新型コロナ労災認定・10事例(厚生労働省2020.9.28)~港湾作業員、タクシー乗務員でも
新型コロナ労災認定事例10ケース(厚生労働省公表分2020.9.28)
厚生労働省による労災保険での新型コロナ労災認定件数は2020年9月28日現在、687件(請求件数1330件中)である。
このうち、10事例について概要を公表し、労災請求の際の参考に供しているので、以下に紹介する。
今回の公表では、港湾荷役作業員とタクシー乗務員の事例が追加されたことが注目される。
新型コロナウイルス感染症(COVID 19 )に係る労災認定事例
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災請求のご参考となるよう、労災認定の具体 的な事例 について概要をご紹介します。
なお、同感染症の労災認定の考え方について示した令和2年4月28日付け基 補 発0428第1号 「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱い」 (以下「通知」といいます。) に記載している事項に沿って、 職種 に着目して事例を ご紹介します。
1 医療従事者等の事例(通知記の2の(1)のア)
【考え方:医師、看護師、介護従事者等の医療従事者等 が新型コロナウイルスに感染した場合は、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる】
事例1)医師
A 医師が診察した患者に発熱等の症状がみられ、その患者は後日新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。その後、A医師は発熱等の症状が出現し、濃厚接触者として PCR 検査を行ったところ、新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、 A 医師は、業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。
事例2)看護師
B 看護師は、日々多数の患者に対し、問診、採血等の看護業務に従事していたところ、頭痛、発熱等の症状が続き、 PCR検査で新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果、 B 看護師は、 業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。
事例3)介護職員
介護職員のCさんは、訪問介護利用者宅で介護 業務に従事していたところ、利用者に新型コロナウイルス感染が確認されたため、濃厚接触者としてPCR検査を 受けた結果、 新型コロナウイルス感染 陽性と判定された。
労働基準監督署における調査の結果 、 Cさんは、 業務外で感染したことが明らかではなかったことから、支給決定された。
事例4)理学療法士
D 理学療法士 は、 病院の リハビリテーション科で 業務に従事 していたところ、院内で新型コロナウイルス 感染症の クラスターが発生し、複数の医師 の 感染が確認された。 それらの医師と接触歴があったD理学療法士にも、咳、発熱等の症状が出現し、PCR検査で新型コロナウイルス感染陽性と判定 された。
労働基準監督署における調査の結果、 D 理学療法士は、 業務外で感染したことが明らかではな かったことから、支給決定された。
2 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定された場合の事例(通知 記の2の(1)の イ)
【考え方:感染源が業務に内在していることが明らかな場合は 、労災保険給付の対象となる】
事例5)飲食店 店員
飲食店店員のE さんは、店 内 での業務に従事していたが、 新型コロナウイルス感染者が 店舗 に来店していたことが確認されたことから、 PCR 検査を受けたところ 新型コロナウイルス感染 陽性と判定された。
また、労働基準監督署における調査の結果、Eさん以外にも同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。
以上の経過から、 Eさんは新型コロナウイルスに感染しており、 感染経路が特定され、 感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断され たことから 、支給決定された。
事例6)建設作業員
建設作業員 の F さんは、 勤務中、 同僚労働者と 作業 車に同乗して いたところ、後日、 作業車に同乗した同僚が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。 Fさんはその後体調不良となり、 PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染 陽性と判定された。
また、労働基準監督署における調査の結果、 Fさんについては当該同僚以外の感染者との接触は確認されなかった。
以上の経過から、Fさ んは新型コロナウイルスに感染しており、感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断されたことから、支給決定された。
3 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合の事例(通知記の2の( 1) の ウ
【考え方:感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務(複数の感染者が確認された労働環境下での業務や顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務など)に従事し、業務により感染した蓋然性が高 いもの と認められる場合は、労災保険給付の対象となる】
① 複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務(通知 記の2の (1)のウの(ア))
事例7)工事現場施工管理業務従事者
工事現場の施工管理業務従事者であったGさんは、担当する現場の施工状況を管理する業務に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ、Gさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間に、換気が不十分な工事現場の事務室において日々数時間現場作業員らと近接な距離で打合せ等を行っており、 Gさんの他にも、新型コロナウイルスへ感染した者が勤務していたことが認められた。
一方、発症前14日間の私生活については、自宅で静養するなど外出はほとんど認められず、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、換気が不十分な部屋で、他の作業者と近接な距離で打合せを行うなどの状況から、当該労働者の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、G さんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、複数の感染者が確認された労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因 したものと判断されることから、支給決定された。
② 顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務(通知 記の 2の(1)のウの(イ))
事例8)小売店販売員
小売店販売員のHさんは、店頭での接客業務等に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため 、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染 陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ 、Hさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人と接客し商品説明等を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については 、日用品の買い物や散歩などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家 からは、 接客中の飛沫感染や接触感染が考えられるなど、 当該販売員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、Hさんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから 、支給決定された。
事例 9 )タクシー乗務員
タクシー乗務員のIさんは、乗客輸送の 業務に従事していたが、発熱の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ、 Iさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人の乗客(海外や県外からの乗客を含む)を輸送する業務 を行っていたことが認められ、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については 、日用品の買い物 などで 、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、密閉された空間での飛沫感染が考えられるなど 、当該乗務員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、I さんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと 判断されることから、支給決定された。
事例10)港湾荷役作業員
港湾荷役作業員であったJさんは、トラックへの荷渡し業務等に従事していたが、発熱の症状が出現したため、 PCR 検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
労働基準監督署において調査したところ、Jさんの感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間に、 荷渡しの 際の 確認のため、 日々不特定多数のトラック運転手等と 近 距離で会話を行って おり 、感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたものと認められた。
一方、発症前14日間の私生活での外出については、日用品の買い物などで、私生活における感染のリスクは低いものと認められた。
医学専門家からは、事業場において不特定多数の者との近接・接触の機会が認められ、 当該作業員の感染は、業務により感染した蓋然性が高いものと認められるとの意見であった。
以上の経過から、Jさんは、新型コロナウイルスに感染しており、感染経路は特定されないが、従事した業務は、顧客等との近接や接触が多い労働環境下での業務と認められ、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。