厚生労働省の不正統計と追加給付/大阪

今年の1月、厚生労働省の「毎月勤労統計」で不適切な調査が行われ、延べ約2000万人の雇用保険と労災保険が過少給付されていた、という報道があった。

支給されなかった額の総額は567億円以上になり、その額を追加給付するための本年度予算を組み替えて、2004年まで遡って不足額を支払うことになっている。

労災保険において毎月勤労統計の結果は、年金や休業補償給付といった被災者の生活に直結する支給にかかわってくる。まず、労災年金においては、毎月勤労統計はスライド率の算定に用いられる。スライド率は、被災当時の一般労働者の賃金の水準と直近の水準を比較して算定される。今年の年金スライド率は「平成30年度の平均給与額÷算定事由発生日の属する年度の平均給与額×100」で算定され、この数値が年金の額を上げ下げして調整するために用いられるが、要は世間の賃金水準に合わせて毎年支給額が変更されると考えればよい。世間の賃金上がれば年金も上がるし、下がれば年金額が少なくなる。多少の変動でも必ずスライド計算をするため、傷病補償年金でも遺族補償年金でも、今回の追加給付の決定において年金受給者はかなり多くの方が見直しの通知を受けたのではないだろうか。

2015年に設備工であったご主人を肺がんで亡くされたあるご遺族にも、9月の末に支給決定通知書が届けられた。元々給付基礎日額もそれほど多くなかったが、いつもと異なる文書が送付されていた。「労災保険の追加給付のご案内」と題される文書で、「毎月勤労統計調査をはじめとする厚生労働省が所轄する統計で、長年にわたり、不適切な取り扱いをしていたこと」によって過少給付が発生したことに対するおわびから始まる。途中にもお詫びの文言が挿入されているが、再計算額について計算の根拠となる資料が付いておらず、問題点が分かりにくい。傷病補償年金の受給者の中には、数万円におよぶ給付があった方もいるが、それだけちょろまかされていたのだから本気で怒ってもよいくらいである。

年金と異なり、休業補償給付に関しては、スライドは被災当時の10%以上の変動が発生した場合に適用される。被災当時の一般労働者賃金が30万円だとすると、今年度の平均賃金が33万円に上がるか、あるいは27万円に下がるかしないとスライドは発生しない。支給額の増減が1割になるとさすがに影響は大きい、最近では数年前に21世紀に入ってはじめてスライドが適用された。近年の日本では滅多にないことだと言える。今回の不正統計の有無がそのときのスライに影響を与えてはいないようであるが、誤った統計によってスライドをするべきでないにもかかわらずスライドを適用し、その結果多額の支給の減額を引き起こしたかもしれないと考えると、このような不正は決して許されない。(酒井恭輔)

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