加湿器殺菌剤で子どもや妊婦が死亡,メーカー代表が謝罪/韓国
2015年11月 被害者たちの横断幕を広げて抗議行動するイェヨン氏(左)と子どもを亡くした父親
韓国で加湿器の殺菌剤によって、幼い子どもや妊婦が肺を損傷し、多くの死者を出したというショッキングなニュースがあった。
韓国政府が受理した被害件数は530人で、うち143人が死亡した。原因物質とされ、韓国保健福祉省が回収命令を出したのは、 PHMG( polyhexamethylene guanidine) またはPGH (Oligo(2-(2-ethoxy)ethoxyethyl guanidinium chloride)を主成分とする製品。その中でも、オキシーサクサクという殺菌剤は、死亡者が70人にも上っている。PHMGは吸入すると肺が繊維化して呼吸不全を起こすという。その被害者の多くは6歳以下の子どもだった。
2006年から2007年にかけて、原因不明の肺疾患で子どもたちが相次いで死亡し、医療関係者が関心を寄せながら、すぐには原因究明がなされず、2011年まで化学物質との関係が明らかにならなかった。しかし、さらに政府の対応は遅れ、政府が有害物質に指定したのは2014年のことだった。
しかし5月4日、ソウル中央地検が国立ソウル大学の教授を緊急逮捕し、教授の研究室と私立湖西大学の別の教授の研究室を家宅捜査するに至り、事態は急激に動き出した。この2人の教授は、オキシーサクサクの製造メーカー「オキシー・レキットベンキーザー」からPHMGの吸入毒性試験の依頼を受け、その結果報告書についても毒性を示す実験結果を隠して「加湿器殺菌剤と肺疾患の因果関係は明確ではない」との報告書のみを提出するという要請を受け入れ、多額の金銭を受け取っていた。
このようにして5年もの間、被害者になんの補償もせず、責任を逃れようとしてきたメーカー側だが、この5月2日に「オキシー・レキットベンキーザー」の代表が会見を開き、初めて頭を下げて謝罪した。
NGO環境保健市民センター所長のチェ・イェヨン氏は、問題が発覚した2011年から被害者の支援を行ってきた。彼は、韓国石綿追放ネットワークを立ち上げた活動家の一人でもあり、韓国のアスベスト環境被害の掘り起こしにも携わってきた。
イェヨン氏によると、被害者は29万人から最大227万人と推計される。
2011年の疾病管理本部の調査結果で国民の18.1%が加湿器を使用し、加湿器の実験では60回に2回、毒性成分が高濃度で測定されたので、韓国の人口4941万人から計算すると29万人にに被害があった可能性がある。また、ソウル大保健大学院職業環境健康研究室が行った世論調査では、国民の22%が加湿器使用の経験があり、うち20.9%が健康被害の経験があると答えたので、推計は227万人となる。しかしこれまでに被害の深刻があったのは1528人で、推計人数の1%にも満たない。まだまだ被害は氷山の一角で、全貌は明らかになっていないと言えるだろう。
イェヨン氏は5月4日より殺菌剤で幼い子どもを亡くした父親の一人と、ロンドン、デンマークへの旅に出た。そしてロンドンのレキット・ベンキーザーの株主総会会場前で、抗議行動を行った。デンマークにも別の殺菌剤のメーカーがあり、そこでも抗議行動を行った。イェヨン氏は昨年にも被害者とロンドンを訪れ、抗議行動を行っている。
オキシー社の謝罪を受けてインタビューを受けた被害者は、「私たちは子どもを健康に育てようとして、毎日加湿器に殺菌剤を入れ、この手で4か月かけてゆっくりと殺してしまいました」と涙を浮かべて話した。
韓国では同メーカーの製品の不買運動が起こっている。
また被害者がロンドンでメーカーに対して損害賠償請求裁判を提訴する予定である。
今後はオキシー社の謝罪から、被害者救済が進むのか、果たして被害の全貌どこまで明らかになるのか、世界的にも関心が寄せられている。
関西労災職業病201年5月466号