から変わらないが、2004年から2006年にかけて振動障害の検査指針検討会が設けられ、もともとは5℃10分で行われていたところを10℃10分に変更があった(2006年 振動障害の検査指針検討会)。

◆療養しようにも機材がない

以前、九州から大阪に住む子供たちの近くへ引っ越されてきた振動病患者について、引き続き療養を続けたいが病院はないかと相談を受けたことがある。その療養は、パラフィンバスに手を漬けて、蝋の膜で手を覆うことを何度か繰り返す。5mm弱のパラフィン膜で患部をコーティングして、蝋の熱で患部を温める温熱療法である。しかし、大阪でパラフィンバスを持っているところを探してもなかなか見つからない。ある病院ではちょうど故障したところで、新たに導入する予定はないという。確かに、患者がいなければ蝋を溶かし、溶けた状態を保つための電気代も無駄である。結局診てもらえる病院は1件しかなく、住居からは遠いものの、通院していただくことになった。

労災職業病に関心を払う医師や医院はこれからも必要である。今回取材した病院は検査時に若い医師が検査を行い、人材育成にも力を入れている。

2020年10月515号