労働組合によ る コ ンプライアンス活動は業務妨害か? /連帯労組関西生コン支部不当逮捕事件

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部は、生コンの製造・運搬を行う事業所で働く労働者を組織する産業別労働組合である。 組合員の多くは生コン関連産業の従業員であり、 彼らの働く事業所が中小企業であるため、 売り主であるゼネコン、商社からの買い叩きなど、 過当競争に巻き込まれやすい業界である。 この状況を打破するため、 事業者に対して経営協同組合の結成を働きかけ、 雇用の安定やゼネコンからの生コン買い叩きに抵抗する力を労使で培ってきた。
適正価格の収受は、運賃の適正化、強いては労働者の雇用を守り、 賃金を改善することができる。 しかし協同組合は生コンの価格上昇での利益を確保する一方、 運賃引き上げの要求に応じなかった。これに対し、生コン支部がストライキで対抗したところ、 交渉相手である大阪広域生コン協同組合がストライキを威力業務妨害と主張、 そこから権力の介入が始まった。
逮捕者が相次ぐ中、 大阪広域生コン共同組合は「警察に捕まったということは、悪いことをしたのだ」という主張を展開する。しかし何をしたのかということは一切述べられていない。 単に、 生コン支部を誹謗中傷するに留まり、 裁判の経過すら報告されない。 むしろ堂々と逮捕の不当性、 労働組合活動の正当性を主張しているのは生コン支部とその支援者である。
この一連の流れにおいて、 関西労働者安全センターとしては、 生コン支部の活動のうち、 「コンプライアンス活動」 が官憲に犯罪として認識されたことに注目してみたい。

◆コンプライアンス活動とは何か

コンプライアンスとは、 文字通りの解釈を行うとすれば「法令順守」となるが、単に法律を守るだけではなく、 社会規範や企業倫理など、企業の社会的責任全体に及ぶ範囲を守ってこそコンプライアンスを重視していると言える。
とりわけ労働安全衛生に関しては、労働安全衛生法においてもその目的条文に、「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、 責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、 快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。」と掲げられているとおり、 法は安全衛生の最低基準を定めたものではなく、 より良い職場環境を作っていくために不断の努力が求められる。 そのため、 安全衛生分野におけるコンプライアン

ス活動は、労働者の生命身体に対する危険を徹底的に取り除く運動だと言える。 現場で働く人たちにとって、 就業中は、 効率や納期などの観点から、 ついおろそかになりがちなコンプライアンス活動であるが、 労働組合が細かく指摘することで普段見過ごしがちな危険を減らすことができるため、奨励されて然るべきである。

◆関生支部が行ったコンプライアンス活動とは?

実際に関生支部が行ったコンプライアンス活動とは何だったのだろうか。 いくつか挙げてみると、 ①工事用の車両に車検済みステッカーを貼っていないため警察に通報した、 ②道路の汚れを清掃するように求めた、 といったことである。
1点目は定期的に行われるべき工事用車両の自動車検査登録制度上求められる検査が適切に行われているか確認していることを指すが、 自動車の使用によって当然発生する装置の劣化、摩耗について検査し、保安基準内に収っているかどうかは、 現場内における事故や排ガスのばく露を抑制するためにも重要な項目であると言える。 ただでさえ危険な物体である自動車が適正に管理されているかどうか確認し、 不適正な車両があることを管轄する行政機関に通報することが非難されるいわれはない。
2点目は整理整頓というあらゆる労働現場に共通する、 最も基本的な事項である。安全標語においても、 4S (整理、整頓、清掃、清潔)、 5S (整理、整頓、清掃、清潔、 しつけ) という文言が常に利用されているように、職場において必要なものが、然るべき場所におかれ、 現場が清潔に保たれ、 これらをもって職場の安全確保と労働者の健康を守ることに資することを目的としている。 工事車両が出入りする道路についても、 そこが実際の作業現場でなくても当然作業場の延長として捉えられるべきであるから、 労働者が事業所に求めてもなんら不自然なことではない。
いずれの事項も、 「少しくらいよいだろう」と軽視されがちなことかもしれないが、ハインリッヒの法則にも見られるように、重大なコンプライアンス事案1件の背後に300件の小さな「ちょっとくらい」が内在していると考えると、 その芽はひとつひとつ潰していかなくてはならないはずである。 また、 建設現場では職人が元請の監督にヒヤリヤットの報告などすることはなく、 むしろ、 監督の性格や現場の力関係から多少のコンプライアンス違反を強要されることもあるかもしれない。そのために労働組合が安全パトロールやコンプライアンス活動を行ない、 労働者の安全と健康を守ることにつながるのであるから、 軽微な不備の指摘を繰り返して業務を妨害した、 とは到底言えないし、 そもそも軽微な不備こそがいつか重大な事件につながるということを無視していることになる。
コンプライアンス活動とは、 生身の人間の、 交換の効かない身体を守るための労働組合の活動である。 この活動が阻害されるような介入は一切許されてはならない。(事務局)
(201909_503)

◆当事者である萱原茂樹さんのコメン ト
資本主義社会では、 コス トを下げることが最重要とされている。下請企業発注費や、人件費、安全を守るための適切な経費など、 目に見えにくいコストが切り捨てられている。
このような環境でさらにコンプライアンス違反を指摘することを犯罪とするならば、 違反を容認することになるのではないだろうか。