肺がんで労災に認定された左官の労働者性、特別加入歴で形式的に決められた給付基礎日額をめぐって行政訴訟を提起/三重

誤った給付基礎日額で長年休業補償給付を受給してきた被災者が、休業補償の支給決定に対する取消訴訟を本年1月6日に津地方裁判所に提起した。

被災者は、昭和30年代末から平成20年にかけて左官工として建設場において石綿含有のモルタルを塗るなどの石綿ばく露作業に従事してきた。その終期である平成6年頃から平成20年にかけて坂本左官という会社で職人として働いてきた。平成19年12月に石綿に起因する肺がんに罹患していることが明らかになり、翌年伊賀労基署に労災請求を行った。

この際、支援を行ったのは地元の建設組合であった。被災者はこの組合を通して坂本左官入社後まもなく労災に特別加入していたのである。しかし、被災者が労働者であったことは調査時から明らかであり、平成31年に中皮腫・アスベスト疾患患者と家族の会がこの事実に気が付いた。

特別加入における給付基礎日額は5000円であったが、実際には日当が14000円であったことから、平均賃金を計算すると日額で倍近くになる。そのため受給中の休業補償給付について審査請求を行ったが、「症状確認日当時の給付基礎日額5000円を元の算定し、休業補償給付が支給されていることから、本件事案にかかる給付基礎日額の変更は認められない」という決定が下された。

平均賃金について調査と決定が行われた事実はないため、審査官の判断は明らかな誤りである。そのため、令和2年に再審査請求をおこなったが、翌年7月に再度棄却された。

10年も経って今さら日額を見直すことはできないというだけで労働者性の判断を一切しなかった原処分と異なり、再審査請求においては被災者に労働者ではないと判断した。その理由は以下の通りである。

  1. 諾否の自由:毎日翌日の現場が指定されることで他に働くことがない、断ると次の仕事がもらえない、という主張に対しては判断の対象とせず、「当該諾否の自由の誓約は直ちに指揮監督関係を肯定する要素とはならず、契約内容や諾否の自由が制限される程度等を勘案する必要があるとされる」と述べ、具体的な判断はなかった。
  2. 拘束性の有無「タイムカード等による綿密な時間管理がなされていた形跡はない」という理由で拘束性はないとした。
  3. 報酬の労務対償性:日当14000円で就労していたという事実はなく、平成6年から給付基礎日額5000円の特別加入者であり、労災保険法上の労働者ではなかったと判断した。
  4. 事業者性の有無:左官の工具は自分持ちであったことについて「請求人の事業者性の強さを想起させる作業条件となる」と判断した。

これらの結果から、被災者は特別加入をしていた一人親方であり、労働者ではないと結論付けられた。

審査請求と再審査請求において賃金明細など提出して労働者性を主張したにもかかわらず、まったく認められなかったため、今後は法廷で改めて主張を展開していくことになる。

仕事で使っていたいろいろなコテ

関西労災職業病2022年2月529号