アスベスト全国ホットライン報告 (2020年8月22日~23日) じん肺・アスベスト被災者救済基金

夏に行われるNPO法人じん肺・アスベスト被災者救済基金による全国ホットラインが本年も実施された。4回目になる今年も多くの相談が寄せられた。

新聞に掲載された広告と主にテレビで放送されたニュースの影響もあり、相談件数は2日間で82件であった。これは西日本だけの数字であり、NHKの影響が大きかったが、神戸新聞をはじめとする地方紙やサンテレビなど地元のメディアの貢献も疎かにできない。今後メモを残したり、新聞を切り抜いたりした相談者から、今後も継続して電話が入るに違いない。

今回の相談のうち、中皮腫に関する相談は9件で、診断を受けた被災者やその家族から治療に関することが多かった。また労災請求をしようとしているご本人とご家族からは、監督署へ相談に行き書式をもらってきたものの、どのように記載すればよいのか分からないことから相談された事案が3件もあった。

どこでアスベストにばく露したのか、と問われても、アスベストを扱っているという自覚がない場合はまず質問の意図が分からない。大阪府下の労働基準監督署は「石綿健康被害に関する報告書」という書式を独自に用意しており、職歴や石綿ばく露歴、保護具の有無などを記載するようになっている。しかし、多くの被災者はどのような作業をすると石綿粉じんにばく露するのか分からない。先日お伺いした被災者も、「俺、アスベストなんか吸ったことないで。」と言っていたが、「溶接なら、火花が散らんように断熱材を敷きませんでした?」と水を向けると「おぅ、敷いた、敷いた。あれ、アスベストやったわ」と返ってくる。監督署も「職業上のばく露が明らかでないと、労災は認められません」とか、何十年も前に倒産していると伝えているのに「事業場からの証明をもらってきて下さい」と言う前に、どのような職種に就いていたのか尋ね、どのような作業の際にばく露する可能性があるのか伝えることくらいはできないだろうか。

さて、近年は、診断時に「何か分からない」、「タバコの影響」という医師の診断によって石綿関連疾患の発症が分からなかった、という相談よりも、医師や病院事務から「アスベストのせいかもしれない」と言われたり、「仕事は何をしていましたか?」と尋ねられて初めて自らの症状とアスベストばく露との関連性に気が付き、その後の相談につながっていくという印象がある。

一般に知られる病名とは言えない「中皮腫」も、医師の口から「将来、中皮腫という病気になるかもしれない」という形で出てくることで、ばく露経験者にとっては非常に脅威となり、相談にいたるというケースもこれまでも多数あった。

一方、実際に罹患すると、初めて耳にする中皮腫などの病名に戸惑う方からの相談も依然として多い。そして中皮腫について自分で調べたり、医師から余命を告げられて、非常に大きなショックを受けている。相談者から寄せられる「どうしたらよいのか」という問いは、労災保険の請求方法や石綿救済制度の利用方法を知りたいのではなく、どこに向かって一歩踏み出せばよいのか分からないことから来るのではないだろうか。このようなときに紹介する団体は「中皮腫サポートキャラバン隊」である。現在療養中の方々が運営している患者団体であると、そのウェブサイトを紹介するだけでも電話の向こうで安堵する雰囲気が伝わってくる。

石綿による肺がんについても9件の相談が寄せられ、中には5年以上前に被災者がお亡くなりになった事案もあり、石綿救済法による労災保険給付の時効に対する救済制度が依然として重要であることが明らかになった。

また、ある地方の労働基準監督署では、石綿による肺がんについて労災請求をしているにもかかわらず、被災者とその家族に対して「取下願」を渡していた。本人も家族も請求を取り下げるなど言った覚えはなく、設備会社で就労していた年金記録もあれば、本人の陳述、同僚の証言も揃っている。被災者はすでに90歳で、なかなか就業当時のことを思い出せないながらも、設備工として天井裏で作業をして、ばく露したことがあることを思い出していた。しかし、その作業を就業期間のうち何日したのか、と監督署から尋ねられたとき、「何か月かに1日」と回答したことを家族が覚えていた。天井裏で吹付石綿にばく露した日数が認定基準のばく露期間に満たないことから認定困難と判断し、「取下願」の書式を置いて帰ったのだろうか。もともと救済法上石綿に原因が認められる肺がんとして認定されているため、広範囲に及ぶ胸膜プラークが認められているのだろう。設備工としてほかにどのような作業を行ったのか確認すれば業務上認定は困難ではないと思われるだけに、まったく不可解である。

中皮腫と肺がんに比べて石綿肺の相談は少ない。相談シートを見る限り、職歴は工場労働者よりも建設作業員の方がやや多いくらいで、建設作業員も石綿含有建材の加工を行うことで常時粉じんにばく露していたと思われるため、ばく露量に原因があるとは思えない。肺がんや中皮腫と異なり、画像所見から判断するために不慣れな医師では石綿肺所見を認めることが困難なことに原因があるかもしれない。相談においては健康管理手帳の発行を勧めているが、再読影を経てじん肺管理区分申請を行うことも進めていきたい。

関西労災職業病2020年9月514号