時間外労働上限規制と過労死防止を考えるシンポジウムー過労死防止大阪センター/大阪

過労死防止大阪センターの第10回総会と記念シンポジウムが4月19日にエルおおさかで開催された。2015年3月の結成総会から活動を開始して10年目となった。

今回の記念シンポジウムは「2024年問題と過労死防止」と題して、医師の過労自殺の事例と教員の長時間労働による精神障害の事例の当事者に報告をしてもらった。

2024年4月から、労働時間の上限規制の適用を猶予していた建設業、運輸業、医師などについても上限規定を適用することとなった。そのことにより、長距離トラック運転手や建設労働者が不足すると予想され、昨年あたりから「2024年問題」と言われてきた。特に建設業と運輸業に関しては、労働時間規制の問題が無くても労働者が不足しており、長時間労働が蔓延し、建設業は業界として外国人労働者に働き続けてもらえる制度を求めた。しかし、政府としてのまともな対策が取られることはなく、各業界や事業主個々の対策にゆだねられたまま、2024年度が始まった。

シンポジウムには、後援の大阪労働局から労働基準部監督課課長の篠田雅史氏が出席、大阪労働局の過労死防止対策の取り組みについて報告した。労働局としても関係団体と協力して、2024年度から上限規制適用となる事業場に対して、セミナーを開催するなどして周知してきた。トラック運転者への対策としては、事業主だけでは見直しが困難な問題の対応として、「荷主特別対策チーム」を編成して荷主にも働きかけを行っている。

基調報告で松丸正弁護士は、労働時間の適正把握がされていないことが過労死の生じる最大の要因と述べた。業種を問わず、労働時間がきちんと把握されていないという。医師については、上限規制そのものが「壊れている」とする。医師の時間外上限は年960時間、月に100時間未満というこの基準自体が過労死ラインであるのに、さらに専攻医などのカテゴリーの医師は、年1860時間となっている。また宿直許可によって、宿直中の労働時間がカウントされないという問題も起こっている。
建設業では施主や元請による工事変更や工期の圧縮によって長時間労働を余儀なくされ、トラック運転手は荷主の都合により荷受けや荷積みのために待機させられ、拘束時間が長時間化、不規則・夜勤などの要因も過重な負荷となっている。それをごまかすために労働時間がきちんと記録されないとの問題を指摘した。

そして、事例として、甲南医療センターで専攻医として従事し、過労自死した髙島晨伍さんの母親、髙島淳子さんと代理人弁護士の波多野進氏が、事件について報告した。管轄の西宮労働基準監督署は自死の1か月前の労働時間を207時間として労災認定している。また運営法人の甲南会と院長らを36協定違反で書類送検している。にもかかわらず、院長は髙島医師の労働時間の多くは自己研鑽のためとして、長時間労働をさせたことを認めていない。髙島医師の両親は、2024年2月2日、甲南会と理事長に損害賠償を求めて提訴している。

もうひとつの事例は、東大阪市の中学校教員がやはり長時間労働で適応障害を発症したケースで、当事者の教員と代理人江藤深弁護士が報告した。教員は2021年4月に赴任した学校で3学年主任、進路指導主事、野球部顧問となり、普段の授業数も多い上にこれらの役割と学力向上委員会の仕事もあり、時間外労働時間は4月から173時間、5月155時間、6月163時間と続き9月頃から無気力感、集中力減退などを感じ始めて、11月に適用障害の診断を受けた。今は公務災害を請求中である。2023年4月に職場復帰したが、東大阪市、大阪府の責任を問うために、2023年3月に大阪地裁に提訴した。教職員の労働の多くの部分が「自主的自発的」活動として扱われている現状を変えるために意義のある裁判である。

首相官邸主導の「働き方改革」が実施されて時間外労働の上限規制が設けられたが、制度の実施についてもその内容についてもまだまだ多くの問題がある状態である。

関西労災職業病2024年6月555号