石綿(アスベスト)労災受給者の厚生労働省毎月勤労統計調査不正に係る追加給付に対する、全国初の不服申し立て(審査請求)<2019年7月5日北海道労働局>

次の5つの条件のいずれにも該当すると思う方はぜひご相談ください。
今受けている給付の基礎となる給付基礎日額について、さらに是正できる可能性があります。ただし、統計不正に基づく今回の追加給付を受けてから3ヶ月以内に不服審査を申し立てる必要がありますので注意してください。その手続きは簡単です。
詳細は、

みぎくりハウス
【再雇用時の賃金をもとに計算なんておかしい!】毎月勤労統計の追加給付に係る審査請求
https://asbesto.jp/archives/1477
を参照ください。

**********************
アスベスト疾患により労災認定を受け、休業補償、遺族補償の給付を受けた方あるいは現に受けている方で、次のいずれにも該当する方(被災労働者本人または遺族)

1)定年退職後、同じ会社で労働条件を変更して(賃金減額、身分変更など)、いわゆる再雇用で働いた。
2)再雇用中または再雇用終了後に発症した。
3)給付の基礎となる給付基礎日額について、再雇用後の賃金を基礎に決定された。(定年前賃金にもとづく日額に比較して大幅な低額になるのが通常です。)
4)アスベストにばく露したのは定年退職前であって、再雇用後にはアスベストばく露はなかったとみられる。
5)統計不正問題の関連で今回、追加給付が行われた。
***********************

この件はそもそも、当センターもかかわった同種事件での労働保険審査会での裁決(2016年7月20日付)が契機となったものでした。
<厚生労働省サイト 労働保険審査会裁決事案一覧より>
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/27rou430.pdf

平成27年労第430号

主 文
労働基準監督署長が平成○年○月○日付けで再審査請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による休業補償給付の支給に関する処分は、これを取り消す。

理 由

第1 再審査請求の趣旨及び経過
1 趣 旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文同旨の裁決を求めるというにある。
2 経 過
請求人は、昭和○年○月○日、A所在のB会社(以下「会社」という。)に組立工として雇用され、アスベストパッキンの加工作業等に従事し、平成○年○月○日に定年退職したが、翌○月○日から平成○年○月○日まで契約社員として会社に勤務した。
請求人は、同年○月頃から息切れがするようになり、同月○日、C診療所に受診したところ「熱中症の疑い」と診断された。しかし、翌朝体調がすぐれなかったことから、D病院に転医し検査したところ、肺に水が溜まっていたため○日間の入院加療を受けた。その後、同年○月○日、E病院に受診し、同月○日に胸腔鏡下悪性腫瘍手術を受けた結果、「悪性胸膜中皮腫」(以下「本件疾病」という。)と診断された。
請求人は、本件疾病は業務上の事由によるものであるとして、労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)に休業補償給付を請求したところ、監督署長は、本件疾病は業務上の事由によるものであると認め、給付基礎日額を○円として、これを支給する旨の処分をした。
請求人は、この処分の給付基礎日額を不服として、労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に審査請求をしたが、審査官は、平成○年○月○日付けでこれを棄却したので、請求人は、更にこの決定を不服として、本件再審請求に及んだものである。

第2 再審査請求の理由
(略)

第3 原処分庁の意見
(略)

第4 争 点
本件の争点は、休業補償給付に関する処分における給付基礎日額が監督署長において算出した○円を超えるか否かにある。

第5 審査資料
(略)

