中皮腫労災認定するも、平均賃金の不当定額問題自庁取り消しから再決定 /堺→岸和田→堺

本誌2月号で報告した中皮腫で労災認定された50 代男性電気工Tさんが、 労災認定されたはいいが、想定より著しく低い給付基礎日額(平均賃金)にされた問題。
支給決定したのは岸和田労基署。
もともと労災請求を受け付けたのは、Tさんの最終ばく露職場となったS電気商会を管轄する堺労基署。
この堺労基署がTさんの「S電気商会での仕事で石綿ばく露したはずだ」 という申し立てを、 ずさんな調査によって否定。 17年前に離職したN電気工事店を最終職場と判断し、 ここを管轄する岸和田署に書類を送って岸和田署が支給決定を行ったのだが、 当時の賃金記録がないために賃金統計に基づく平均賃金決定がなされた。
この額が、 発症直前にS電気商会で支給された給与に基づく平均賃金計算額の半分近いものだった。
支給決定後、岸和田署にTさんに同行して「どうしてそのようなことになったのか?」 について説明を聞いたところ、 これはどうも大変おかしいぞ、 ということになった。
Tさんが改めて詳細な報告書を1月22日に岸和田署に提出し、担当者と労災課長に対 して是正を求めた。
ここまでが、 前号までのいきさつだ。
Tさんの報告書というのは、 S電気商会のときに従事 した堺市関係の現場で「石綿がある」 と会社から言われた現場で石綿含有箇所と思われるところをドリルで穴をあけるなど作業をおこなったということについて、その現場の写真を撮りに行き、 説明を付した内容であった。現場は、堺市の大浜高層住宅。
岸和田署に報告書を提出して再調査をもとめるとともに、 堺市の担当部局に行き、大浜高層住宅での工事の説明をもとめた。 工事資料や、 石綿含有ということが真実であれば (Tさんはあくまで会社から聞いていただけ) あるであろう石綿分析報告書を開示してくれと申し入れたのだ。
これに対して堺市はごく短期間に該当資料や石綿分析報告書(石綿含有あり)を提供してくれたので、 その足でとなりの合同庁舎3階に入っている堺署労災課を訪ね、労災課長と担当者に入手した資料を示して 「あなたたちはこれらの資料を堺市から取り寄せるという、 当たり前の調査をしたのか?」 と尋ねたところ「していません」と答えたので、Tさんといっしょに腹がたつやらあきれるやら、であった。
その場でコピーをさせたが、 労災課長は謝るでもなく、再調査するというでもなく、 「岸和田署が決めたことですから」 と言うばかりであった。
岸和田署にも行ったところ 「堺からコピーを送ってきました」 と呑気に話すので、「新たな資料を提出したのであるから、 再調査して堺にもどしてくれ」 と申し入れた。
こうして岸和田署がようやく動くようになった。その後、「審査請求もしといてださいね」という「ありがたい」お話も労基署からあって、 さらに怒りはつのった。
岸和田署が自庁取り消ししないという最悪の場合もあるので無論、 審査請求もしておかざるを得ない。
ところが審査請求を受理した審査官から 「休業補償支給決定処分の取り消しを求める審査請求をしているが、これはまちがいですよ。平均賃金決定の取り消しを求める審査請求を厚生労働大臣にしなさい」 という電話が本人にあり、 これも審査官に 「そういうこともあり得るけど、 支給決定処分そのものを取り消すという審査請求でよいのだ!まわりのほかの審査官に聞いてみろ!原処分庁とも話をしているからそっちにも聞いてみろ!」というこれまで経験したことのない話をさせられた。その後、その新米審査官からは何の連絡もない。
なんでこんなにオカシナな人たちにあたるんだろうか。
話をもどすと、 堺市関係ではもう一つ、 大仙公園便所改修工事があったので、これについても大浜高層住宅と同様に堺市から工事資料と石綿分析報告書 (石綿含有あり) を入手したのでこれも岸和田署に提出 した。
堺市はこの件については親切であった。 私たちは労基署が来たらよく説明してくれとも頼んだ。 その後、岸和田署の複数の労災課員が堺市を訪れたと聞いたが、その後ほどなくして、岸和田署が自庁取り消し処分をおこない、 堺にもどしたという連絡を受けた。
ようやく本来の適正な平均賃金に基づく堺署の支給決定をいまかいまかと待っていた年度末に近くなったころ、 堺署の課長から「局の方に話があがっているからもう少しかかる」 というおかしな話があり、 こんどは4月にはいってすぐ、ナント「局から本省にも協議した結果、 やっぱり審査請求でやってもらうことになった、 岸和田署の自庁取り消しは(またこれを)取り消しになります」 という前代未聞の電話がかかってきた。
もはや大騒ぎにすることを覚悟したのであったが、数日して労災課長から「やっぱり堺署で決め直すことにしました」との連絡があった。
全然信用できないなかで待っていたが、 4月15日付で岸和田署の変更決定(本件保険給付について、一旦当署において支給したが、再調査の結果、最終ばく露事業場が堺労働基準監督署管内であると認められたため)、堺署の支給決定がTさんに送られてきた。
この間、 岸和田署の支給決定に関する資料が開示され、 決定に至った調査復命書を読むことができた。
堺署がこの件を岸和田署に移送した理由が判明した。
「発症時に所属 していたS電気商会での石綿ばく露は認められず、労働者としての最終ばく露は岸和田署管内のN電気工事店であると認められる」 ということだった。
堺署は、 N電気工事店からS電気商会までの間の本人が職歴申立書で述べた会社に対して、 「雇用関係および石綿ばく露作業の有無に係る確認調査について(以来)」 と題した簡易な調査回答票を送付し、その回答に基づいて、 雇用関係があるかどうか、 石綿ばく露があるかどうかを判断していた。
事業主の回答によって、労働者性や石綿曝露の有無について本人の申し立てに疑問が生じた場合でも、 一切本人には再聴取等は行わないまま決定していた。
雇用関係については、 質問項目に 「当該労働者の雇用の有無」 で有か無を回答させ、無であれば、最後の質問「7 当該労働者について」に飛んで、「雇用関係ではなく請負関係であった」か「全く知らない」の2択で回答させる、 というものだ。
労災保険における労働者性の判断は、形式上や呼称上、 一人親方とされたり、請負とされたりしている場合は、実質的に使用従属関係があるかどうかを慎重に判断しなければならない。
しかし、堺労基署の調査票はそうした観点がまったく欠落している。
結局、堺署の岸和田署への移送判断は、S電気商会における石綿ばく露作業を見落とした大きな誤り、という点だけではなく、 労働者性判断などおけるきわめてずさん、 安易な調査方法という見過ごせない問題点によって構成されていたことがわかったのだった。
後者の問題点については、次号以降で改めて報告したい。
(2019/05_499)