住友ゴム工業アスベスト損害賠償訴訟/原告全員勝訴の判決、 賠償額も増額・大阪地裁「タルク」由来のアスベスト被害に改めて警鐘

2019年7月19日、 大阪高裁 (江口とし子裁判長※)は、一審神戸地裁が賠償を認めなかった2遺族(肺がん)についてもこれを認め、 被告住友ゴムが主張した時効の主張についても一審判決に続いて斥ける原告勝訴の判決を言い渡した。
闘いの主体である「ひょうごユニオン住友ゴム分会」と「ひょうご労働安全衛生センター」 が中皮腫で亡くなった元労働者の相談を聴いたのは2005年クボタショック直後だった。損害賠償提訴は2013年1月22日。そして提訴から6年目の勝利判決。住友ゴムは上告せず大阪高裁判決は確定した。
住友ゴム・アスベスト訴訟弁護団は判決後、次の「声明」を発表した。

弁護団声明

2019年7月20日
住友ゴム・アスベスト訴訟弁護団

大阪高裁第3民事部(江口と し子裁判長)は、 2019年7月19日、 住友ゴム工業株式会社に対し、 石綿及び石綿を含有するタルクの粉じんに曝露し、 石綿関連疾患に罹患した生存者1名を含む被災者7名全員に対し、計約1億円あまりの支払いを命ずる判決をした。 被災者2名の請求を退けた1審神戸地裁判決(2018年2月)に比べて大きく前進した内容であり、 原告らの請求をほぼ認めたものとなっている。 この判決を勝ち得た理由として3つ挙げることができる。
一つは、 戦後まもなくの労働安全衛生行政とそれを支えた石川知福らの公衆衛生学の取組みが現在の司法によって認められたことである。本判決は、 昭和24年2月に神戸工場を調査した石川らの報告書とこれを解析した熊谷信二・産業医科大学元教授の意見書に全面的に依拠している。
二つ目は、 戦後の労働者集団の労働安全衛生に関わる地道な職場活動が司法によって正当に評価されたことである。本判決は、その活動を担ってきた正木紀通氏らの証言を引用し、また、会社による消滅時効の援用については、 退職者を組合員とする労働組合分会の団体交渉申入れを拒絶した会社の対応を不当労働行為とした最高裁判決を引用し、これを退けた。
三つ目は、 本訴訟に取り組む勇気を示された被災者本人やその遺族、 これを支えた支援者その他多くの人々の努力である。 本判決は、随所に、こうした努力をきちんと見ている判断や表現を示している。 これに対し、本判決は、会社側は、被災者らが石綿粉じん又はタルク粉じんに曝露当時、 どのような粉じん発生の防止等の措置をとったのか具体的主張はない、 としている。
弁護団はタルクの特性にまで踏み込んだ裁判所の判断に敬意を表するとともに、 住友ゴムに対してはもはや上告せず、 上告しているなら速やかに取り下げ、 潔く企業としての責任を履行することを求める。

ポイントは 「タルク」

タルク(滑石とも呼ばれる)はベビーパ ウダーの原料であるが、 その粉じんは鉱物性粉じんでありじん肺の原因となる。 また、 アスベストを不純物として含むことが多かったため、 中皮腫などの石綿関連疾病の原因となり得る。
タルクはゴム製造、製紙、農薬・医薬品製造、 ステアタイト磁器製造など多くの産業分野で利用されている。 住友ゴムなどのタイヤ・ゴム製造において充填剤としてゴムに混ぜたり、 ゴムどうしがくっつかないようにするための打ち粉として大量に使用される。
見過ごしがちのケースとしては、 溶接などで鉄板に罫書きするための 「石筆」 は滑石なのでグラインダーで先を尖らせながら使用していると石綿にばく露する可能性があり、 鉄工所労働者などが中皮腫で労災認定されている。 手術室で使用するゴム手袋を再生利用する際に「打ち粉」として使うため、 作業歴のある看護婦が中皮腫で労災認定されている。
ゴム製造などタルクによる労災について当センターでも次のような事例に取り組んでいる。

「元ゴム工場労働者大塚信太郎さん アスベスト含有タルクで悪性中皮腫/日本で初めて労災認定、石綿肺も発症 堺労基署/タルクとアスベスト関連疾患 熊谷信二/胸膜中皮腫の診断まで 大成功一」(本誌1992年4月号)
https://koshc.jp/ksrsb199204205/

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「現寸作業でタルク吸引、 悪性中皮腫に労災認定」 (本誌2000年4月号)
https://koshc.jp/2019/06/03/ksrsb200004293/
「石筆使用による石綿ばく露歴を見逃し業務外 審査請求期限過ぎて、改めて支給決定」(本誌2012年1月号)
https://koshc.jp/2019/06/02/ksrsb201201419/
「病院でのタルク使用で中皮腫を発症 元准看護師を労災認定」(本誌2012年10月号)
https://koshc.jp/2019/06/02/ksrsb201210427/
「元看護師がゴム手袋再生作業で二人目の労災認定」 (本誌2013年6月号)
https://koshc.jp/2019/06/02/ksrsb201306434/

ちなみにタルク由来の石綿 「がん」 の被害として最初に労災に認定されたのは、オーツタイヤ(泉大津市)で1951年からタイヤ製造に従事、 肺がんを発症し 1977 年に死亡した男性労働者だとみられる。 この件は肺組織から角閃石系石綿のアクチノライト、石綿小体が相当量検出されたことが決め手となり、 再審査請求によってようやく不支給決定処分(1985年) が取り消されて (1993年)、労災認定となっている。
なお、2016年に厚労省が作成し公開している 「石綿ばく露歴把握のための手引」(https://ww.mhlw.go.jp/ hou-dou/2006/11/h1102-1.html) には、その時点までのゴム・タイヤ製造、タルクに関係するばく露例が掲載されている。