第6 事実の認定及び判断
1 当審査会の事実の認定
(略)
2 当審査会の判断
(1)請求人の本件疾病が確認された日(以下「診断確定日」という。)については、F医師が、平成○年○月○日労働基準監督署受付の意見書において、「C診療所初診日の平成○年○月○日とするのが適切である。」旨の意見を述べていることから、当審査会としても、診断確定日は、平成○年○月○日とすることが相当であると判断する。
(2)ところで、労働者災害補償保険法第8条によると、給付基礎日額は労働基準法(昭和22年法律第49号)第12条の平均賃金に相当する額とすることとされ、当該平均賃金を算定すべき事由の発生した日(以下「算定事由発生日」という。)については、「疾病の発生が確定した日」すなわち診断確定日とする旨定められている。そして、労働者が診断確定日においてすでに疾病発生のおそれのある作業に従事した事業場を離職している場合には、行政実務上、労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日。以下同じ。)以前3か月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定することとされており(昭和50年9月23日付け基発第556号及び昭和53年2月2日付け基発第57号。以下「通達」という。)、当審査会においても、その取扱いは妥当なものと判断する。
(3)そこで、請求人が本件疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場(以下「最終ばく露事業場」という。)を離職した日について検討すると、以下のとおりである。
ア 本件疾病の診断確定日は平成○年○月○日であるところ、請求人は、平成○年○月○日に会社を定年退職し、その翌日である同年○月○日から平成○年○月○日まで契約社員として会社に雇用されていることから、監督署長は、定年退職後も雇用の継続性が認められるとし、契約社員を退職した平成○年○月○日をもって最終ばく露事業場を離職した日として給付基礎日額を算定している。
イ しかしながら、定年退職後、請求人は、正社員から契約社員へと変更されるとともに、班長の役職も解かれている。また、請求人の給与明細書などに記入された同人の就労実態をみると、1日の労働時間に変更は認められないものの、1か月当たりの勤務日数は正社員当時○日前後であったものが、契約社員となってからは○日となり、時間外労働や休日労働にも従事していない。さらに、給与面においては、正社員当時は基本給のほか資格手当等多くの手当が支給されていたが、契約社員になると、基本給と通勤手当が支給されているにすぎず、基本給についても○円から○円へと大幅に変更されている。
なお、請求人は、契約社員となってからは、石綿にばく露される作業には従事していない。
ウ このように、正社員であった時と契約社員であった時とでは、就労実態が大きく異なっていることからすると、請求人は、定年退職を契機として、一旦会社を離職し、その後、新たに会社と従前とは異なった内容の労働契約を締結して、会社に改めて再雇用されたものとみるのが相当である。
エ そうすると、当審査会としては、本件における上記通達の適用に関しては、請求人は、定年退職時において、最終ばく露事業場を離職したものとするのが相当であると判断する。
(4)以上からすると、請求人の休業補償給付に係る給付基礎日額については、正社員であった平成○年○月○日以前3か月間に支払われた賃金により算定した
金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して算定することとなるから、監督署長が算定した給付基礎日額を上回ることは明らかである。
なお、再審査請求代理人(以下「請求代理人」という。)は、職業がんなどの遅発性疾病を発症した労働者に係る給付基礎日額について、整合性のある算定の仕方を検討及び整理するよう関係部署に対して勧告してほしい旨主張し、本件公開審理においても同旨を述べているが、当審査会は、労働者災害補償保険の給付に関し、労働基準監督署長がした処分の適否を審査する機関であり、請求代理人の主張を採用することはできない。
3 以上のとおりであるから、監督署長が給付基礎日額を○円として算定した額による休業補償給付の支給に関する処分は妥当ではなく、取消しを免れない。
よって主文のとおり裁決する。

この裁決後、2017年6月26日に新たな通達が出され、少なからぬ同種事案で是正が行われました。
しかし問題は、その時点において未決事案であるか、不服申し立て中の事案に限って是正されたことでした。
つまり過去決定済みの大半の事案については、例外的場合を除いて、不利益是正がサボタージュされたのです。
「例外的場合」とは、新たな行政処分が行われる場合に限るとされました。(被災者側からみればもちろん不当です)
今回の「統計不正問題に関わる追加給付」は、給付日額変更とそれに伴う追加支給決定処分ですから、厚労省のこれまでの取り扱いに即しても、「例外的場合」にあたります。
にもかかわらず、「定年前賃金に基づく是正」相当事案について、厚労省がこれに手をつけなかったのはおかしいではないか。
これが今回の北海道での不服審査申し立ての意義なのです。
相当多くの事案が該当する可能性が高く、問題の広がりは大きいとみています。