建設関係など石綿労災請求相次ぐ

「いのちの救済」「救済法給付改善」を!
法制度改正の優先課題に

中皮腫サポートキャラバン隊には中皮腫の方の治療相談が相次いでいるが、労災などの手続きの支援に取り組むことが多い。また、12月のホットラインから対応が始まった方も相次いでいる。

NTさんは1933年生の86才男性。1954年から1985年まで主に火力発電所での保温工事に従事した。その後呼吸器症状が強くなり2006年、72才のときにじん肺管理区分申請するも管理1とされたが石綿健康管理手帳を取得した。経過観察を続けていたが、昨年11月に肺がん疑いとなり八尾市内の総合病院を受診したところ、中皮腫と診断された。 明らかな石灰化胸膜プラークの所見があり、 石綿ばく露歴も長く、年明け早々に東大阪労基署に労災請求を行った。

TTさんは1950年生の69才男性。1979年から2019年6月に胸膜中皮腫を発症するまでずっと電気工事に従事してきた。地元の総合病院から兵庫医大に転医し、現在、抗がん剤治療を受けている。中皮腫サポートキャラバン隊が毎週、安全センター事務所で開いている「中皮腫サロン」に治療の相談先を求めて来られた。その後、 患者と家族の会関西支部の会合にも参加されている。石綿救済法の給付申請と並行して労災請求を9月に北大阪労基署に行った。キャラバン隊や中皮腫サロンでのピアサポートを利用して、きつい治療に耐えながら頑張っている。

MYさんは1946年生の73才男性。18 才から一貫して電気工事に従事してきた。2017年10月に胸水を認め、2019年3月になって胸膜生検で中皮腫と診断された。病院ケースワーカーに紹介され、労災請求の相談で安全センターに来られた。電気工事労働者としての職歴が明確であることから、昨年11月に大阪西労基署に労災請求を提出した。胸膜剥離手術を受けることを決意して手術に臨むも、 続行不能と判断されて閉胸となり、通院加療中だ。

SKさんは1953年生の66才男性。中学卒業から昨年10月に胸膜中皮腫を発症するまで電気工事に従事してきた。10月に別の疾病で受診した総合病院で胸部に異常がみつかり、生検により胸膜中皮腫と診断された。 正月明け早々、労災などの制度の手続きについて電話で相談をしてこられた。相談日の翌日に自宅を訪問し事情をお聞きし、労災請求の手続きの具体的実務を打ち合わせした。治療面では、翌日から抗がん剤治療を開始するところだったが、一度中皮腫専門の病院へのセカンドオピニオンをする方向で今の病院と相談してみることになった。今まさに治療を開始する段階で不安があり、治療についての相談先が必要な状況だった。

MIさんは1941年生の78才男性。中卒後、 関西の石綿工場の構内下請け企業に就職し4、5年仕事をしたのちに左官として長年建築現場で働いてきた。昨年、腹膜中皮腫を発症し自宅近くの総合病院で入院加療中。正月明け早々に家族が労災請求の相談で電話をかけてこられた。すぐに入院先で家族とともにお話を聞いたところ、構内下請け就労時のことをしっかり記憶されており、なおかつ、その後の左官として就労についても明確だった。今後は緩和治療中心で療養することになり転院目前という状態を踏まえて、一刻も早く労災請求し調査に着手してもらうことが重要であった。二日後に労基署に行き、事業主証明、医師証明なしのまま労災請求を行い受理してもらい、すぐに調査開始となった。

5人の方は、いずれも石綿を原因とする職業がん(肺がん1名、中皮腫4名)であることが明らかで労災認定自体には大きな障害はない。

そして、労災補償は最低限の補償であり、これらのケースは加害者としての国や企業の責任が問われるべきケースに該当し、すでにそのスキームは各方面の努力の結果、確立しつつある。

ところが、労災補償やその先にある損害賠償の取り組みは、労災補償を受けられていない、 たとえば、救済給付だけの方には殆どの場合、無関係だ。また、これまでの取り組みの成果は、こうした方の救済水準の向上に何ら結びついてこなかったというのが現実であることを痛感する。

実際、 同じ中皮腫患者であっても労災補償に該当しない場合は多く、同じ中皮腫でありながら、給付水準の低い救済給付に止まってしまうことは、不公平だというのが実感だ。石綿を原因として発症するという特異的特徴をもつ中皮腫の方の半分以上が救済給付しか受けられていない。そして、これまでの被害者運動は、この半分以上の方にとっては救済給付以上のものをもたらす成果を上げてこなかった。

他方、石綿救済制度にしろ、労災保険制度にしろ、病気になった被害者の「命を救う」ことにまったく無頓着でありすぎた。被害の掘り起こし、救済運動に取り組む私たちは、結局経済的解決を実現したとしても、「いのち」にあまりに無関心であったと思う。これまでの反省を込めて、石綿被害の救済は患者の「いのちの救済」を最優先されるべきだということを改めて銘記したい。

「いのちの救済」「救済法給付改善」を今後の制度改正運動の優先課題に据え、 労災補償を受けられる石綿被害者と受けられない石綿被害者が一丸となって、アスベスト被害という史上最大の社会的災害に立ち向かうべきではないだろうか。

行き詰まっている現実をなんとしてでも変えなければならないと思う。

「いのちの救済=治療、 研究を飛躍的に前進をさせる」方法の第一は、石綿救済法の目的に「治療、研究の推進」を明記し、石綿救済基金を治療、 研究に投入できるようにすることである。

「救済法の給付内容、水準を向上させるための法改正実現」のためには「既存の取り組みを救済法改善につなげていく方法」「既存の運動の枠組みとは違う救済法改善を実現するための新たな方法」 を工夫することが必要で、大胆な発想の転換が求められている。(事務局:片岡明彦)


関西労災職業病2020年2月507号