労災最多は住友ゴム

厚労省が毎年発表している石綿による労災認定事業場のデータで、 2017年度まで石綿疾病で労災があった事業場について、「石綿ばく露状況」欄に「ゴム」「タイヤ」「タルク」のいずれかの単語を含む事業場を調べると、57事業場、労災認定合計数102 件がリストアップされる (表1)。
「住友ゴム工業㈱神戸工場」は合計13 件(肺がん9 (3)、中皮腫3 (1)、良性石綿胸水1)<( )は労災時効救済での認定数>で最多だ。(ただし、 この「厚労省データ」には、2010年度までの石綿肺(じん肺管理4、 管理2および3合併症)による労災認定件数は含まれず、 労災認定に至らない石綿肺は含まれない。 したがって、 石綿被害件数としては過小評価になっている)。「横浜ゴム」、「ブリヂストン」、「オーツタイヤ」 (前述のタルク由来石綿肺がん初認定例を出した泉大津工場、現・住友ゴム) といった大手企業の名が当然含まれている。 看護師の中皮腫被害の関係とみられる医療機関も三つある。

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時効認めず

石綿被害について、住友ゴム退職労働者が所属する労働組合「ひょうごユニオン」は住友ゴム工業に対して団体交渉を求めた。 ところが同社は 「退職者に団交権はない」として団交を拒否。この「住友ゴム団交拒否不当労働行為事件」 は最高裁まで争われたが、2011年11月10日付で「団体交渉権を認める」という歴史的・画期的な最高裁判決が下された。 以後日本における、 アスベスト被害を被った退職者を組織する労働組合の団体交渉権が認められることとなった(本誌2011年11-12月合併号)。
原告の中には提訴時、通常は、損害賠償請求権の時効で消滅したと見なされ得る被害者遺族がいた。しかし、裁判所は、団交を不当に拒否し続けいたずらに時間を経過させた住友ゴムが時効を主張するのは権利の濫用であると判断して、 一貫して時効を認めなかった。

昭和24年労働省調査

弁護団声明に述べられている石川知福東京大学教授の調査とは、 「昭和23年度労働衛生実態調査」(労働省労働基準局労働衛生課)に含まれる「ゴム工業に発生する職業病特に塵肺について 昭和24年5月兵庫縣労働基準局安全衛生課」のことだ。


この文献は、 故原一郎関西医科大学教授の手元にあったものを原先生の死後の遺品整理の過程において関西労働者安全センターに保管されることになったもので、 当センターを用事で訪れたひょうご労働安全衛生センター西山事務局長がこの資料を見かけ、その際この石川報告を発見し弁護団に届けたのだった。
以下に、 調査経緯が述べられた同報告冒頭「緒言」を引用する。
「タルクは従来無害と信じられて医薬品化粧品として用ひられてゐたのみならず、工業方面にも使用され、 之に因る塵肺の発生に関する報告は稀有で二三アルのみである。たまたま昭和23年7月9日 兵庫県労働衛生協会主催の衛生管理者への塵肺の講習の席上、 出席の某ゴム工業の日下茂雄氏が該工場で最近行った健康診断の際発見された不審のある三枚のX線寫真を提示して、 講師の石川知福教授に質問せられたので茲に初めてゴム工業にも塵肺の発生することを知ったのである。
この偶然の発見は無害であると信じられてゐたタルク等を使用してゐるゴム工業のみならず化粧品その他の産業にも塵肺発生の疑念を与へ将来この方面への調査報告を要求するものと考へられる。 依って兵庫労働基準局安全衛生課長中村一男と兵庫県立医科大学教授松島同蔵とが協議して労働衛生実態調査の一対象として、 ゴム工業に於ける塵肺発生の現状を知り、 以て今後の調査研究の参考に資せんが為に今回の調査を開始した次第である。
而して之は石川教授に質問が発せられたのが端緒となったのであるから、調査のすべてが同氏の手に委ねられた。 従って詳細な学術的報文はいづれ同氏から発表されるだろうが茲にその概略を報告する次第である。」
文中「学術的報文」は「タルクによる塵肺について 東京大学公衆衛生学教室 故石川知福ほか」 (日本衛生学雑誌1951年5巻3号p.17-21)であって、 これも裁判証拠となった。
この石川報告は、 弁護団声明にあるとおり高裁判決において重要視された。
さらに法廷には、熊谷信二氏(前産業医大教授) による石川報告を分析し、わかり易く、かつ、どういう意味をもつのかを解説する意見書が提出され、 当時の職場のタルク粉じん濃度がいかに高かったのかが論証された。

歴史的闘いに拍手

「石綿被害についての退職者労働組合の団体交渉権確立」と「ゴム工業におけるタルクによる石綿被害についての司法上の初めての損害賠償」 という画期的成果を勝ち取ったひょうごユニオンと弁護団、ひょうご労働安全衛生センターをはじめとする支援の皆さんを心から称えるとともに、 今後のさらなる運動の進展を祈念いたします。 (事務局)
(201908_502)

※なお、今回の高裁判決を言い渡した江口とし子裁判長は過去に「大阪建設アスベスト訴訟第一陣大阪高裁判決(2018年9月20日)」を言い渡している。
参照: 建設アスベスト訴訟弁護団HP 「再び大阪高裁で全面勝訴判決!」http://www.asbestos-osaka1.sakura.ne.jp/ news/1327/

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