増加し続ける休業4日以上の死傷者数~2023年労働災害発生状況を読む

厚生労働省が5月末に公表した「令和5(2023)年の労働災害発生状況」によると、死亡者数は755人で、前年の774人から19人減少し、過去最少となった。しかし休業4日以上の死傷者数は135,371人で前年から3,016人の増加となった。(いずれも新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く。)

死亡災害は何とか減少しているのに、死傷災害の方は増加を示すというのは、3年連続となる。さらに死傷者数の漸増傾向は、リーマンショックによる経済の停滞が影響した2009年以来、10年以上続いている(下図:厚労省公表資料「労働災害による死亡者数、死傷者数の推移」参照)。

ますます鮮明になる高年齢労働者の労災増加

死傷災害の状況を分析すると、業種別では社会福祉施設、飲食店での増加が目立ち、第三次産業で増加傾向にある。事故の型別で調べると「転倒」がトップで36,058人となっていて、前年比2.2%増、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」も22,053人で同2.6%増となっている。3番目に「墜落・転落」が続く。

こうした状況に、年齢別・男女別千人率の分析を重ね合わせてみると、死傷者数増加の原因は明らかとなる。事故の型別・年齢階層別・男女別の千人率を調べると、男性の「墜落・転落」で、60歳以上で平均0.93は20代平均0.26の約3.6倍となっている。女性の「転倒」に至っては、60歳以上平均2.41は、20代平均0.16のなんと約15.1倍になっている。(下図参照)

社会福祉施設で死傷者数が着実に増え続けているのは、介護労働に従事する高年齢の女性労働者の数が増加していることと関係するし、第三次産業の飲食店、小売業においても高年齢労働者の増加が大きく作用しているということになる。

こうした最近の労働災害の動向については、昨年度よりスタートし、現在第2年度目を迎えている第14次労働災害防止計画においても取り上げられているところだ。

第14次災防計画で示されたアウトカム指標を見直し、それに対する初年度の状況を重ねると次のとおりとなる。

  • 転倒による平均休業見込日数を令和9年までに40日以下とする。
    ⇒転倒災害の死傷年千人率は、0.628(対前年比0.009ポイント・1.5%増)となり、転倒による平均休業見込日数は、48.5日(同1.0日・2.1%増)となった。
  • 増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率を令和9年までに男女ともその増加に歯止めをかける。
    ⇒60歳代以上の死傷年千人率は、4.022(同0.061ポイント・1.5%増)となった。
  • 外国人労働者の死傷年千人率を令和9年までに労働者全体の平均以下とする。
    ⇒すべての労働者の死傷千人率が2.36のところ、外国人労働者人率は、2.77(同0.13ポイント・4.9%増)となった
  • 陸上貨物運送事業における死傷者数を令和9年までに5%以上減少させる。
    ⇒陸上貨物運送事業における死傷者数は、16,215人(同365人・2.2%減)となった。
  • 建設業における死亡者数を令和9年までに15%以上減少させる。
    ⇒建設業における死亡者数は、223人(同58人・20.6%減)となった。
  • 製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を令和9年までに5%以上減少させる。
    ⇒製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数は、4,908人(同23人・0.5%増)となった。
  • 林業における死亡者数を、伐木作業の災害防止を重点としつつ、労働災害の大幅な削減に向けて取り組み、令和9年までに15%以上減少させる。
    ⇒林業における死亡者数は、29人(同1人・3.6%増)となった。

よりきめ細かな対策が必要

こうしてみると、転倒災害については「休業見込み日数」での指標とし、高年齢労働者の死傷者数については「減少させる」ではなく「歯止め」としたのだが、達成の道は険しいということがよくわかる。

職場における高年齢労働者の比率は確実に今後も上昇し続けるなか、業種や作業態様に的を絞ったきめ細かな対策を進めていく必要があることがうかがわれる。災防計画の最終年度である令和9年度末(2028年3月)にどのような総括ができるか、今後の取り組みにかかっているといえよう。

令和5年の労働災害発生状況を公表(厚生労働省 2024年5月27日)

関西労災職業病2024年9月558号