MOCAによる膀胱がん、7人が労災請求/オル ト- トルイジン取扱業務は健康管理手帳の対象に

本誌2018年9月号で、 静岡のイハラケミカル工業株式会社 (以下、 イハラケミカル) でのMOCAばく露によると思われる膀胱がんが多発した件や化学物質対策について、9月28日に厚生労働省に申し入れし、 話し合いを持ったことを報告した。
その後、この申し入れ事項の関連で、進展があったので報告する。
申し入れの一番の重要かつ優先事項は、静岡県のイハラケミカルの元従業員ら12 人が膀胱がんを発症しながら、1人も労災請求していないことだった。労災の可能性が高いにもかかわらず、 健康保険で処理されることは保険制度上問題であり、 また労災認定されなければ、 労働基準法施行規則第35条別表の職業病リストに掲載されず、健康管理手帳の対象にもならない。 話し合いでは、 厚労省にことの重大性を認識してもらい、被災者に個別通知を行って労災請求を促すことを検討するということになった。

7事業所 17人の膀胱がん

その作業の進行状況を心配していたところ、 10月下旬に厚労省がMOCAに関する通知を出し、 またMOCAによる膀胱がんの発症者が全国で17人いたとの情報が入ってきた。
10月19日付け通知「3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA) による健康障害の防止対策の徹底について」は、MOCAの製造・取扱事業場に対し、特定化学物質障害予防規則に基づくばく露防止措置の徹底、健康管理の徹底を求め、記録の保存期間を延長する内容だ。その通知に 「MOCAの取扱事業場に関する膀胱がん発症者の調査結果」 が参考資料として添付されていた。それによると、労働基準監督署がMOCA取扱事業場538ヶ所を調査し、7事業場で在職者5人、 退職者12人の合計17人の膀胱がん有病歴者があったことが報告されていた。 イハラケミカル以外の被災者の存在はその時初めて公表された。毎日新聞は、10月25日「化学工場ぼうこうがん17人」と大きく報道した (新聞記事参照)。

これを受けて、11月14日、実際にイハラケミカルの被災者への連絡を担うはずの静岡労働局へ申し入れを行った。 局の担当者に、 このまま職業がんの実態が埋もれないためには、 労災認定作業が必須であることを理解してもらった上で、 被災者への個別連絡を確実に行ってもらうためだ。
対応した局の健康安全課の担当者の話によると、 労災補償課が実行するべく動いているが、 局では被災者の連絡先は把握していないため、事業主に協力を要請し、その返答を待っているということだった。要請からすでに1か月半が経過しており、 あまり積極的とは感じられなかった。またイハラケミカル以外の膀胱がんが発生した事業所に対しても、 管轄の局が同様の対応をしているはずということだった。一方、防止対策については、 イハラケミカルでは膀胱がん発覚後、 すぐに特殊健康診断に膀胱がんを調査するための尿検査を加えて、 原職・退職者に対して半年ごとに健康診断を行い、その結果について、受診者や有所見者の数値と言ったデータを、 局に報告しているということだった。

こっそり 35条検討会も開催

また通達発出と同じころ、厚労省が労働基準法施行規則第35条専門検討会を10 月16日に開催していたこともわかった。9月28日の話し合いの時点では、35条検討会の日程はまだなにも決まっていないと言っていたが、 そのわずか半月後に検討会を開催していた。検討会は11月22日にも開催され、 30日には報告書を公表した。 オルト-トルイジンによる膀胱がんを35条の別表に追加するのが適当との結論を出した。
さらに12月3日、厚労省は「平成30 年度第1回労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会」を開催し、健康管理手帳の交付対象業務に、 オルト-トルイジンを取り扱う業務を追加する方向で検討することになった。ただし、MOCAについては、 労災認定の作業が進んでいないため、 今後の状況を踏まえて改めて検討されることになった。 これは、 厚労省が被災者に労災申請するように早い時期に、 適確に指導していれば、 労災認定の業務がもっと早く進んだ可能性は高かっただろう。 また検討会資料の中に、 発症者17名のうち労災請求は5名との記載があった。 我々との話し合い以後、 厚労省が個別通知を行うと事を検討していたが、 実施された結果ということだろうか。
それを受けて、毎日新聞は2019年1月29日、「ぼうこうがん 化学工場で発症5人、労災申請」という記事を掲載した。続けて同日時事通信は厚労省への取材で7人が労災申請していたとの記事を配信した。
これらの情報は、 厚労省はいつのまにかホームページに掲載していたのみで、 要請をおこなった我々にはまったく何の連絡もなかった。
労災請求があったとの資料が公表されたのは12月だが、現在までにMOCAによる膀胱がんの業務上外の検討会は開かれていない。
膀胱がん発症者17人の内7人しか労災請求していないのは問題であり、 今後も厚労省への働きかけ等を行っていく予定である。
『関西労災職業病』2019年2月(496号)

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