三星化学工業膀胱がん裁判、証人尋問。劣悪な作業環境を証言/福井
裁判報告集会で発言する田中康博氏(組合書記長、証人)
1月27日、福井地裁にて、三星化学工業に対して業務により膀胱がんを発症した労働者が、損害賠償を求めている裁判の証人尋問が行われた。
顔料などの製造を行う三星化学福井工場では、製造工程で芳香族アミンなどを取り扱い、主にオルト-トルイジンにばく露した労働者に膀胱がんが多発した。被災者数名が化学一般労働組合連合に加入して、会社側に作業内容の改善などを求めてきたが、発症原因の調査は厚生労働省に丸投げし、事業場改善にもほとんど応じないため、2018年2月28日に被災労働者4人が福井地裁に提訴した(関西労災職業病2018年6月号記事参照)。
提訴からもうすぐ2年で、やっと証人尋問が行われた。
被告会社側の申請した証人は3人、原告側は組合書記長の田中康博氏ら原告4人が証人に立った。
会社側一人目は2005年から設置された安全推進室の室長を担当していた人物で、当時のSDSでは発がん性があることは分からなかった、手袋を透過して皮膚吸収されるとの認識はなかったと、会社の責任を否定する主張を行った。しかし反対尋問で、会社側の資料に「オルト-トルイジンは膀胱がん発症の可能性あり」と有ることを指摘され、SDS情報をきちんと管理・活用していなかった実態を曝すことになった。
二人目は、安全衛生保護具の研究者である田中茂氏で、2016年に三星化学の調査を行い、「皮膚からの吸収・ばく露を防ぐ!-オルト-トルイジンばく露による膀胱がん発生から学ぶ」という著書がある。
彼の主張は、彼らの研究によって厚生労働省は2017年に手袋の使用についての通達を出したので、それまで手袋の透過については知見がなく、対策が取られなかったというもの。しかし、反対尋問で原告側代理人が、手だけでなく全身が濡れるような状況で働いているので、手袋だけでなく、全体の保護具が必要ですよね?と言うと、手袋以外については専門でないと言って答えず、2016年の調査でも現場は一切見ていないと言った。
会社はあくまでも、きちんと手袋を使わせていたのに、当時は手袋を化学物質が透過して吸収されることを知らなかったから責任がない、との主張を貫きたかったのだろう。
三人目の証人は、福井工場の元工場長で、オルト-トルイジンにばく露する作業をかなり限定的に説明した。しかし、反対尋問で、有害性情報の管理・取り扱いの不適切、夏場Tシャツでの作業を黙認していたことなどずさんな安全対策をばく露した。
その後、原告4人が現場の実態を事細かく証言した。
スラリー状の生成物中のオルト-トルイジンをトルエンで洗浄する作業では、工場長が証言したように膝が濡れる、という程度ではなく身体の前面のほとんどがオルト-トルイジンを含んだトルエンで濡れるような作業であることや、濾過槽の中に身体を半分くらい入れて掻き出す作業でも身体中にオルト-トルイジンがかかることを証言した。また回収トルエンを再利用していたため、本来、オルト-トルイジンにばく露しない作業でも、オルト-トルイジンを含んだ回収トルエンを使用して、ばく露していたという、驚くような証言があった。手袋をした状態で回収トルエンに手を入れて洗浄していたという。到底、手袋対策だけででばく露を防げるような現場ではなかった。
また、原告らが話した、膀胱がん治療での痛み・大変さや不安な心情は胸に迫るものだった。
厚生労働省が労災請求で現場の調査に入ったときにも、組合からはどういった工程でどのようにばく露があるか、回収トルエン使用の問題も含めて、書面で提出しており、厚労省はそれを元に詳細な調査を行っている。そういった資料も裁判には提出されているため、被告、原告のどちらがきちんと実態を証明しているのか、裁判官の目にも明らかだったのではないだろうか。
次回3月16日が最終弁論予定である。
関西労災職業病2012年2月518号