日本の人権課題を世界の目で見直そう/2023年度関西労働者安全センター総会とゲスト講義の報告

藤本伸樹氏【アジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)研究員】

総会報告

2024年2月21日、関西労働者安全センター事務所にて、2023年度の総会が開催された。

総会の内容として、まず、今年度の活動の総括が行われた。50周年記念集会を開催し、個人事業主等の安全衛生、地方公務員の災害補償、職場のメンタルヘルス対策という3つのテーマでシンポジウムを行ったこと、労災保険のメリット制への反対運動、石綿救済法における時効救済制度の終了阻止、精神疾患の労災基準改定についての活動、コロナ患者やコロナ後遺症患者の労災相談、コロナ禍で途切れていた訪韓訪日しての交流復活などの報告がなされた。

会計と監査報告、そして来年度の活動方針案が提案され、活動報告と合わせて議案が承認された。役員は4人が退任し、2024年度からの後任として、副議長に港合同の石原英二氏、委員に摂津市職労組の津川洋平氏、じん肺患者同盟の末吉茂正氏、連帯労組関西生コン支部の武谷新吾氏が任命された。

人権とは

総会議事の後、ゲスト講師であるアジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)研究員の藤本伸樹氏より、「国連の人権機関から見た日本の人権課題」と題して講演いただいた。

講演は、国連内の2つの機関の活動を深堀りしていくことで、日本の人権課題を探っていくという形で行われた。

だが、その2つの機関のことを書く前に、講演を聞いて驚いた話を一つしたい。それは、「人権は明文化されている」ということである。

私は、人権というものは、人が生きていく上で守られるべき権利ぐらいにしか定義されていない、曖昧なものだと思っていた。だが、実は、1948年に国連で採択された「世界人権宣言」の中で、27条に分けてかなり具体的に定義されているのである。

そのことについて、学生の時に、社会科で習ったような記憶がかすかにあるが、20年経つ間にすっかり忘れていた。ということは、20年間、人権ということを考えることがなかったということである。このことについては、自分の人権問題に対する興味の低さを反省するとともに、どうして20年間人権について考えずにやってこれたのかということと、そのやってこれたことの良い点悪い点を考えてみる必要がある。

条約機関とその審査

さて、2つの機関の話だが、まず1つ目は、「条約機関」である。条約機関とは、条約が批准国にてちゃんと履行されているか審査する集団だ。また、1つ目と書いたが、これは1つの機関ではなく、国連の制定する条約の中で重要なものそれぞれに、条約機関が作られる。

世界人権宣言が採択された後、その内容と時代に合わせて、順次人権条約が作られていった。その中で、主要なものが9条約あり、それらにそれぞれ条約機関が作られている。そして、条約を採択している国を順繰りに審査している。

日本は、その9条約の内8条約を批准しており、ということは、その8条約に対応した8つの条約機関から数年間隔で審査を受けているのである。
今回の講演では、その8条約の内、自由権規約と呼ばれる「市民的及び政治的権利に関する国際規約」について、その委員会から、2022年10~11月に日本が受けた審査のことを話していただいた。

審査の流れとしては、まず審査官とNGO(日本からは23団体)とのブリーフィングがあり、そして、2日間かけて審査官から日本政府への質疑応答があった。そして、それで応えきれなかった分は会議終了後48時間以内に文書で回答を求め、それら全部を含めて委員会が総括所見を出す、という形で進められた。

日本への総括所見では、成果の分量に対して、勧告の分量がかなり多かった。後々英文資料で見たところ、全13ページ中、1ページが2014年の前審査からの成果、残り12ページが勧告だった。

勧告は、基本的に男女間の問題(男女格差、LGBT差別)と少数民族、外国人に対する差別の項目が大部分で、後は包括的な事項と宗教、思想の自由、子どもの権利に対することがいくつかといったものだった。勧告の内容は、各課題に対して、研修や教育で問題を周知するといったものの他、私の感覚ではかなり過激で急激な変化を求めるものも見られた。例えば、肌の色、意見、性的指向、性同一性、出生またはその他のステータスについて、包括的な差別禁止法の採択と、救済に必要な措置をとること、全国的に同性婚を認める制度を作ること、ヘイトスピーチの規制を、外国人に向けたスピーチだけでなく、全ての人向けと拡大して、かつ全て犯罪として扱うこと(犯罪として記録、被害者への適切な賠償)などがあり、そこまでやるのが世界の標準的な意見なのかと驚いた。

また、人身売買や強制労働に関する章で、技能実習制度という言葉が散見され、やはり国際的に見ても危機を感じる制度なのかと思った。

委員会と日本政府の質疑応答と、委員会の総括所見については、下記アドレスの、外務省のwebサイトで見ることができるので、詳しく知りたい方は是非ご覧ください。(質疑応答は邦訳あり、総括所見は邦訳が無く、国連が公式に発表している5か国語の資料のみ)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html

人権理事会

2つ目の機関は、「人権理事会」である。これは、2006年、国連憲章に基づき設置された機関で、簡単に言うと、国連の全加盟国の人権問題について、国別、課題別に相互に話し合う集団である。

今回の講演では、人権理事会の中の、「ビジネスと人権」作業部会が2023年7月24日~8月4日に行った訪日調査の内容をお話しいただいた。

この訪日調査の終了時声明は、滞在中に実際に見聞きしたことを中心にまとめているようで、技能実習生の種々の申請手続きの煩雑さや、福島原発の清掃作業員を債務返済のために強制的にやらされている事例のことなどにも言及しており、改めて意識しないといけないと感じる項目が多かった。ただ、条約委員会の勧告と比較して、抽象的な結論で終わっている項目も多いように感じられた。なので、この勧告をもって政府が何かしてくれるのを期待するのではなく、各個人がこれを見て、国連が見た日本の人権課題、ということで意識するようにするのが良いのだろう。

内容は、ヒューライツ大阪の方々がまとめてくださっているので、下記のアドレスからご覧ください(邦訳あり)。

https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/08/post-32.html

人権意識を作っていくのは草の根運動、草の根支援

講演の最後に、冗談みたいな話を聞いた。2013年6月、拷問禁止条例委員会の勧告に対して、日本政府が「勧告には法的拘束力がない」「従う義務はない」という答弁書を出したというのだ。それ以来、今に至るまで、国会の質疑でも、答えにくいことには首相が同じことを繰り返しているという。

結局、人権理事会の項でも書いたが、人権侵害の問題に対しては、政府が対応してくれると思うのではなく、個人個人が意識して活動するのが重要なのだろう。それをする足掛かりとして、今回の講演と紹介していただいた資料は非常に参考になった。今後も、色々な相談者の事情を聞きながら、守られるべき権利が何かを考え、それが守られるよう活動していく。(事務局 種盛真也)

関西労災職業病2024年5月552号