トヨタ過労自殺事件、高裁で遺族が勝訴 -業務起因性を認める判決

(2003年9月機関誌より)

7月8日名古屋高裁にて、トヨタ自動車の係長が過労でうつ病を発症して自殺した事件の労災認定を争う訴訟が約15年を経て解決した。判決は、労働基準監督署側の控訴を棄却し、業務起因性を認めた。
トヨタの係長であったAさんは、35歳であった昭和63年、飛び降り自殺を図って亡くなった。その少し前から仕事が多忙なことなどの愚痴を聞いていた妻は、当然ながら労災保険を請求したわけだが、豊田労働基準監督署はうつ病発症と業務との因果関係を認めずに不支給処分を決定し、審査請求後裁判が提訴された。
この訴訟の第一審判決については、平成13年6月18日に妻である原告が勝訴し、労災認定の判断基準について画期的な内容でもあり注目された。相当因果関係の判断基準で、心身的負荷の強度を判断するに当たって、判断指針では同種の労働者を基準に、被災者の脆弱性を判断するものとなっているが、判決では、「同種労働者の中で、その性格が通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格傾向がもっとも脆弱である者を基準とするのが相当である」とし、精神障害の判断指針の見解を採用することができないとした。
「同種労働者を基準とする」のは、なにも精神障害の判断のみではなく、非災害性で発症した腰痛や、頸肩腕障害などでも同じであり、そのために、同僚が他に誰も発症していないということを理由に労災認定が阻まれてきた。この「同種労働者」というのも、実際には、職場の様々な労働者の中で、年齢、身体的特徴、仕事内容、量など被災者と全く同じ条件というのはありえないことだ。その判断基準に対して、その考えを採用できないとした上で、「同種労働者の中で、その性格が通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格傾向がもっとも脆弱である者を基準とするのが相当である」との判断は、まさにそれら被災者を救済する画期的なものであった。
労働基準監督署は控訴し、Aさんのうつ病発症は、業務のためではなく本人の脆弱性によるものとの主張を行なった。二審では、判断指針の見解を採用できないとした点について、これは、「判断指針が想定する同種の労働者の具体的な内容が、性格やストレス反応性につき多様な状況にある多くの人々についてどの程度の脆弱性を基準としているのかが明らかではないことから生じた誤解」とし、同種労働者の中でもっとも脆弱な者を基準にするというのは、判断指針の見解と大差ないとした。そのうえで、業務上の心身的負荷を認め、業務起因性が認められると結論づけた。
もっとも脆弱な者を基準とする判断に注目が集まっていただけに、二審判決はなんだかごまかされたような感じである。この判決をもって、指針の運用にどれだけの影響が与えられるかは疑問である。
労働基準監督署側は、上告を断念、判決が確定したわけだが、ともかく認定を勝ち取ることができて遺族の方々にはよかった。しかし、明らかに仕事に疲れていた夫が飛び降り自殺したことは、仕事のために違いないのに、その認定を受けるために裁判までやって15年もかかるとは、耐え難い状況であったと思う。労災保険は支給されるが、その間の苦痛に対して行政は何の償いもしてはくれない。

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