第10回泉南石綿の碑記念式~雨が集まり川になること/大阪
式典と雨の音
2024年4月21日午前9時30分、曇り空を見上げて歩きながら、会場である泉南石綿の碑公園に到着した。「第10回泉南石綿の碑記念式」と書かれた横断幕が公園内の藤棚の下に掲げられており、藤の無数の蕾が頭を垂れて、参加者を迎え入れていた。
会場には、すでに20名ほどの参加者がおり、その中に、この3月に中皮腫で亡くなられた、中皮腫サポートキャラバン隊の右田孝雄氏の写真を抱えた妹さんがいた。それを見て、右田氏と初めて直接会って話したのは、去年のこの式典だったことを思い出した。
ふつふつと雨が降り始めた10時、式典が開始された。みんなが傘を差し、公園内がすし詰めになっている中、黙とうが行われ、泉南アスベストの会の梶本氏がスピーチを始めた。だが、途中でスピーカーの調子が悪くなり、何を話しているのかよくわからない状態になってしまった。仕方なく、頭を空っぽにして雨が傘を打つ音を聞いていると、先ほど見かけた右田氏の写真が頭をよぎり、去年は前で喋っていたなと感傷的な気分になった。
スピーチの後、石綿の碑に献花が行われ、式典は終了した。そして、次に行われる予定の、「泉南アスベスト国賠訴訟勝利10周年の集い」に向けて、あいぴあ泉南という福祉センターに移動した。
懇親会と川の音
あいぴあ泉南の大ホール前には、中村千恵子氏の書籍「アスベスト絵伝」に掲載されている、泉南アスベスト被害の国賠訴訟の歴史が貼られていた。作者の描いた絵と共に歴史が語られているものなのだが、淡い色使いの優しい絵なのに、不思議な迫力を感じ、訴訟に関わっていた人たちの真剣さが伝わってきた。
「泉南アスベスト国賠訴訟勝利10周年の集い」の内容は、要は懇親会で、各テーブルのお寿司などのおいしい料理をつっつきながら、ステージ上で、いろんな人が国賠訴訟やそのはるか以前にアスベストの危険性を訴えていた梶本政治医師の思い出を語るというものだった。基本的には勝利を祝うスピーチなので明るいのだが、中には活動中に亡くなった方の思い出を語り涙ぐむ人もいた。それを聞きながら、私も、去年の12月、ある相談者の父親で、中皮腫だった方が亡くなったことを思い出した。
しかし、ゆく川の流れは絶えずしてなんとやらである。お別れになった人もいる一方、新規のアスベスト相談が入ってきている。去った人に思いを馳せつつ、自分が流されていくまで、新しく流れてくる相談に真剣に取り組んでいこうと思う。(事務局:種盛真也)
関西労災職業病2024年5月554号
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