70歳代後半で中皮腫発症の男性に労災認定~石綿管工場→左官工/大阪

石綿水道管

胸膜・腹膜中皮腫を2019年秋に発症し、2020年2月に亡くなられたMさん(享年78歳)の労災請求が2020年12月下旬に認められた。

2019年年末に家族より電話相談があり、年明け早々にご本人と家族に面談し、職歴病歴をお聞きしたところ、11月から入院となり手術不能と判断され、容体が相当悪化していた。年が明けて転院となり、転院先にて治療のかいなく2月はじめに亡くなられた。

ご本人とご家族からの聞き取りや年金記録から、アスベストばく露職歴が明らかになった。

Mさんは二十歳前に九州の郷里から関西に出てこられ石綿管工場構内下請企業Aでの雇用歴が確認された。石綿管を電動カッターで切断する作業などを防護マスクなしで行っていたとのことであった。

Aにて数年就労した後、左官工として長年建設現場で働いた。所持されていた賃金記録では滋賀県内の左官業者での2013年の支払い明細が確認された。左官工は建設現場の代表的なアスベストばく露職種だ。

複数のアスベスト職歴が確認されたが、年金記録が明確なAを所轄するB労基署にとりあえず労災請求を行い、迅速な調査開始を求めた。ご本人の容体が予断を許さないためだ。

B労基署は、Aに関するものとともに、左官工として雇用されていた豊中市内の業者関係者Cも調査対象とし、その結果、Cにおける左官職歴が確認できる最終石綿ばく露職歴と判断し、Cを所管する大阪市内のD労基署に書類を移送することとなった。

D労基署に送られた書類は、いったん大阪労働局内の高度労災補償調査センター(略称アーク=ARC)にまわり、ARCによる調査の結果、業務上決定がされたのが、2020年12月下旬となった。この間、石綿救済法の救済給付が決定されていたため、各労災補償給付決定後の給付返還手続きなどをご遺族が行っている。

支給決定までの過程において問題となったのは、Aを最終石綿ばく露職歴とするのか、そのあとの左官職歴を最終石綿ばく露職歴とするのかということであった。

当初請求を受け付けたB労基署はAを最終石綿ばく露職歴として処理を行うとの意向であった。しかし、それでは、若年時最終職歴となり平均賃金が不当に低く決定されることになりかねないということと、そもそも事実にもとるという観点から、事実にもとづく処理をB労基署に求めて、最終的にD労基署への移送となったのだった。

労災請求にあたっては注意をしなければならない点の一つだ。

関西労災職業病2021年5月521号