泉南型アスベスト国賠訴訟・遅延損害金の起算日を巡り初の判決

ひょうご労働安全衛生センター事務局長 西山 和宏

福岡地裁小倉支部で争われてきた泉南型アスベスト国賠訴訟は、遅延損害金の起算日を巡り和解に至らず、 3月12日に判決が言い渡された。
2017年4月11日に提訴したAさん(肺がん)の事件と2017年5月23日に提訴したBさん(肺がん治療中)の事件は、 この間、 福岡地裁小倉支部で争われてきた。遅延損害金の起算日について、 原告は肺がんの発症日か遅くとも肺がんの確定診断日と主張し、 国側は労災認定日であると主張し、 約2年間に渡り争いが続いてきた。

損害が発生するのはいつか

大阪泉南アスベス ト国家賠償訴訟の第 1 陣及び第2陣について、最高裁は国の責任を認める原告勝訴の判断を行った。 これにより、大阪泉南地域にとどまらず、石綿製品製造工場で働いた労働者やその遺族が、国に対して訴訟を提起し、一定の要件を満たすこ とが確認された場合には、 国から損害賠償金が支払われることになった。賠償金の額は、石綿関連疾患の種類と症状に応じて異なるが、 国は賠償基準額の2分の1を限度として責任を負う。また、基本慰謝料に加えて、 弁護士費用と遅延損害金についても支払われる。
今回問題となっている遅延損害金の起算日について、最高裁は「不法行為に基づく損害賠償債務は、 損害の発生と同時に何らの催告を要せず遅滞に陥る」 と判示しており、泉南アスベスト国賠訴訟の判決(大阪高裁平成25年判決)では、石綿肺の場合は「(最も重い)じん肺管理区分決定日」、肺がんの場合は 「肺がんの確定診断日」、びまん性胸膜肥厚は 「労災保険支給決定日」、石綿関連疾患で死亡した場合は「死亡日」が損害の発生日としている。
ところが国は、 AさんとBさんに和解案を提示した際に、「労災認定日」を遅延損害金の起算日として提案してきた。 そのた
め原告は、 肺がんと診断されてから労災が認定されるまでの間に損害が発生していないとの見解は不合理であり、 泉南判決に従って「肺がんの確定診断日」にするよう求めた。しかし国が拒否したため、判決を迎えることになった。

原告と被告・ 国の主張

まず、 大阪高裁平成25年判決における遅延損害金の起算点についての解釈である。原告は、「石綿肺は行政上の決定がなければ罹患自体が通常は認め難く、 かつ、特異な進行性の疾患であるから 『最も重い行政上の決定を受けた日』 を損害発生日と判示した。肺がんに罹患した事実は、行政上の決定によるまでもなく、 医療機関における病理組織検査等により認定することが可能」と主張。国は、「肺がんを含めた全ての石綿関連疾患について、 その損害が最も重い行政上の決定日又は石綿関連疾患による死亡日」であると主張した。
また、大阪高裁平成25年判決では、肺がん生存原告の損害発生日を 「肺がんの確定診断日」としているが、国の主張は「大阪高裁判決がそのように判断した理由は明らかではないが、 労災認定日となる復命書の決済印の日付が判読不能のために例外的にしたもので一般論を示したものではない」と主張した。
さらに原告は、 医師による確定診断により肺がんの損害発生を認めることができると主張したのであるが、国は「確定診断のみでは、 石綿に由来する肺がんであることは明らかではない」と主張していた。

病気を発症した時から損害がある

Aさんの場合、2008年9月 26 日に 「肺がんの疑い」と診断され、11月7日に病理組織診断により「肺腺がん」との確定診断を受けた。その後、2008年12月4日に労災申請を行い、 労災認定されたのは2010年2月9日であった。肺がんを発症してから労災認定まで約16ヶ月の時間を要している。
Bさんの場合は、2014年9月24日に「右中葉肺がん」と診断され、10月15日に病理組織診断により 「肺扁平上皮がん」と診断された。2015年3月17日に労災申請を行い、 6月18日に労災認定された。 肺がんを発症してから労災認定まで約10ヶ月かかっている。原告の二人は、「肺がんと分かり、 組織検査をし、 手術をし、労災認定される前から痛みや苦しみはあった」 「労災請求が認定されないと損害が発生しないとする国の主張は誤りである」 と訴えてきた。
これまでにも、 全国各地の裁判所に提起された泉南型アスベスト国賠訴訟において、 肺がんや中皮腫の治療中の原告について、 遅延損害金の起算日を巡る争いが続いてきた。 しかし、 被災者である原告には、時間的な猶予は無く、 国の誤りを指摘しつつも、 泣く泣く国の提案する内容で和解するケースが続いてきた。
今回もBさんは、 今年の年明けに肺がんが再発し、2月28日に急きょ手術を受けることになった。 そのため、 早期の解決を希望され、3月12日にやむなく国の提案に応じて和解することを決断されたのであった。

起算日は肺がん発症日

遅延損害金の起算日について裁判所は「原告 (Aさん) について肺がんの発症が認められる平成20年9月26日と認めるのが相当である」と判断し、「肺がんについては、 損害の発生を認定するに当たりじん肺管理区分認定や労災保険給付決定な どの行政上の決定が必要であるとは認められない」 として国の主張を全て退けた。
判決後の記者会見において原告のAさんは、 「労災認定日はあくまで事務処理が終わった日。 病気を発症したときから体調不良や手術による痛みはあった。 認められて嬉しい」 と語った。 これまでの泉南型国賠訴訟においては、 遅延損害金の起算日を労災認定日とする和解が定着しており、 今後の訴訟に影響を与えると考える。
判決の翌日、 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」 と全国各地のアスベスト訴訟弁護団との連名で、厚生労働省と法務省に対して「控訴しないこと」等を求める要請を行った。 当日は、 遅延損害金の起算日をめぐり神戸地裁と広島地裁で争いが続いている原告の二人も出席し、 早期解決を訴えた。
神戸地裁の原告Cさんの場合、 2012年3月に肺がんが疑われ、 病理組織検査の結果4月25日に「肺腺がん」と診断された。労災申請を行ったのは2015年1月19日で労災認定されたのは2015年6月9日であった。 Cさんは、若い頃に石綿製品を製造する会社に勤務していたが、僅か3ヶ月であったために肺がんの原因が石綿だと気付かなかったのである。国の主張によれば、Cさんの場合は肺がんを発症しても約3年間は損害が発生していないことになる。
要請行動で不合理さを訴えたが、国は3 月25日に福岡高裁に控訴した。治療中の原告をいつまでも苦しめる国の対応に怒りを覚える。 国の誤りを正すためには正しい判決を積み重ねるしかないが、 原告には時間の猶予はない。 今後の動きに注目していただきたいし、更なる支援をお願いしたい。
(2019/05_499)

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