職業性胆管がんの今
印刷会社SANYO - CYP社での胆管がん多発に端を発した職業性胆管がん事件について、 本誌2018年10月号で報告された以降の動きをまとめた。
オプジーボ治験はじまる~胆管がん労災認定者が対象~
ノーベル賞で話題となった免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ (商品名オプジーボ) の職業性胆管がん労災認定者に対する医師主導治験が、 大阪市大病院と国立がん研究センター東病院で始まった。 胆管がんに対しては、 手術や抗がん剤治療が行われる。胆管がんは予後がよくないことが一般的で、 再発したりや抗がん剤が効かなくなるということが少なくない。
胆管がんが多発したSANYO-CYPをはじめとして、仕事で1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンにばく露して発症した胆管がん患者で、そうした治療に行き詰まったケースでオプジーボが奏功したケースがあったことなどから、 医師主導治験が実施されることになった。
これによって、 治療に難渋する胆管がん労災認定者に対してオプジーボ投与という新たな選択肢ができた。 朗報だ。
「治験」 なので、 オプジーボは無償提供され、 ほかの医療費には労災保険が適用される。
詳細は、 国立がん研究センターのプレスリリースを参照されたい。
https:// www.ncc.go.jp/jp/information/pr_ release/2019/0626/index.html
ばく露終了から18年後に発症し死亡したSANYO-CYP元労働者の報告
SANYO - CYPにおける胆管がん労災認定者数は2017年度末までに18名だった。
これに、 新たに退職者のA氏が認定されたので同社被害者は19名なった。
ところが、さらに1名の発症が明らかになった。
その方の症例報告が、 日本外科学会発行の「SurgicalCaseReports」の(2019)5:65として掲載された。報告者は大阪市立総合医療センターや大阪市大病院などの医師。
https://surgicalcasereports. springeropen.com/articles/10.1186/ s40792-019-0624-7
この患者Mさんは、41歳男性。黄疸と食欲不振で入院したが、 治療のかいなく死亡した。
6年間SANYO-CYPに在籍し、1,2- ジクロロプロパンとジクロロメタンにばく露した。 離職でばく露終了となったが、 その18年後に胆管がんを発症した。
報告は今回の症例がばく露終了後長期間を経て発症したことを念頭に 「職業上の有機溶剤ばく露歴のある労働者における胆管がん発症を注意深く監視するための長期間のフォローアップが必要である」 と強調している。
離職者向けの健康管理制度と しては、「1,2-ジクロロプロパン(重量の1パーセントを超えて含有する製剤、 その他の物を含む) を取り扱う業務 (屋内作業場やタンク、船倉、坑の内部など通風の悪い場所で印刷機、 その他の設備の清掃業務に限る)」に「2年以上従事した経験を有する」者に対して、 申請に基づいて健康管理手帳を交付し、 定期検診を無料で受けられる制度がある。
しかし、 Mさんは健康管理手帳の交付を受けていなかった。
同様の元労働者は少なからずいると考えられているが、 厚労省として積極的に元労働者に対して通知することは未だ行われていないことは大きな問題と言わなければならない。
厚労省はこの件について今年4月段階で次のように答えている。
(要請) 監督署等が把握しているSANYO- CYPの従業員・元従業員らに退職後に健康管理手帳を取得して検診が受けられると言うことを周知して頂きたい。
(厚労省回答) 当該業務従事者を把握していないため、 困難である。
(要請) これまでに1,2-ジクロロプロパンの使用による胆管がんが出た他の事業所にも元労働者にこの情報を通知するよう周知して頂きたい
(厚労省回答)事業者に対して、当該業務従事者に通知させることはできないため、困難である。
オプジーボ治験のように治療手段の進展もあるので、 健康管理制度のより積極的な周知徹底が重要になっている。Mさんが健康管理手帳を取得していれば早期発見で救命できた可能性があった。
SANYO-CYP社、 発症20名に
全国の認定累計は45名(2018年度末)
前述のAさんとMさんを含めるとSANYO-CYPにおける胆管がん発症者は20名(労災認定は19名)になった。むろん一企業としては突出している。
一方、 同社以外での労災認定者数は26 名で、全国合計で45名となった(2018 年度末まで)。2017年度末時点よりも3名増加した(愛知局1,大阪局1,福岡局1)。 厚労省から提供された2018年度末における労災補償状況は以下の通り。
(201909_503)